・First・
あたしは別に病弱な子なんかじゃなかった。
むしろ、いつもドタバタと遊びまわっていた。
男子と見分けが付かないくらいの元気娘。
それがあたし、村上 阿華音だった。
あたしはその日、なんだか外をブラブラしたい気分になったから、あてもなく出かけた。
天気はよく、降り注ぐ日差しが気持ちいい。
「たまにはこーやって散歩するのもいいなぁ〜」
ぐっと背伸びをしながら呟いた。
空には雲が浮かび、雀が飛んでいる。
『平和』という言葉がピッタリだった。
そのままあたしは街へ出てみた。
やはり休日は人が多い。
とちあえずコンビニに・・・とだけ思っていたのに、人ゴミに流されてしまいそうになる。
「やっぱ外なんか出るんじゃなかったかも・・・」
自分の行動に早くも後悔し始めていた。
―――――その時だった。
さっきまでうるさく騒いでいた人々の声が消え、静寂に包まれた。
え・・・?
あたしは不安になる。
何が起こっているのだろう?
全てが静かだった。
この世界にはあたしだけ、というような感覚に陥る。
「おい」
声がした。
数十秒だけのはずだったのに、聞こえてきた声がとても久しぶりに聞いたように感じる。
それは正面から聞こえて来ていた。
あたしは目を凝らす。
人ゴミで姿が見えない。
最初に見えたのは黒いキャップ帽。
それから黒い髪。
男だ。
そこまででやっと分かった。
女にしては背が高過ぎる。
男にしては少し長めの髪が風で揺れていた。
声の主の姿が見えてくる。
黒いTシャツにGパン。
あたしはソイツをじっと見る。
するとソイツが顔を上げて、あたしと目が合った。
ゴゥッ・・・
強い風が吹いた様な音がした。
次の瞬間には、聴覚が戻っていた。
また耳障りな大勢の騒ぎ声に包まれる。
突然の出来事に、あたしは混乱しきっていた。
「・・・!?え!?何なの・・・!?」
一人戸惑っていると、ソイツが近付いて来た。
あたしはハッと顔を上げる。
だがソイツは何も言わなかった。
「・・・・・」
半笑いを浮かべた顔で、あたしの横をすり抜けようとした―――
瞬間だった。
ソイツが、ボソリと言った。
「―――――アンタ、もうすぐ終わるよ」
―――――え?
何?何が終わるって?
「ちょ・・・ちょっと待ってよ!」
あたしは瞬間的に、ソイツの腕を掴んでいた。
いつの間にかあたしの顔には、冷や汗が浮かんでいた。
ソイツはやはり、笑っていた。
「クスクス・・・・・。知りてぇか?」
心底楽しそうに笑う。
あたしは唾を飲み込み、
「・・・・・知りたい」
嫌な予感がした事に、あたしは気付かないフリをした。
ソイツに連れられて来たのは、狭い路地裏だった。
でもそんなに人気の無い場所ではなく、大勢の騒ぎ声は聞こえたままだ。
あたしは仁王立ちしたまま、ソイツを睨む。
「―――で?何なの?一体・・・」
そう言うと、壁にもたれたソイツは、またクスクスと笑う。
何故かとても癇に障る。
あたしはイラつき気味に聞く。
「ねぇ!早く教えてよ!」
「―――後悔するかもしんねぇぜ?」
「後悔・・・?」
益々意味が分からない。
一体あたしが何をどう後悔するのだ。
「・・・・・後悔なんかしない」
「・・・フ。いい眼だ」
偉そうに腕組みをしながら、『 それ 』は告げられた。
「―――――アンタ、
死 ぬ
んだよ」
頭が、真っ白になった。