七話 とある住民の視点
シギとディルニアの会話とほぼ同時刻。
広場にいるとある女性は、目の前で起き続ける出来事に、呆然としていた。
私は何を見せられているのだろうか。
仕事柄、領主…ディルニア様の悪行の数々は知っていた。
だけど、命が惜しくて見て見ぬふりをし続けた。
あまりに残酷で、自分勝手で、正直、反乱が起きた時は当たり前だ、と思った。
けれど…。
「…こんなの、ただの見世物じゃない。」
罪の通告と、処刑だけではないのか。
会話の大半は、櫓の上で聞こえない。
それでも、表情で、時折響く絶叫で、何をしているのか想像できた。
どうして。
どうして大人しく処刑を待っていたアニシア様を切り付けたのか。
どうして後悔しているディルニア様を更に追い込むのか。
どうして、どうして。
どうして、『正義』の大義名分を背負った反乱軍の人間が。
こんな、わざわざ大衆の面前であのような事をするのか。
何故人の尊厳すら踏みにじるような事をするのか。
同じことを思う人が居るのか、ひそり、こそり、と話す人も居た。
「…なぁ、やりすぎじゃないか。」
「…そうね。いくら罪人でも、これは…。」
「あの男はざまぁ見ろ、とも思うけど…。娘の方まであんな事しなくても…。」
「だよな…。『正義の味方』の反乱軍の人間がすることじゃないだろ…」
ひそひそ…。
こそこそ…。
櫓の彼等に聞こえないように、その疑問は静かに広がる。
その疑問は広がりながら、別の疑問をまた、浮かばせる。
「そもそも、リオン様は罪人として投獄されてたんだろ?
なんで釈放されて、この反乱を起こせたんだ?」
「…あぁ、あくまでも噂、なんだけどさ。
従兄のシギ様が哀れに思って娘の方に懇願したらしいぞ。」
それで、娘が父親に黙って逃がしたとか…。」
「は?じゃあ元を辿れば娘の方のおかげじゃないか。
…あの人は、恩人を処刑したのか?」
「いや、リオン様は無実の罪だったんだろ?
なら投獄された事がそもそも―…。」
ひそひそ。
こそこそ。
「ぁ、あ、ああああああああああああ!!」
櫓の上から、悲鳴のような、泣き声のような、断末魔が響く。
視線が櫓に集まる。
声の主はこれから処刑されるディルニア様。
そしてその正面には。
「…化け物は、どっちよ。」
頬にはアニシア様の血がついたまま。
壊れたラジオのようにアニシア様に謝るディルニア様を…。
愉快げに笑う、リオン様で。
その表情に、ゾッとした。
「さぁ、お前の罪を語ろうか。」
そう嗤うリオン様と、表情を変えずただ、隣にいるシギ様。
ふわりと、風が吹く。
今の今まで風なんて吹いていなかったのに。
けれどその風で、二人の髪が靡く。
(…あれ?)
少し長めのシギ様の髪が靡いて、耳全体が露わになる。
きらりと、美しい青の宝石が嵌められたピアスが揺れるのが、わずかに見えた。
(…さっきまで、ピアスなんて着けてなかったはず…。
それに、あのピアスどこかで…。)
その既視感と疑問に気づいたのは、かつての職場に行った時になるのを、この時の私は気付かなかった。