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張り合いがないから  作者: 双鶴


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12/12

11話

都市の混乱はまだ収束していなかった。駅前の群衆は出口を求めて押し合い、道路は渋滞で埋まり、病院は悲鳴に満ち、学校や商店は人々の不安で溢れていた。金融機関には列が絶えず、宗教施設には祈りが集まり、文化の場は閉ざされ、情報は断片化していた。都市全体が恐怖に覆われ、秩序は崩壊し続けていた。


そのただ中で、室井は歩いていた。彼は自らが仕掛けた「群衆事故の演出」を終わらせるために、静かに近くの交番へ向かった。祭り会場から最も近いその交番は、避難者でごった返していた。人々の叫びと泣き声をかき分け、室井は扉を押し開けた。


「自首します。」

制服警官が振り返り、目を見開いた。

「何の件で?」

室井は淡々と告げた。

「祭りでの群衆事故。出口を塞ぎ、信号を狂わせ、恐怖を広げたのは私です。」


交番は一瞬、静まり返った。すぐに上司が呼ばれ、室井は警察署へ移送された。取調室の蛍光灯が白く机を照らし、記録用紙が広げられた。刑事が問いかける。


「どうして自首する気になった?」


室井は少し間を置き、静かに答えた。

「張り合いがなくなってきたから。」


刑事は眉をひそめる。

「そうか、警察官という仕事に張り合いがなくなって事件を起こしたか。」


室井は首を振る。

「違うんです。追い詰めてくれないから、もう無理だと思った。」


刑事は記録用紙に視線を落としながら言う。

「そうか、捜査に追い詰められて逃げられないと思ってか。」


室井は目を伏せ、かすかに笑った。

「あぁ、やっぱりわかってもらえない。」


その言葉は、取調室の壁に静かに響いた。事件は秩序に回収される。だが室井の思想は理解されないまま、孤独だけが残った。


外ではまだ都市の混乱が続いていた。だが室井にとっては、すでに幕が下りていた。彼の舞台は終わり、観客は最後まで彼を理解しなかった。


でも、幕だけは下りた。室井の思いを断つように…。


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