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とある嘘つきの話  作者: 悧緒


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十四話 大事な主人

 大切だった。

大切な親友の忘れ形見の、可愛い女の子だった。


『みあ!』


 鈴のような可愛い声で、私の名前を呼んでくれる、可愛い可愛い私の主人。

どんな事があろうとも、お守りすると決めていた。

それは大人になっても、いや、私が死ぬまで、違えるつもりはなかった。


だけど、現実はあまりに残酷で。


『ごめんね。これは、ミア達にしか頼めないの。』


 そう言って、残酷なお願いをしてきた。

嫌だと、考え直してと何度も頼んだ。

それでも、あの子の考えは変わらなくて。


『お願い、ミア。

 最期の命令だから。』


 そう言われてしまえば、メイドの私は従うしかなくて。

だから、私は全てを呑み込んで、頷いた。

頷きながら、私は願った。

彼は聡明だった。

だから、途中で気づいて止めてくれるのを。

だけど…。


 ―あの男は最後まで気づかなかった。―


 そしてあのこは…私の大事な唯一の主人は、処刑された。

その処刑は歓声に包まれた。

それはあの子の計画が順調の証拠だったけれど、とても、悔しかった。

本当はあの場で叫びたかった。

でもそれは、あの子の最期のお願いを違えるから。

だから唇を噛んで、耐えたのに。

それなのに、目の前の男は何と言った。


『あの女がそんな事…。』


 ふざけるな。

何も知らないくせに。

あの子がどれほど苦しんだかを。

あの子がどれほどの覚悟をしていたのかを。

何も知らない癖に、何故言い切れる。


「なんで…、どうして、どうしてよ!!

 どうしてお前の為にあの子が死なないといけなかったの!

 どうしてお前の為にあの子が悪にならないといけなかったの!!」


 止まらない、止まらない。

いけないのに、言ってはいけないのに。

これ以上は、あの子の願いを私が壊すことになる。

だけど…。


「全部、全部お前の為だったんだぞ!!

 お前のくだらない名誉のために、あの子は悪の汚名を被ったのに!!」

「…は?

 そんなわけ…。」


 そう言う男を見て、更に落胆した。

そして悟った。


(…あぁ、そうか。

 この男にどんなに喚いても、無駄だ。)


 自分が正義だと、正しいと。

なにより、自分だけが被害者だと、思っているのだから。

あの子は、これすら見抜いていたのだろうか。

違う。きっと…。


(あの子は自分だけが加害者だと、思っていたんだ。)


 なによりも、優しい子なのだから。


 深呼吸して、男に聞いた。


「不思議だと思わなかったのですか。」

「…え。」

「貴方は罪人として投獄されてました。

 それだったら、食事もお粗末な物のはず。

 それのなのに、きちんとした食事が出ていたことに。」

「…―っ!」


 目を見開く男に、こんな男だったのか、とまた落胆した。

この様子だとこちらも気づいてないのだろう、と更に問いかけた。


「…シギ様名義で、炊き出しを行っていませんでしたか。」

「…あ、あぁ。それがどうした。」

「可笑しいと思いませんか。

 護衛の…ましてや専属騎士としているシギ様の行為を、アニシア様が気付かない筈ないと。」

「な…。

 …まて、まさか。」


 流石、聡明と言われただけはある。

けれど、遅すぎだ。


 ミアはクスクスと笑う。


「えぇ、そうですよ。

 貴方の不釣り合いな食事も、シギ様の炊き出しも。

 全部、アニシアが裏で手をまわしていたんですよ。」

「そんなわけない!

 あの女は硬貨なんて持たされる筈…」

「だから売ったんですよ。」


―貴方達の為に、ドレスも装飾品も、全部―


「まぁ、一部は屋敷の子達の賃金にしてましたけど。」


 他にもあの子が手をまわしたことがあるが、それは今は言う事ないだろう。


(どうせ、あと少ししたら全部知るんだ。

 なら精々、混乱して苦しめばいい。)


「もうよろしいでしょうか。」

「…まて。」

「なんでしょう?」

「仮に…仮にその言い分が正しいなら、証拠はあるのか…?」


 そう問いかける男に、ミアは笑い出した。

当然だろう。


あれだけの解りやすくヒントも答えも出てるのに、まだ気づかないと言っているようなものなのだから。


「お疑いなら屋敷の子達にも話を聞いたらいかがですか?

 賃金の件だけじゃない。あの日の事、全部。」

「……。」

「それにそもそも…。

 いえ、これは無粋というものですね。」

「?」

「こちらの話です。

 あぁ、でも…。最後にひとつ。」

「なんだ…。」


 疑り深く、こちらを見る男に、ミアはにっこりと笑い、聞いた。


「上手くいったと喜んでる計画の手助けを、復讐相手にされてた気分はいかがですか?」

「――っ!」


 返事を聞かず、私達は部屋を出る。

こつ、こつ、と足音だけが響く。


「…人の事、言えないわね。」


 自嘲気味に笑うと、一緒に出てきた男は何も言わず、私の頭を撫でる。


「もうそんな歳じゃなくってよ。」

「…解ってる。

 今のお前をみたら、アニシア様ならこうしたからな。」

「―…っ。」


 ポロポロと、涙がまた出た。

怒りで、憎悪で止まっていた涙。

それが決壊したように、溢れる。


「…っ、ぅ…っ。」


 アニシア。私の可愛いご主人様。

大好きで、大切で、なによりも、守りたかった大事な子。

最期のあの笑みが、頭から離れない。


 ごめんね、アニシア。

貴女の最期の命令に背く行為をしてしまった。

それでも、どうか許して。

親友の忘れ形見の貴女を。

ずっと成長を見てきた、可愛い貴女を。


―泣かせたあの男が、許せなかった。―


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