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5 安全カミソリは、安全ではない話

(ん?あれは、何だ?)

 通勤途中にあるゴミ捨て場に黄色い何かが見える。

 近づいてみてみると、黄色い紙に「回収できませんでした」と大きな文字が見える。

(あぁ、ゴミ収集車が置いていったのか。誰だよ分別ちゃんとできてないやつは。分別くらい、そんなに難しいことじゃないだろう。)

 そのまま通りすぎようとしたが、何か気になってしまい、更に近づいてよく見てみると、ビニールの横から見覚えのあるT字の安全カミソリが、うっすらと見える。


(!これ俺が出したゴミだ。いや、ちゃんと分別はしたぞ。なんで回収されないんだ?おかしくないか。)

 そう思いながら、周りに誰もいないことを確認。黄色い貼り紙を隠すように、ゴミを回収し、急いでアパートに逆戻りした。


 実は先日の可燃ゴミの日に、アパートの大家さんからゴミ出しについて、お叱りをいただいたばかりなのだ…。

 前回は「引っ越してきたばかりだから仕方ないね」で許してもらったが、これが知れたら。まずいぞ。


 私の名前は、将生。46歳。

 人事異動で東北営業所に赴任となり、この春から単身赴任をしている。

 引っ越してきて、まだ2週間。

 1人暮らしは初めてだったので、引っ越してきた当初は不安だったが、家で妻の家事も手伝っていたし、何とかやれている。


 アパートの玄関に回収してきたゴミを置いた。

 分別できていないと判断された理由が気になるところだが、帰ってきてから考えよう…

 そう思いながら玄関のドアを開けると、ゴミ袋を持った大家さんと鉢合わせしてしまった。


「おはようございます。今日も良い天気ですね。今から仕事?気を付けていってらっしゃい」

「は、はい。おはようございます。いってきます」

 動揺を悟られないように自然な感じで挨拶を交わし、歩みを進める。安心して、ほぅ…と息を吐きかけた後ろで

「あらぁ?今朝の違反ゴミがなくなってるわね…誰だったのかしら」

 という大家さんの呟きが聞こえ、思わずビクッとしてしまった。

(さっき回収しといて良かったぁ)

 とりあえず、気をとり直して会社に向かうことにした。


 …帰宅後、今朝のゴミの分別について改めて考えてみるが、理由が思い当たらない。

 単身赴任前にも、ゴミの分別を手伝っていたが、良く思い返せば、自分で判断するというより、妻の指示を聞きながら分別していたことを思い出した。

(うーん、うちの奥さんに聞いてみるか…)


(あー、こんなこと電話して聞くと、「普段ちゃんと家のことやらないからでしょ」とか絶対何か言われそうだなぁ…)

(電話するの面倒になってきたなぁ…やめるか?いやいや、また今朝みたいなことがあったら、俺がゴミの分別できない男認定されてしまうじゃないか。それは面倒なことになりそうだから困る。うん、将生よ、ここは我慢して妻に聞いておこうじゃないか)

 と自分に言い聞かせて、妻の幸子に電話をかけた。


「はいはい、パパ?どうしたの?珍しいじゃない、あなたから電話くれるなんて。赴任早々、何かやらかした?」

「ゔ…何だよ。電話出たとたんに」

「だって妻が送ったLINEを1週間も既読無視する夫から電話きたら、普通そう思うでしょうよ」

「だーかーら、ごめんて。あれは仕事が忙しくってLINE見る暇なかったんだ…」

「パ◯ドラは毎日してるのに?」

 話し切る前に言葉を被せて正論を言われてしまい、ぐぅの根もでない。

 悔しいが、とてもじゃないが口では妻には勝てない。


「まぁ、いいわ。なんかあった?一人暮らし満喫してる?」

「満喫も何も、新しい仕事に慣れるのに毎日精一杯だよ。クタクタになって帰ってきても誰もいないし、家の風呂は狭くて足も伸ばせないし…」

「あら?いい大人がホームシック?ププッ」

「もぅ、うるさいなぁ。いいから、本題に入るぞ…実は今朝の話なんだが…」

 と今朝の違反ゴミの話をした。


「はぁん?T字カミソリを可燃ゴミに出したってぇ?」

「そうだよ、安全カミソリなんだから可燃で出すのは当然だろ?単身赴任前に、俺、よくゴミの分別手伝ってただろ?可燃ゴミと不燃ゴミの区別くらい常識だし、それくらいはわかるさ」

「……」

「…?マ、ママ?どうした?なんで黙ってるの?」

 や、やばい幸子が何か怒ってる。俺、何かマズいこと言った?


「将生さぁ、いい大人が何やってるの。安全カミソリは、安全じゃないでしょ?危険ゴミでしょ?これ、普通に考えればわかること」

「まさか、刃をむきだしのまま、可燃ゴミに混ぜたんじゃないでしょうね?」

「…だって安全カミソリだし…」

「だーかーらー!そういう意味の安全じゃないんだってばー」

 その後、妻から怒涛の説教をくらい、自治体ごとにゴミの分別は異なること、カミソリは新聞などにくるんで不燃ゴミとして捨てるのが一般的だと教わった。


「収集車の人たちが怪我したらどうするの?前にネット記事で読んだことあるんだけど、実際にマナー違反のゴミで怪我する職員も多いんだってよ」

(そうなんだ。全然しらなかったよ。そんなこと)

「…将生ー?将生ってば、聞いてるの?」

「あ、ああ。聞いてるよ。いや、俺、多分、今日この話聞いてなかったら可燃ゴミで出し続けてたと思うから…もしかしたら誰かに怪我させてたかと思うとゾッとしちゃってさ…」

「わかったら良いのよ。まぁ、聞いてくれて良かったわ。今朝のゴミが回収されなかった理由はそれだろうから、ちゃんと分別して出すのよ」

「わかった。悪いな、家でちゃんと出来てると思ってたけど、全然ダメダメだ」

「まぁ誰でも初めてには失敗はつきものだから、次、気をつければいいのよ」

「単身赴任で家事力アップしたら、家に帰ってきた時、私が助かるから、まぁ頑張ってくれたまえ。あ、キャッチ入ったから、またね」

 私が落ち込んだのを察して、トドメの一言は言わなかったらしい…。

 さすができる妻、幸子。よく分かっている。


 次の日の朝、大家さんにゴミの分別表について聞いてみた。

 幸子から「分別表もらってないの?大家さんに聞いてみたら?」と言われたからだ。

「あれ?引っ越した時に渡してなかった?ごめんなさい。今度、町内会長さんに余ってないか聞いてみるから」

 と大家さんには平謝りされた。

 どうやら、この地区では町内会を通して、年度はじめに配布されるものらしい。


 後日、手元に届いた分別表を確認してみるとカミソリは…不燃ゴミだった。

(やっぱり違反ゴミだったんだな)

 知らなかったし、思い込みもあったので、仕方がなかったと自分を慰めるが、凹むものは、凹む。

 どうやら、うちの地区は、ゴミ置き場に設置してある筒状の入れ物に常時捨てられる仕組みになっていると書いてあった。

 他にも缶の出し方など、自分が住んでいた地域とは異なる部分があることも知った。

 分かった気でいたが、何も知らないのと大して変わらない状態だったと、今は理解している。


 年齢を重ねると、ものを知らないことを素直に知らないと言いにくくなるが、知ったかぶりはよくないなと改めて思った。

 始めたばかりの単身赴任、これからも色々ありそうな予感がするが、分からないことを正直に『分からない』と聞ける人が身近にいるのなら、この先も何とかやっていけるのではないか…とそう思えた。


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