二十話 全てが終わり
英雄の一人、シギの死は、瞬く間に街全体に知られていった。
多くの人は悲しみ、仲間であり肉親を失ったリオンに、みな同情した。
亡くなった経緯も、フィニシュード家の残党の報復によるものと公表され、フィニシュード家への憎悪は、更に増した。
その怒りが、家主の居ない屋敷にいくのは、当然の流れだった。
人気のない未明に、フィニシュード家は火災に見舞われ、全焼した。
幸い人は誰も居らず、人的被害は無かった。
だからこそ、その火元について色々と世間は騒いだが、最終的には神の裁きだと、犯人は捜されることはなかった。
そんな全てが焼き落ちた屋敷を見つめ、立ち尽くすリオン。
傍から見れば、従兄であるシギを亡くした悲しみにくれていると思うだろう。
だからこそ、部下を含め誰も声をかけようとはしなかった。
―ただ1人を除いては。
「無様ですね。英雄様。」
「…ミア。」
「不愉快なので名前で呼ぶな、と申したでしょう?
…そんな所で立って、何が目的ですか。
同情を引いて更にアニシア様を貶めたいのですか?」
「…ちが…っ!」
「違いません。
実際、貴方が此処に立ち続けて更にアニシア様への…死者への侮辱は止まりません。」
「……。」
「あの公表はアニシア様の最期の計画を守る為のシギ君からのお願いだった。
だからあのはらわたが煮えくり返るような公表にも目を瞑ったんです。
ですが、そうやって侮辱を加速させる事をするのは許した覚えはありません。」
冷たく、ミアは言い放つ。
リオンは数舜、口を開こうとして、止めた。
全てミアが言った通りで、返す言葉が浮かばなかったからだ。
そんなリオンに、ミアは更に言葉を続ける。
「『雨音が響いている』。」
「…っ!そ、そ、れ…。」
「えぇ、アニシア様の最期の言葉です。
貴方が侮辱し、嗤ったアニシア様の最期の言葉。」
「……。」
「もう会うことも無いでしょうし、最後にいいことを教えてあげます。
…これ、隠し言葉なんですよ。」
「隠し、言葉…。」
「えぇ。直接は言えない言葉を、伝える言葉。
だから隠し言葉。
アニシア様の言ったその隠し言葉、意味はとてもシンプルですよ。」
そして、一息ついてから、ミアはリオンを顔をまっすぐ見据えて、告げる。
―私は貴方を愛していました。―
ヒュッ、という音と共に、呼吸が止めるリオン。
目を見開き、絶望に染まった顔で自分を見つめるその姿に、ミアは更に追い打ちをかける。
「貴方に解りますか、大切な人に憎まれるように仕向ける気持ちが。
解りますか、最期の本音すら、嘲り笑われる悲しみが。」
「……それ、は。」
「知らなかったなんて言わせません。
この隠し言葉は、貴方とシギ君、アニシア様、三人で、いつも読んでた本に書いてあったんですから。」
「……ぁ。」
「―…ようやく思い出しましたか。でも、もう遅い。貴方のあの行為は、消えないの。
ディルニア様が、彼が貴方達にした行為が許されることも、消えることもないのと同じ。
どちらも、消えないし赦されない。
貴方の怒りも、悲しみも、全て当然の感情だし、そこは私がどうこう言う資格はない。
でも、だからといって貴方がアニシア様にした事を私は許さない。」
グイ、と自分よりも背のあるリオンの胸倉をつかみ、自分に引き寄せる。
そして今までとは比べ物にならない程低い声で、ミアは告げる。
「解ったらさっさと立ち去りなさい、リオン・イディール。
貴方に私の…私達の主人の死を悲しむ資格なんて無いのよ。」
「……ぁ。」
後ろに押すようにして、ミアはリオンから手を離す。
けれど視線はリオンに注がれたまま。
「頼れる従兄も、愛した幼馴染も居ない。
精々、英雄としてこの街を守って生きなさい。」
「……。」
ふらり、ふらりと、おぼつかない足取りで立ち去っていく。
そんな姿を、ミアは静かに見つめる。
そしてリオンの姿が見えなくなると、ミアは懐中時計に着けられた蒼の宝石を見つめる。
「…これでいいんですよね、アニシア様。」
そんな問いかけに応えるように、風が吹き、ミアの髪を揺らした。
+++
それから数十年。
新たな領主となったリオンは生涯、この街を豊かにすることに尽力した。
そのおかげで、かつて飢えと貧困によって暗くなっていた街は、かつての活気のある美しい街へと戻っていった。
その為、リオン・イディールという男は、偉人として後世に語り継がれることとなったのだ。




