十九話 後悔と真実
『シギ様はこの屋敷の裏。森を抜けた小さな丘に居ますよ。
…まぁ、もう間に合わないと思いますけど。』
求めていた答えを聞き、俺はひたすら走っていた。
馬は予めミア達によって隠されたのか、一頭も居なかった。
だから俺は死に物狂いで走った。
走って走って、汗が流れる。
読んだ手紙の中身が、何度も蘇る。
―まず最初に、あの時は貴方の願いを無視してごめんなさい。
私が無実を証明しても、お父様が変わらない限り、また繰り返される。
だから、どうしてもお父様も、血縁の私も処刑されないといけなかった。
その英雄に、貴方がなるのが一番だと思った。
そうすれば、おじ様も、貴方も、他の無実の人も濡れ衣を晴らせると思ったの。―
『貴方には生きてて貰わないと困るのよ。』
ギリ、と奥歯を噛み締める。
あの言葉は、そういう意味だったのかと、ただ甚振る相手が欲しいからだと思っていたあの言葉は、そういう意味だったのだと。
冷静に考えれば、おかしい所はあったのだ。
男には甚振る相手が欲しいと言っていたのに、彼女は暴行も、拷問も、一切命令してなかったし、されなかった。
ただ時折現れて、話をしただけだった。
季節の話、家族の近況、自分の父へ反抗した家の事。
ただそれだけを話して、帰っていってた。
どうしてこんな矛盾に、気づかなかったのか。
そんな自分に、腹が立った。
―私もお父様と同じだと思わせないといけなかった。
その為に嫌がるシギやミア、他の子を巻き込んだの。
だから、他の子には怒らないでね、悪いのは、全部私だから。―
そうか、だから。
だからシギはいつもどこか、貼り付けた笑みを浮かべてたのか。
なんでこんな事に気づかなかったのだろうか。
簡単だ。
俺がそうだと決めつけて、何も見ていなかったから。
だから、気づけた筈のなにもかも、見落としてた。
あの違和感も、全部。
―私なんかがお願いするまでもないけれど。
どうか、この領地を、街をお願いね。
お父様の娘の私では、きっとそれは出来ないから。
だから…先に逝ってるね。―
バキ、と枝を踏む音が響く。
だけどそんな事に構ってられない。
あと少し、あと少しで目的の丘に着ける。
頬を何かが伝う。
きっとこれは汗だ。
涙じゃない。涙じゃいけない。
だって俺には…。
―大好きだったわ、リオン。
どうか幸せになってね。―
泣く資格なんて、無い。
愛した人を信じられなかった俺が、泣く資格なんて、無い。
ぐしゃり、と持ったままの手紙がまた歪む。
アニシアからの最期の手紙。
その一番最後に、書き足された見慣れた従兄の字。
―君をひとりになんて、しないよ、アニシア。―
その言葉の意味なんて、一つしかない。
視界が明るくなる。
あと少しだ。
大丈夫、間に合う、間に合う筈。
「し…」
視界が開け、薄紫の絶景が目の前に現れる。
そして大樹の根本で、何かを呷るシギの姿。
名前を呼ぼうとしたが、それは出来なかった。
何かを飲んですぐ、血を吐いたシギが居たから。
「シギ…っ!!」
慌てて駆け寄ろうとして、シギと目があった。
届かないと解っているのに、手を伸ばした。
逝かないでくれと、置いていかないで、と。
だけど…。
「――…。」
「…え。」
――ざまぁ、みろ。――
そう、言われた気がした。




