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とある嘘つきの話  作者: 悧緒


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十一話 空っぽ


「…どういう、事だ。」


 換金できるものを探しに、娘の部屋に来た。

絢爛豪華な家具やドレス、宝石があるものだと思っていた。

けれど実際の部屋は、その真逆で。

あの男の部屋にあったのは、ゴテゴテの装飾がついてる絢爛豪華、その言葉がぴったりのものだった。

てっきりそれと同じものが置かれていると思っていた。

けれど実際にあったのは、木目が美しいシンプルなアンティーク調の家具で、シンプルなもの。

しかも最低限の数しか、置かれていなかった。


(…そういえば、服やアクセサリーばっかプレゼントしてたもんな。)


 まだ自分が騎士として仕えてた頃。

あの男はいつも流行りのドレスやアクセサリーばかり贈っていた。

宝石に目が行って家具などは買ってやらなかったんだろう。

そう一人納得して、歩みを進める。

もうこの部屋の主は戻ることはない。

だから、俺は気にせずクローゼットに手をかける。


「…やっぱりな」


 ギィ、という鈍い音と共に、クローゼットが開かれる。

そこには、数着のドレスと宝石が収められてるであろうジュエリーケース。


(…所詮、あの女も血には逆らえなかったって事か。)


 共に来ていた宝石商にジュエリーケースを渡す。

どうせ数があるのだ、少しでも早く鑑定していった方がいいだろう、というシギの提案だった。

それもそうだな、と俺も同意して、宝石商を引き連れて来た。


(この調子ならこっちのクローゼットにも色々あるだろ。)


 そう思って、俺はなんの躊躇いも無く、もう一つの扉を開けた。

けれど目の前の光景は、俺の予想とは違っていて。


「…え?」


 もう一つ、最初のクローゼットより少し奥にあるそこには、着古したドレスが数着。

それだけが、入っていた。


(どういう、事だ…。

 あの大量の宝石やドレスは、どこに…。)


 他に隠したのか、と候補をいくつか記憶から引っ張りだす。

そんな事をしていると、おずおず、といった様子で宝石商の男が声をかけてきた。


「…あの、リオン様。」

「なんだ、もう鑑定が終わったのか。」

「はい…。」

「で、いくらになりそうだ。」


 そう聞くと、男は言いにくそうに視線を少し彷徨わせた。

そんなに高価なのか、と思っていると、覚悟したように男は言った。


「…申し上げにくいのですが、これは私たちでは買い取れません。」

「どうしてだ?これだけデカい宝石が使われてるならそんなこと…。」

「この宝石は全て、本物ではないからです。」

「…は?」

「これらは全て、硝子宝石です。」


 そう告げて、男は先ほど渡したケースの中を見せる。

そこには色とりどりの宝石が埋め込まれた装飾品が入っていて。

先ほどの言葉が信じられなかった。


「これが全部硝子?そんなわけ…。」

「いいえ、本当です。

 …こればっかりは、体験してもらった方がいいですね…。

 リオン様、こちらをご覧ください。」


 そう言って、宝石商は懐から一つ、ケースを取り出した。

中には、光り輝く宝石が鎮座していた。


「それは…」

「正真正銘、ダイヤモンドでございます。

 試しにこれに息を吹きかけてみてください。」

「……。」


 言われるがまま、ふぅ、と息を吹いてみる。

そのダイヤモンドは一瞬だけ曇ったが、その輝きをすぐ取り戻した。


「…これがどうかしたのか?」

「…では、今度は同じようにこれに息を吹きかけてみてください。」


 差し出されたのは、この部屋にあった宝石で。

言われるがまま息を吹きかけ、気づいた。


「…曇ったまま?」


 先ほどのダイヤモンドは息を吹きかけても、すぐに輝きを取り戻した。

それなのに、目の前の宝石は曇り、輝きを失ったままで。

驚いていると、宝石商は視線を自分から、手元の宝石に移して、言った。


「本物のダイヤモンドは熱伝導率がとてもいいんです。

 なので先ほどのように息を吹きかけても、すぐに曇りが消えるんです。

 そして硝子はダイヤモンドに比べてはるかに熱伝導率が悪い。

 だからこのようにすると、しばらく曇ったままなんですよ。」


 曇りを取るように、男は優しく渦中の宝石を拭いた。

すると、またその宝石は輝きを取り戻した。

けれど、俺の頭は混乱していた。

どういうことだ。

あの男は、偽物を娘に渡していたのか?

そんな事を思っていると、男はじっくりと硝子でできたと言われる、その宝石を見る。


「…正直、ここまで精巧な硝子宝石は初めてです。

 他の宝石もライト等で確認しましたが、どれも硝子宝石と同じ反応が出ました。」

「…けど、そのケースは確かに街でも有名な…。」

「えぇ。ケースも、鑑定書も、全て本物です。」

「…は?どういう…。」

「簡単です。中の装飾品だけが入れ替えられていた。それだけです。」

「な…。」

(入れ替えた?一体だれが…。)


 そして浮かぶ、一人の後ろ姿。


(…まさか、シギ?)


 そう思って、すぐに否定した。

それなら持ち主のあの娘が気付く筈だ。

そうなると、専属のメイド達が…?

そうだ、それなら納得いく。

異様に少ないドレスにも、宝石にも。

全て、メイド達が持ち出したとしたら納得がいく。


「すぐにあの娘の専属メイド達をここに呼べ!」

「え?ですが…。」

「はやく!」

「は、はい!」


 近くの兵士にそう叫んで、俺は再度部屋を見回す。

調度品も最低限。服もほんの僅か。

装飾品に至っては、全て中身が価値が低い装飾品に変えられていて。

全部、メイド達が持ち出したんだ。

そうじゃないとおかしいのだ。

そうじゃないと。


(こんな部屋に、なってるはずがない。)


 あの男と同じ筈だ。

金に目がくらみ、自分の思い通りになるように物事を進める傲慢な娘。

あの日、俺も処刑してくれと頼んだ。

騎士に戻れなくなる焼印を刻まれるくらいなら、と。

だけどそれを拒否された。


『駄目よ。貴方には生きてて貰わないと困るの。』


 そう切り捨てて、俺を牢屋にぶち込んだ。

そう、我儘な娘になってた筈なんだ。

何度も牢屋に来た。

その度に出してくれという懇願も、無実の証明も、全て断られた。

だから、だから俺は…。


―君に裏切られたと、思ったんだ。―


 だから憎んだ。

だから彼女が信頼しているであろうシギをこちら側に引き込んだ。

そしてシギに手をまわしてもらって脱走した。

全部、全部俺の計画通りだったんだ。

そのはずなんだ。

なのに。


(この焦燥感は…なんなんだ。)


 ふらり、とふらついて。

近くにあった机以外の唯一の家具、本棚に寄りかかる。

カタン、という音とバサバサ、と何かが落ちる音がする。

慌てて足元を見ればそこには数冊の本が落ちていて。

拾おうと本を持ち上げると、封筒が一つ、落ちて来た。

宛名の部分を見ようとしたら、声をかけられた。


「リオン様、連れてきました。」

「あぁ、ありがとう。」


 返事と共に、咄嗟に封筒をポケットに入れた。

振り返って居たのは、見慣れた二人で。


「…この部屋について聞きたいことがある。」

「「なんなりと。」」


 昔のような親しさなんて姿を消して。

冷たい瞳で、俺を見据える。

まるで、何を今更と、言いたげに。

当たり前だ。

親しかった事を利用して、嘘をついてあの日、協力させた。

幼い頃からずっと大事にしてた自分の主を、売るような行為をさせたのだから。


(それでも、聞かないといけない。

 そうじゃないと。)


―この引っかかる感覚の正体が、解らない。―

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