四話 閉ざす
これはほんの少し前。
リオンとシギが、会話している時の話。
「何の為に娘の方から処刑したと思ってる。」
その言葉に、シギは耐えるように唇を噛んだ。
本当に言いたい事を無理やり噛み締め、言葉を殺し、返事する。
絶望に打ちひしがれ、復讐が生きる目標になった哀れな従弟。
復讐が悪いなんて思わない。
だって、それだけ許されない事を、あの子の父はしてしまった。
その気持ちを、よくわかった。
だから、僕は彼から協力を頼まれた時、悩んだけれど、頷いた。
だってそれが―…だから。
「それに…。
あんなに強がっていても、あの女も死ぬのが怖かったんだろうな。」
「え?」
思考に囚われていると、不意にリオンが楽し気に言った。
咄嗟にでてしまった、驚いたような声。
そんな僕の声なんて気にも留めず、リオンは更に話す。
「こんな青空なのに、『雨音が響いてる。』とか言っていたんだ。」
「…。」
「怖くて幻覚でも見てたんだろうな。
おかげであの男に余計罪悪感を植え付けられた。
あれには感謝してもしきれないな。」
その言葉に、態度に、愕然とした。
そして僕は、ずっと目を背けていた違和感を、認めた。
目の前の従兄は、もう正義感に溢れた従兄ではない事を。
ただ復讐に囚われ、良心の呵責なんて感じない、恐ろしい復讐者でしか、ないのだと。
だって、そうじゃないと、あんな言葉、言うわけない。
あんな風に、一人の人間の最期の言葉を、嗤うわけないのだ。
それになにより、あの言葉の意味に、気づかないなんて。
「…君は、忘れたんだね。」
幼い頃、三人で読んだあの本の事を。
そう続けて言いかけて、また僕は唇を噛んだ。
まだ駄目なのだ。
今、それまで言ってしまったら、崩れてしまう。
「え?」
「なんでもない。
そろそろあの男をここに連れてくるよ。」
驚くリオンを無視して、無理やり会話を終わらせる。
何か言いたげな視線が、背中に刺さる。
それに気づかないフリをして、僕は櫓から離れた。
兵士に声をかけられたが、水を飲んでくる、と告げて離れた。
木陰に座り、ポケットにいれた耳飾りを、撫でる。
チャリ、と小さな金属がぶつかる音が布越しに聞こえる。
―言う資格、私にはもう無いから―
目を閉じれば、鮮明に思い出す。
困ったように、諦めたように、泣いて、笑う。
そんな彼女の姿。
罪を重ねた父を、必死に止めようとした可愛い可愛い僕のお姫様。
足掻いて、藻掻いて、苦しんでた。
そんなあの子を、助けたかった。
だから僕は……。
―こんな役目を、背負わせてごめんなさい、シギ―
思い出すのは、そう言って泣く君の姿で。
泣かないで欲しかった。
これは、自分が望んだ事だから。
それでも、優しい君は涙を流した。
「…シギ様。」
おずおず、といった様子で声をかけられた。
目をあけ、声の方を見ると先ほどの兵士で。
「なに?」
「絞首台の方の準備が整ったそうです。」
「解った。
すぐにあの男を連れていく。
君は先に戻ってリオンに伝えて。」
「解りました。」
ペコリ、と頭を下げて兵士は駆け足で戻っていった。
そんなに物思いに耽ってしまったか、と反省して、立ち上がる。
パン、と自分の頬を叩いて切り替える。
そう、まだ半分も終わっていないのだ。
此処で油断したら、全てが終わりだ。
「…大丈夫、上手くいく。」
何度もイメージした。
色んなパターンを予測して、準備したんだ。
大丈夫、大丈夫。
全部、全部上手くいく。
その為に僕はリオンの手を取った。
そして暗躍して、この反乱を成功させた。
だって、そうじゃないと。
―君の覚悟が、無駄になるから―
だから僕は閉ざす。
口も、心も、思考も、全部閉ざすのだ。
悲しいのも、苦しいのも、憤りも、何もかも、隠すのだ。
一番泣きたいはずなのに。
一番辛いはずなのに。
最期まで、隠して持っていた…。
大事な主人の為に。




