十七話 それはあまりにも
シギが森を歩いている同時刻。
リオンは屋敷を走り回っていた。
その手には、アニシアの部屋で見つけた手紙がくしゃくしゃになって収まっていた。
(嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。)
ギリ、と奥歯を噛み締めながら、リオンは居るはずの肉親を捜す。
コンサバトリー、執務室、書庫、庭園。
屋敷のありとあらゆる場所を探しまわった。
けれどどこにも探し人の姿は無く、リオンの焦りはどんどん肥大していった。
「シギ!!なぁ、どこだシギ!!」
返事は返されない。
はぁ、はぁ、と息が上がっていくのを感じながら、先ほど読んだ手紙に書かれた事を、信じられずにいた。
けれど、この現状は手紙に書かれた通りで、リオンは焦る。
「…無様ですこと。」
カツ、と石畳を踏む音と同時に、ミアは冷めた瞳でリオンを見る。
今までなら、怒鳴り返してた所だが、リオンにとってはそれどころではなく。
唯一情報を持っていそうな彼女に、駆け寄った。
「ミア!おい、シギは、シギはどこだ!!」
「気安く名前を呼ばないで頂けますか、不愉快ですので。
―あぁ、その様子ですと、アニシア様のお手紙でようやく気付きましたか?」
くすくす、とミアは嗤った。
その視線は、リオンの手に握られている手紙に注がれていた。
焦燥感に駆られているリオンにとって、そんな冷静な様子なミアは神経を逆撫でするようなもので。
「お前…っ!」
「あら、いいんですか?
この状況で一番情報を持っている可能性がある人間に歯向かって。」
「…―っ!」
「ふふ、賢明なご判断ですこと。
で、シギ様の居場所、ですよね。
そんなの…。」
―貴方なんかに教える訳ないでしょう?―
にっこり、という表現が似合うほど、口角をあげて、ミアは答えた。
そんなミアの腕を、衝動的にリオンは掴み上げ、怒鳴る。
「っざけるな!!早く探さないとシギが…っ!」
「えぇ、自死なさるでしょうね。」
「っ!」
強く手首を握られてもなお、ミアは冷たくリオンを見上げる。
その声は相変わらず冷静で、状況が状況だけに、異様だった。
リオンの方はというと、冷静に告げられるミアの言葉に、言葉を失い、目を見開いていた。
「なんで知っている、と言いたげですね。
簡単ですよ。
今此処に居るのは、シギ様…いえ、シギくんからのお願いでしたから。」
「…は…?」
間抜けな声を出すリオン。
驚いて力の抜けた手を振り払い、ミアは懐中時計を取り出す。
使い込まれた時計と、横に揺れる小さな蒼と黄金色。
カチ、コチ、と静かに動く秒針を見ながら、ミアは思いを馳せる。
(…そろそろ辿り着いた頃でしょうか。)
「なぁ、シギからの頼みってどういう…。」
「…まだ気づきません?」
「え。」
「私はただの時間稼ぎです。」
―シギくんから、貴方への復讐を果たす為の―
ザァ、と風が強く吹く。
ミアは髪を抑えながら、また嗤った。
「気づくのが、遅かったですね。」




