表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある嘘つきの話  作者: 悧緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/23

十八話 復讐する話

 しばらく、花を呆然と見つめていると、相棒が小さく鳴いた。

目的を忘れるな、と言わんばかりに自分をちら、と見る彼に、シギはまた苦笑する。


「そうだね、邪魔される前にやらないと。

 悪いけど、このまま藤の根本までいいかな?」


 そう撫でながら聞けば、馬は答えるようにまた歩み出し、藤の真下で主人が降りやすい体制を取った。

シギは器用にアニシアを抱えながら、馬から降り、彼女を藤の樹に寄りかからせた。

そして相棒である彼の器具を外し、頭を撫で告げる。


「手伝ってくれてありがとう。

 さ、賢い君なら1人で帰れるだろう?

 屋敷でミア達に沢山…。」


 その言葉を否定するようにシギに頭を擦り付け、言葉を遮る。

まるで自分も、と言いたげに見つめていると、シギは苦笑しながら言った。


「…はは、そうだよね。

 君もアニシアの事、大好きだったもんね。」


 当然だろう、と言いたげに小さく鳴き、アニシアの近くにしゃがむ相棒にシギはまた、笑った。

そんな相棒の頭を撫で、シギはアニシアをまた横抱きにし、腰を下ろした。

上を見上げれば、薄紫の藤がカーテンのようで、見事だった。

そんな美しい景色を見せようと、縫われたアニシアの首を支えながら、上を向かせた。


「…生きて、一緒に見たかったな。」


 ぽつり、と漏れた本音に、シギは自嘲した。

何度か、誘われていた。

けれど、それを自分はいつも誤魔化して、断っていた。

一度一緒に行ったら、もう誘われる事はないと思っていたからだ。

けれど目の前の景色は圧巻で、一度だけになってもいいから、誘いに乗れば良かったと後悔した。


「…さて…。」


 ごそ、と器用に片手で首元を緩め、小瓶のついたネックレスを取りだした。

ちゃぷん、と瓶の中の透明な液体が揺れた。


「…一口でも飲めば死に至る劇薬、ね。

 ちゃんとその異名の仕事を、してくださいね。」


 藤が反射し、ほんのり薄紫に見えるそれを、じぃ、と見つめるもう一つの瞳。

その持ち主は、自分以外にはたった一頭しか居ない。

瞳の持ち主に視線を向ければ、まるで自分にも飲ませろ、と言いたげに顔を寄せた。


「…いいのかい?」


 愚問だ、と言いたげにシギを小突き、甘えるように頭を擦り付け続ける。

そんな馬に苦笑して、シギはずっと腰に巻いていたポーチから小瓶を取り出した。


「ほんとは死に損ねない保険の為だったんだけどなぁ…。」


蓋となっているコルクを引っ張ると、きゅぽん、と少し軽快な音を立て、小瓶は開いた。

そしてその小瓶を近づければ、馬はまってました、と言わんばかりに口を開き、注がれるの待つ。


「…すぐいくから。」


 そう小さく告げて、馬の口へと液体は流しこまれていく。

時折空気が入る為か、こぽ、こぽ、と音を立て、液は減っていく。

全てを流し終えると、馬はポスン、とシギ膝に頭を置き、じぃ、と見つめた。


「おやすみ。」


 馬の瞳が静かに閉じていく。

そしてだんだんと呼吸も小さくなっていき、止まった。

それを確認すると、今度はアニシアを見て、憑き物が取れたように青年は微笑んだ。


「…死んでも離れないって言ったら、君は怒るかな。」


―それでも、一緒に居たいのだ。

たとえそれが、最後の命令に背いたとしても。―


 小瓶の蓋をあけ、液体を一気に呑み込んだ。


「ぐ…っ!」


 喉が焼ける感覚に耐えられず、思わず咽た。

吐き出されたのは、どす黒い血の塊で。

そして遠のく意識に、シギは安堵した。

毒薬が、その仕事をはたしてくれたと、実感できたからだ。


「…あに…しあ…。」


 ぼやける視界のなか、シギはアニシアを抱きしめた。

どれだけ抱き寄せても、抱きしめても、返される事はない。

それでも、シギは幸せだった。

この瞬間だけは、アニシアの一番近くは、自分だから。


「……ずっと、すき、だよ」


 視界がブラックアウトする寸前、聞きなれた声がした。

大声で、自分を呼ぶ、従弟。

一番憎くて、大事な従弟。


(…り、おん…。)


 愛しい人の心を奪っておいて、それを踏みにじった男。

かつて愛した人を信じられなかった、愚かな男。

ずっと殺したいほど憎んだ、復讐相手。


自分を慕ってくれた、可愛い従弟。

だから、僕はこの復讐を決めたんだ。


「…はは、ざまぁ、みろ。」


 自分に都合の悪い話を聞かないなら、僕も聞いてなんてやるもんか。

ずっとずっと、後悔すればいいんだ。


―永遠に―

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ