第3話 終焉と訪れ
日常が終わるあれです。
時間が止まればいいと思った。
世界は無常に流れて、何時も自分を置いていく。
楽しい時間を持続させたい。その瞬間を繰り返したい。
それに飽き果ててもなおも留めておきたい瞬間があるのだと。
それを失い、その先に待ち受ける未知が恐ろしい。
そういう不安は誰でも持ち合わせているはずだ。
まして学生なら、進学や就職なんかの環境が変わる時が見えてくるから尚更だろう。
今いる環境が心地よくて、違う世界に足を踏み入れるのを躊躇う。
失いたくない黄金の記憶をいつまでも留めておきたい。
いつ終わるとも分からないこの今を、何としても守りたくて。
かなわない願いだと知りながら、武藤和宏は屋上の上から黄昏に染まる空を見ながら祈らずにはいられなかった。
「じゃあおまえ、たとえば自分の人生を小説だと考えてみろ」
ふと、そんな言葉が眼下から聞こえてきた。
声の主はクラスメイトの遊佐司狼のものだ。
「漫画でもゲームでもなんでもいいが、とにかく一人称語りで進む長編だ。自分をその主人公だと考えろ」
問いを投げかけられているのは、同じくクラスメイトの藤井蓮だ。
「自分が綴ってる小説は、実際のトコ面白いのか?主人公としてお前はキャラがたっているのか?」
司狼は突拍子もないことを言う奴、所謂変人の部類に入ると和宏は思っている。
少なくとも一般人とは少し離れたところにいるのは事実だろう。
そう思いつつ、和宏も司狼の言葉に耳を傾ける。
「自分がやらなくても、ほかの誰かがやるような人生なら生き続ける意味はないだろ」
誰でも選べる簡単な道では満足できない。
己は己なのだから、自らの道を探し出したいということだろうか。
「この人生、選択肢があるように見せかけて、実は一本道なのかもしれないってな。なんてゆーかな、デジャヴるんだよ。前にも読んだことがある気がするんだこの人生」
既知感。既に知っているという感覚。この男はそれを持っているというのか。
世を生きる何人かの人間が、何かのきっかけで芽生える感覚なのは確かだろう。
しかしこれは、この世界の法に近きものが取り付かれる呪いのようなもの。
61年前出会った黄金の獣は、その資質があったためこの呪いを患ってしまった。
彼の蛇の親友であったことがその大きな理由だろう。
そしてここに、同じような呪いを賜った者が現れた。
つまり、蛇の代替が機能し始めたことにほかならない。
「もう、終わるのか。始まりが近いんだな」
知らずのうちに和宏は声を漏らす。
終わるとはこの仮初の日常が。
始まるとは血と狂気の恐怖劇が。
屋上を見ると、先ほどまで語り合っていた者たちが殺し合っていた。
普通、素手の喧嘩には限度がある。
武器となる手足がイカレれば、続けられなくても当然だ。
しかし、骨が折れ、皮膚が裂けてもなおも潰し合う二人。
「楽しいなぁ」
「どこが、だよ、クソっ!」
この行為を楽しいという司狼。
それを毒づく蓮。
今日、この瞬間に藤井蓮が愛した刹那が武藤和宏の目の前で崩壊した。
それを見て和宏は屋上から姿を消した。
時が止まればいいと思った。
仮初の日常が心地よくて、それを終わらせたくなくて。
それは自分が抱いた渇望と少し違うが、こういう時にこそ発揮されるべきだと和宏は思っていた。
しかしそんなことは出来なくて、また世界は彼の思惑を通り越して過ぎ去っていく。
夕暮れの街を和宏は歩いている。来たるべき日が近いのならゆっくりとはしていられない。
連中が集まり、動き出すまでまだ時間はあるだろう。しかし、その時まで悪戯に時間を過ごす訳にはいかないだろう。
戦争が始まる。先の大戦の続きが立った十数人によって引き起こされる。
盟約通りになれば、自分たちもほぼ確実に巻き込まれるはずだ。
そうなった場合の戦力を集めなければならない。そのために彼らにもこの仮初の生活を終わらせてもらう他ない。
「ん?」
街を歩いていた和宏を唐突に違和感が襲った。
周囲に人の姿はない。唯一確認できるのは前から歩いてくる少女の姿だけだ。
だがコレはどういう事か。大人数が押し寄せたような、とてつもない質量が向かってくるような感覚。
そう。この感覚を和宏は知っている。何十、何百という魂をその身に蓄えた逸脱者。
その一人が今、目の前に迫っている。
―――予定よりもずいぶんと早い
兆しが見えたとはいえ、開戦はもうしばらくは先だと思っていた。
「こんばんは。あなたはアジ・ダハーカの眷属で間違いないかしら?」
走行している間に少女が目の前に迫っていた。
「そう云うお前は誰だ?見たところ奴らの仲間みたいだが、お前は見たことがない」
「仲間、ね。そう捉えてもらって構わないわ」
帰ってきた言葉から、先ほどの考えが間違えじゃないことがわかった。
「今日は挨拶だけ。いずれみんなが揃ったらまた合うでしょうね。その時は精々引き立て役をよろしくね」
そう言うと少女は去っていった。彼女の言葉を信じるのなら時間はまだ残されている。
ならばそれを最大限に利用して、体制を整える他ない。
「それにしても引き立て役か。舐められたもんだな」
彼女たちは自分の掲げるものが、至高だと信じて疑わないのだろう。
自分たち以外は所詮おまけだとでも言うかのような。
だがそれと同じく、和宏も自らが目指す者こそ至高だと信じている。
故にどこまでも駆け上がろう。自分はそれしかできないのだから。
いくつもの思いがぶつかり、壊れ、崩れ、今まであったものが形を変えていく。
今を変えるために、今を守るために、なくしたものを取り戻すために、またなくさないために。
これらの思いを見つめ蛇は高らかに宣言する。
「それでは、此度の恐怖劇をはじめよう」
原作の冒頭です。錬炭視点じゃなくてまた違うオリキャラ登場。・・・こんなに出して大丈夫かよ。
今回のキャラは色々と訳知りです。ほかのオリキャラたちを戦闘に参加させるたものキーにします。
というかうまくできるようにします!!