二十一話 とある場所
ネモフィラが咲き乱れる花畑。
そこに、とある男女がいた。
「来たら駄目って言ったじゃない。」
「言ったでしょ、君を独りにできないって。」
困ったような、悲しそうな、何とも言えない表情で話す女性に、男は苦笑して答える。
その表情は、女性と違って晴れやかだった。
「そんなに怒らないでよ、アニシア。」
「怒ってないわ。」
「怒ってる。」
「怒ってないって言って…っ!」
「アニシア。」
声を震わせる女性…アニシアの、頭を男は優しく撫でた。
その手付きは優しく、まるで幼子をあやすかのようで。
アニシアはポス、と男の胸元に頭を押し付けた。
「貴方にも、生きて幸せになって欲しかった。」
「…うん。ごめんね。」
「貴方の…シギの気持ちに気づかなかった。」
「うん。君はリオンが好きだったから。
困らせるから、頑張って隠してた。」
「酷いお願い事を、皆に沢山したわ。」
「…うん。」
「貴方にも、酷いこと…。」
「アニシア、顔を見せて?」
男が…シギがそう頼むと、アニシアはゆっくりと顔をあげた。
その瞳は、涙で濡れていた。
そんなアニシアに、シギは微笑む。
「白状するとね、確かに辛い時はあったよ。
大好きな君はリオンが好きで、アイツの為に死のうとしてたから。」
「…。」
「でもね、君に『二重スパイ』を頼まれた時、凄く嬉しかったんだよ。」
「え…?」
「君のあの計画、本当は1人でしようとしてたでしょ?
でも、僕を頼ってくれた。
それだけ僕を信用してくれてるって、嬉しかったんだよ。」
「…。」
「それに、共犯者として、二人だけの秘密を抱えられて、幸せだった。
だから、そんなに自分を責めないでよ、アニシア。」
「シギ…。」
「大好きだよ、アニシア。
だから、僕も一緒に行っていい?」
そう言って、シギはアニシアの首に巻かれている鎖に触れた。
その鎖の先は、美しいネモフィラの花畑の終わり、崖の下に繋がっていた。
それは、とある場所へ行く事が決まっている証で。
行き先を知っているアニシアは、シギの申し出に目を見開いた。
「…シギ、貴方、何を言ってるのか分かってる…?」
「勿論。」
「私ときたらおじ様ともおば様とも…。」
「アニシア。」
「……。」
「君はわるーい令嬢になるんだろう?
なら、君を想ってるこの男を、利用してよ。」
そう告げると、アニシアはぽろぽろと泣きながら、答えた。
「一緒にいて、シギ。」
「勿論だよ。僕の可愛いお姫様。」
その言葉と同時に、地面が割れた。
重力に従って、二人の身体は堕ちていく。
その行き先は、果たしてどこか。




