表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/23

八話 幕引き

軽い処刑シーン(絞首刑)描写が終わりにございます

「―以上がお前が無実の罪をきせて殺した者達の名だ。

 異議はあるか、ディルニア・フィニシュード。」


 告げられていく罪状。

全て私が犯した事。


「…いや。異議なんてない。

 全員、私が罪を仕立て上げ、殺した。」


 泣き叫び続けたこの喉。

奥が切れたのか、口の中には鉄の味がする。

そんな状態では、ただ、そう答えるのが精いっぱいだった。


「…はは、みじめだな。」


 私の愚かさを声高らかに読み上げていた男が、ぽつり、と呟く。

視線をあげれば、そこにはかつての好青年の面影は無い、復讐に魅入られた男が居た。

なんて愚かな。

そう思ったが、それは私に言う資格が無い言葉だ。

それになにより、男をそのようにしたのは、私自身の行いが原因だというのに。


「はは、何もできないと思っていた人間に嚙みつかれた気分はどうだ?」

「……。」

「だんまりか。」

「…言い訳なぞ、する資格はないからな。」

「よくお分かりで。

 そうだな、お前にそんな資格ない。

 父さんと俺を無実の罪で捕まえた時、お前は父さんに弁明する事すら許さなかったもんな。」


 当時を思い出しているのか、初めて男の声が震えた。

『友』として、ずっと自分を嗜め、心配してくれた男を思い出す。

何度も自分を、アニシアを心配してくれた、優しい友。

何故解ってくれないと、何度も衝突した。

いつしかそれが煩わしくなり、私はついに、友すら切り捨てた。

真面目が取り柄の優しいあの男に一番似合わない『横領』の罪をきせた。

そして何度も調べなおしてくれと、間違いだと進言する娘の言葉を。

せめて息子だけは巻き込まないでくれと嘆願する男の言葉を。


―全て無視して、殺した。―


「なぁ、気分はどうだ?

 爵位も、プライドも、何もかも奪われて、みじめに地べたに這いつくばる気分は。

 なぁ、どうだ?

 自分の行いが返ってきて、大事な娘が目の前で処刑される気分は。」


 最悪だと、言うべきなのだろう。

けれど、きっとそれを言えば、この男は、戻れなくなる。

そんな気がした。


「…これもだんまりか。

 なら最後に一つ。これだけは答えてもらおう。」

「…なんだ。」

「―金に執着して、お前が得た物はなんだったんだ。

 『友』として支えた父を殺してまで、執着し続けた金で、何を得た。」


 震えていた声が嘘のように、冷静に問いかけられる。

何か得たか。

その答えは、解り切っていた。


「…何も。」

「なんだと。」

「何もない。何も。

 宝だと思っていたものは、執着した結果、全部私が、自分で捨てた。」

「……。」

「唯一、得られたものをあげるなら。

 ようやく気付いて、今ようやく抱えてる、罪悪感だけだ。」

「……。」

「リオン。」

「なんだ。」

「―済まなかった。」

「―…今更だよ。」

「そうだな、今更だ。

 もっと早く目を覚ましていれば、良かった。」


 そうすれば、結末は変わっていたんだろう。

なんてそんな夢を見て、自嘲した。


「…ディルニアおじさん。」


 懐かしい呼び方に、目を見開く。

驚いて男を見つめれば、どこか悲し気で、諦めたような笑み。


「あの日…。

 父さんを殺す前に、気づいて欲しかったよ。」

「り「首に縄をかけろ。」…。」


 縄が首にかけられる。 

抵抗は、出来なかった。

死ぬのは怖い。そんな事を言う資格が無いのはわかってる。

だって、同じ願いを持った無実の人を、私は殺したのだから。


「何か言い残す事は。」

「…いや。私にはそんな資格ないさ。」


 義務的な問いかけに、答える。

チラリ、と観衆に視線を向ける。

怒り、憎しみ、哀れみ。

沢山の視線を、向けられている。


「…済まなかった。」


 ぽつり、と無意識に声を出していた。

男はそれに気づかないのか、反応することはなかった。

男が、娘の処刑の時のように手を上げる。


「おじさん。

 父さんからの伝言。」


 その言葉に、リオンの方を向く。

憑き物が落ちた顔で、告げられる。


―あっちでまた、酒を飲もう。―


 その言葉に反応する前に、手が振り下ろされた。


一瞬の浮遊感。

ギシッ、と縄と喉が締まる。


「…が、っ…。」


 自分の重さで、首が締まる。

意識が遠のく。


「…ぁ…。」


 完全に意識が遠のく直前、一つ後悔がまた、生まれる。


(…あの言葉の意味、教えてやれば、良かった、な…。)


 自分のせいで、引き裂いた二人。

せめて、本当の気持ちだけでも、教えてあげれば…。


 そんな後悔をしながら、男の意識は完全に途絶えた。



悪逆非道と言われた領主。

ディルニア・フィニシュード。


その男の処刑だというのに、歓声が出ることも、悲鳴も上げられることもなく。

あっけなく終わりを告げたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ