第23話 万歳
私は首を傾げるゲルハルト侯爵に、懇切丁寧に、国際的な裁判制度と特許や著作権などの知的財産権を創設した場合のメリットについて、事前に調べておいた彼の領地の特産品である精霊馬車を例にとりながら説明した。
初めは良く分からない、という顔つきをしていたゲルハルト侯爵だったが、何度か説明していくうちにその利点がよく分かったらしく、むしろ魔導大国であるガルタニアにとってはこれを取り入れることがその発展にはかなりのプラスになると確信したようで、最終的には出来る限り早く司法改革に取り組みたい、とまで言ってもらうことができた。
人間、やっぱり利をきっちり提示されると円滑にことが進むのである。
*
「と、言う訳で一年は無理でも五年以内にはどうにかする、というところで妥協してもらいました。尚、魔国からの人材派遣については、むしろあちらから手が足りないからとお願いされまして、近く受け入れを行いたいそうです」
目の前には腕を組みながら真剣な表情をしているフェラード氏がいた。ガルタニアでの交渉の顛末を紙媒体にまとめた上で分かりやすく話したつもりなのだが、これで良かったのか実に不安である。彼の表情からはその心のうちが今一推し量れず、何とも言えない。
と、フェラード氏が突然、椅子から立ち上がってこちらに向かってきた。
やばい、怒られるか。
と思ったら、
「よくやってくれたね!キリハ!!」
と言いながら私の手をとってぶんぶん振って来た。目を白黒させながら疑問の表情をしている私に、フェラード氏は笑顔で言う。
「いやいや、なんだいその顔は。きっちり仕事をこなしてきてくれた部下に対する労いのつもりだったんだけど……なんか変だった?」
労い……つまり、私の仕事は一応の成功と受け取ってもらえたと考えていいのだろうか。
「勿論さ。僕としては一年っていうのは適当に言っただけの数字だったことだし……五年ならそんなに変わらないからね」
どうやら、期間をすこし長めにしてしまったことも問題ないようである。
そのあと、魔王陛下にも報告をしたのだが、その反応はフェラード氏とほとんど同じようなものでとても誉められた。
意外と私、この仕事向いているのかもしれないと思った。
*
魔王城の廊下を歩いていると、魔王陛下と宰相閣下が道端で話しこんでいる場に遭遇した。
二人とも大概のことは心配しない主義だが、今回ばかりはそうではないらしい。
どうにも険しい顔でああでもないこうでもないと話しあっていた。
会話の詳細なところは分からないがその端々に「魔法大陸」という単語が差し込まれているのが聞こえたのでおそらくそれが会話の主題なのだろう。
フランドナル大陸以外にも大陸があるらしいというのはセーラからも聞いていたが、その名称については知らなかったから少し興味がひかれた。名称も魔法大陸である。なんというか魔法に満ち満ちた場所なのだろうと言うことが想像できる。私にも魔法が使える素養は一応あるだろうと言う話をこの間フェラード氏がしていたから、余計に気になった。
今度フェラード氏に聞いてみて、もしいける場所なら連れて行ってもらおうと思ったのだった。




