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とある嘘つきの話  作者: 悧緒


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三話 一人目が終わって

前話に続き序盤に流血表現が軽く入っています

 ぽたり、ぽたりと滴る血。

自分の頬にも飛んできた血すら気にも留めず、リオンはただ、アニシアだったものを見下ろした。

念願だった筈なのだ。

自分を、父を無実の罪で処罰した男の娘。

自分の騎士としての名誉を、誇りを踏みにじるように、自分を牢獄に入れた女。

ようやくその恨みをようやく晴らせたというのに。

それなのに、胸を占めるのは高揚でも、歓喜でも、なんでもなくて。


(…虚しい、だけだ。)


 住民の歓声も、どこか遠い。

念願を叶えた。領主の娘としては、何よりも尊厳を踏みにじり、無様な死を与えたつもりだった。

捕縛した時もそうだ。

嫌だと。助けてと。泣いて謝って縋ってくれるのを期待した。

それを振り払ってやると、決めていたのに。

それなのに。


『…そう。』


 ただ一言。

それだけ言って、泣き喚く事も、縋ることも、何もしなかった。

静かにシギにされるがまま、拘束され牢屋に入った。

何も言わず、ただ、諦めたような、解っていたような、そんな虚無の瞳で。


「…リオン」


 名を呼ばれ、振り返れば。

いつの間にか今回の協力者であり、従兄のシギがいて。


「大丈夫か?」

「何がだよ。」

「…いや、大丈夫ならいいんだ。

 お前は優しいから、昔の事思い出して後悔してないかと思ってな。」


 眉尻を下げ、困ったように笑うシギ。

それはお前だろう、と言いかけて、止めた。

その後悔に苛まれる理由を作った俺が、言うべきことではないと思ったからだ。

好きな人を、その父親を死に追いやる、この反乱の協力を頼んだ、俺自身には。


「…あの男は?」

「流石に娘の処刑は堪えたみたいだ。

 ボロボロ泣きながら呻いてる。」

「そうじゃなくちゃ困る。

 何のために娘から処刑したと思ってる。」

「…―そうだね。」


 そうだ。後悔してもらわないと困るのだ。

後悔して、懺悔して、全ての罪を自ら言わせないといけないのだ。

それでようやく、父の無実は晴らせるのだから。

そしてふと、彼女が最期に言った言葉を思い出す。


「それに…。

 あんなに強がっていても、あの女も死ぬのが怖かったんだろうな。」

「え?」

「こんな青空なのに、『雨音が響いてる。』とか言っていたんだ。」

「…。」

「怖くて幻覚でも見てたんだろうな。

 おかげであの男に余計罪悪感を植え付けられた。

 あれには感謝してもしきれないな。」

「…君は、忘れたんだね。」

「え?」

「なんでもない。

 そろそろあの男をここに連れてくるよ。」


 俺の返事も聞かず、シギはまた戻っていった。

ただ、去り際の顔が妙に印象に残った。

後悔、悲しみ、自己嫌悪。

それとは違う、そう、まるで…。


「…怒って、いる?」


 だけど何に?

そんな疑問が出てきた。

ついさっきまで、彼女が死んだことを辛そうにしていた。

大丈夫、と言いたげに無理に笑っていた。

それなのに、此処を立ち去る時に浮かべていたのは、怒りと、軽蔑。


「…まさか、な。」


 幼馴染を裏切った俺を、許せないというのだろうか。

だけど、それを言うなら先に裏切ったのは、彼女だ。

最初に俺達を裏切ったのは、あの親子なのだ。

だから、だからこそ、俺はいま、この立場で立っている。

反乱者のリーダーという、この立場で。

だから、これは正当な報復だ。

少なくとも、俺はそう思っている。

だってこうしないと、父の無実も、名誉も、何も取り戻せないから。

だから、これは正当な行為なのだ。


「…これは、正義なんだ。」


 その小さな独り言は、誰にも聞かれることはなかった。


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