2 縮んだセーターの理由
これは…子供用のセーター?
いや、元は大人サイズのカシミヤのセーターだったはずだ。
そう、私のお気に入りで、とっておきのお洋服・・・だったハズのもの。
いつもどおり洗濯機に入れて、いつもの洗剤と柔軟剤で洗濯をしたのだ。
脱水が完了したので、さて干そうかと取り出したら、セーターは半分の大きさになっていた。
・・・・何がどうなった。どうしてこんなことに。お気に入りのカシミヤのセーター、高かったのに。
あまりのショックで頭の中が真っ白になった、セーターを持つ手がブルブル震える。
私の名前は梨花。19歳。大学生だ。
今年の春からアパートを借りて、一人暮らしをしている。
出身は関東なのだが、色々と縁があって、東北にある大学を選んだ。
3月に引っ越してきた頃は、たくさんの雪に驚いたものだ。
それでも、昨今の温暖化の影響で、近頃は雪が少ない冬も多いらしい。
この話は、同じ大学に地元から通っている通称エッちゃんこと悦子ちゃんから聞いた話だ。
暖冬とはいえ、関東出身の私にとって、東北の寒さは予想以上に厳しかった。
ともかく何を着ていても、何をしていても寒い。
外出中はもちろんのこと、アパートにいても床からジワジワと寒さが上がってくる。
お洒落は二の次で、ホッカイロとコタツが手放せない日々。
そんな私の新生活で、お洒落と防寒の両方を満たしてくれる装備が、カシミヤのセーターだった。
このセーターは、合格発表の日に自分へのご褒美として買ったもので、青空を彷彿とさせるスカイブルーに一目惚れした。
カシミヤとしては比較的購入しやすい価格だと思うが、アルバイトもしていない高校生にとっては、かなり勇気がいる高級品。
しかし、品物は、お値段以上で、なめらかな着心地とシャツやロンTと合わせると、シンプルながらお洒落に見せてくれる機能性に虜になった。
洗濯の仕方が良く分からず、これまではクリーニングに出していたのだが、さすがに毎回というわけにもいかない。
節約のためにも今回は自宅でお洗濯しようと思い立ち…そして、冒頭の場面に戻るというわけだ。
「...はいはーい。みんな静かに!今から実習に入るから、説明を良く聞いてよー。」
セーターを片手に、呆然と立ち尽くしていたはずだったのに、どこかで聞いたことがある声にハッとして周りを見渡すと、いつの間にか真っ白な空間の中にいた。
目の前には、授業風景が広がっている。これは…調理室?
(ん?この人…どこかで見たことがあると思ったら、ミワ先生だ!)
ミワ先生は、中学校の時の家庭科の先生だ。
身長が152センチと小柄で、当時は新卒ホヤホヤだったこともあり、生徒からはミワちゃんと呼ばれていたことを思い出す。
時折、アホな男子生徒がふざけて先生をからかうと、顔を真っ赤にして怒るのだが、それが全然怖くなくて、むしろ可愛らしいと感じてしまう、そんな先生だった。
「はい、じゃあ家から持ってきた洗濯物出してー。まずは洗濯表示のタグ探して。襟とか脇のあたりにタグついてるからねー。はい、そこ男子、ふざけてないで、ちゃんとやる!」
ミワ先生の説明は続く。
「セーター持ってきている人が多いけど、洗濯表示もチェックしないで洗濯機に入れちゃうと、縮んで着れなくなっちゃうからね。これ覚えておいてねー。」
(ぐっ…、それ、今の私のことじゃない。中学の家庭科で勉強してたなんて…記憶に全くないわ。)
「いつもはお母さんに洗濯してもらってるんだろうけど、洗濯機なんて便利な機械があるんだから、冬休みとかさー、たまには自分で洗濯とかしてみなー。何にもできない人になっちゃうよ。」
(ぐっ…、それも今の私だ。さすがミワちゃん、未来を見通せる能力までお持ちでしたか。)
ミワ先生による洗濯表示の説明は続き、結果として、『セーターを洗濯機で洗う時は、①綺麗にたたんだ状態でネットに入れる、②おしゃれ着用洗剤を使って手洗いモードで洗う、③軽くシワを伸ばして、日陰で干す』この3ステップを学ぶことができた。
(何にもしないで洗濯機に放りこんだ自分がアホだったわ。そりゃ、セーターも縮むわ。)
せめて、洗濯する前に母親にLINEの一本でも送って聞いておけば…って今更思う。
ここまで来ると、セーターが縮んだことよりも、自分がいかに物を知らないで育ったのかという事の方がショックだ。いや、だがしかし…。
(この3ステップをきちんと学んだからには、セーターを縮ませることなんて、もう絶対にないわ。)
決意を新たにショックから立ち直ると、そこはいつもの洗面所だった。
縮んだセーターは、もう元には戻らない。でも…
(冬物セールで新しいカシミヤのセーター、また買っちゃおうかな。)
「次は大事に着よう。」




