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g  作者: チャプタさん
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第八話:残照義団の結成

第八話:残照義団の結成


活気あふれる、しかしどこか危険な匂いのする許昌の街。

その中心に位置し、新たな仲間を求めたり、高額だが危険な仕事の情報を交換したりするために、中原各地から、様々な過去と目的を背負った、腕に覚えのある遊侠たちが日夜集う広場は、一攫千金を夢見る者たちの、剥き出しの欲望と野心、そして男たちの汗と土埃、安酒と血の匂いが強烈に入り混じった、独特の、そしてどこか人を惹きつけてやまない、猥雑な熱気でむせ返っていた。

粗末な天幕がいくつも張られ、その下では怪しげな武器商人や情報屋が声を張り上げ、広場の隅では、賭博に興じる者たちの怒号や歓声が絶え間なく響いている。

俺、陳統と彩霞は、その喧騒の中で、新たに遊侠としてこの許昌の地で活動するための登録と、新人向けの簡単な、しかしこの乱世を生き抜くためには不可欠な、実践的な講習に参加していた。

講習の内容は、許昌周辺の危険地帯の情報、主な妖獣の種類とその弱点、そして何よりも、遊侠同士の暗黙のルールや、裏切りが日常茶飯事であるこの稼業の厳しさといった、耳の痛い話が中心だった。


そして、講習の最後に行われるのが、職業選択の儀。

天命盤に自らの意志を込めて祈ることで、神聖な祭壇がその者に最も適した、あるいはその者が最も強く望む職業を啓示するという、古くから伝わる儀式だ。もっとも、実際にはある程度自分の進みたい道を選べるのだが、天命盤がその適性を判定し、場合によっては別の道を勧められることもあるという、少々面倒な代物だった。


周囲の、既にそれなりの経験を積み、自らの進むべき道に自信を持っているであろう遊侠たちから、「おいおい、物好きもいたもんだな。このご時世に、今さら道術戦士とは、酔狂にもほどがある。そんなもので飯が食えると思っているのかね?」「あれでは、まともな仕事仲間も見つかるまい。下手をすれば、野垂れ死にするのが関の山だぜ。足手まといにしかならんだろうに」といった、あからさまな嘲笑と、憐れみすら含んだ侮蔑の視線を全身に浴びながらも、俺は一切動じることなく、まるで周囲の、耳障りなだけの雑音など全く聞こえていないかのように、背筋を伸ばし、迷うことなく天命盤に「道術戦士」の道を選択した。

彼らの言うことは、ある意味では正しい。今の俺は武勲レベル一。道術戦士の真価を発揮するには、あまりにも非力で、そして時間も知識も必要だ。だが、俺には確信があった。この道こそが、俺を再び頂点へと導く唯一の道なのだと。

心の奥底では、僅かな孤独感と、本当にこれで良かったのかという一抹の不安が鎌首をもたげようとしていたが、俺はそれを意志の力でねじ伏せる。


彩霞は、俺の「お前には、その俊敏さと、人並外れた五感を活かせる斥候の道が向いているはずだ。そして、その力は必ずや我々の、いや、俺の大きな助けとなる」という、半ば懇願にも似た、しかし絶対的な確信に満ちた勧めもあり、その小柄でしなやかな、猫科の獣を思わせる身体能力と、生まれ持った、どんな些細な変化も見逃さない、獣のように鋭敏な五感を最大限に活かせるであろう「斥候」の道を選んだ。

彼女の天命盤は、その選択を祝福するかのように、温かい光を放った。彼女自身も、まだ戸惑いはあるものの、陳統への信頼からか、その瞳には新たな道への静かな決意が宿っていた。


案の定、というべきか。「道術戦士」という、誰もがその将来性のなさを、そしてパーティにおける貢献度の低さを知る、いわば茨の道を選んだ俺と、まだ何の実績もなく、ただ美しいだけで、どこか頼りなげにさえ見える新人斥候の彩霞に、進んで「一緒に組もうではないか」と声をかけてくる遊侠は、ただの一人も現れず、二人はあっという間に、まるで疫病神でも避けるかのように、講習会場の隅の方へと追いやられ、周囲から完全に孤立した。

誰もが、俺を盛りを過ぎた、もはや先のない、そして判断力すらも鈍った遊侠だと、あるいは何か大きな勘違いをしている、哀れで滑稽な男だと、蔑みの目で、値踏みするような目で見る。

その視線は、まるで鋭い針のように、俺の皮膚をチクチクと刺した。


だが、彩霞だけは違った。

彼女は、周囲の冷たく、そして時に悪意すら感じさせる値踏みするような視線にも一切臆することなく、凛とした、しかしどこか儚げで、守ってやりたくなるような表情で俺の隣にそっと立ち、「私は、陳統様と一緒がいいです。陳統様となら、どんな困難な道でも、どんな苦しい道のりでも、きっと乗り越えられるような、そんな不思議な気がするのです」と、まだ少し震える手で、しかし力強く、そして何よりも温かく、俺の、長年の戦いで節くれだった大きな手を、両手で包み込むように握ってくれたのだ。

その小さな手から伝わる、予想外の、しかし心の芯まで染み渡るような温かい感触と、彼女の曇りのない、どこまでも真っ直ぐな、そして絶対的な信頼を宿した瞳に、俺の、長年の孤独と絶望で、まるで冬の荒野のように凍りついていた心は、強く、そして深く打たれた。

ああ、俺は、この少女のこの言葉を聞くために、この温もりを感じるために、再びこの世界に生を受けたのかもしれないな、と柄にもなく思った。


その瞬間、二人の小さな、しかし無限の可能性を秘めた遊侠団「残照義団」は、正式に、そして静かに産声を上げた。

黄昏の空の果てに、最後の力を振り絞って燃えるように美しく残る茜色の光が、やがて訪れるであろう長い、そして厳しい夜を照らし、そして必ずやってくる輝かしい明日への希望を繋ぐように、彼らの小さな、しかし確かな意志を持った義団もまた、この混沌とした、先の見えない乱世に、確かな、そして温かい灯をともす存在となるだろう。

俺は、そう強く、そして心の底から信じた。

「残照義団」――それは、黄昏の空に残る最後の光のように、乱世の終わりに、あるいは新たな時代の夜明けに、希望を灯し続ける者たち。そんな想いを込めて、俺が名付けた。


その時、講習会場の隅の方で、一部始終を静かに、しかしどこか興味深そうに、そして僅かな、しかし確かな共感の念を込めて見守っていた三人の男たちがいた。

一人は、見るからに義侠心に厚そうで、まるで焼いた銅のような赤ら顔で、豊かで黒々とした、手入れの行き届いた見事な髭を蓄え、その身の丈も周囲の者たちより一回りも二回りも大きく、まるでそびえ立つ巨岩のような、まさに豪傑といった風貌の巨漢。その眼光は鋭く、しかしどこか人の良さを感じさせる。

一人は、その血気盛んな巨漢を、時折苦笑いを浮かべながらも、どこまでも温和な、慈愛に満ちた笑みで諌める、いかにも徳が高く、多くの人々から、その身分や立場に関係なく自然と人望を集めそうな、どこか人を惹きつける高貴な雰囲気を漂わせる、大きな福耳を持つ、優しげな男。

そしてもう一人は、まるで荒野の猛獣のように鋭い目つきで周囲を睥睨し、やや短気で、すぐにでも喧嘩を始めそうな、危うい雰囲気を漂わせるが、しかしその瞳の奥には、一点の曇りもない純粋で真っ直ぐな魂を宿していることが窺える、勇猛果敢そうな男。

関羽、劉備、張飛。

いずれ歴史に、その名を深く、そして永遠に刻むことになる、義によって結ばれた三義兄弟との、ほんの僅かな、しかし彼らの、そして陳統たちの未来の運命の糸を、確かに手繰り寄せるかのような、重要な、そして忘れられない邂逅であった。

彼らは、周囲から孤立し、あからさまな嘲笑を浴びる陳統たちに対し、何か言いたげな、そして義侠心から助け舟を出そうか、あるいは声をかけようかと逡巡しているかのような、複雑な、しかしどこか温かい眼差しを向けていた。

特に、劉備と思われる男の、人を見抜くかのような深い眼差しを、陳統は確かに感じ取っていた。


講習が終わり、遊侠たちが蜘蛛の子を散らすように、いや、それぞれが思い思いの仲間や情報を求めて騒がしく散っていく中、陳統と彩霞は、広場の片隅で、これからの活動について静かに話し合っていた。

「さて、彩霞。俺たちの『残照義団』は、たった二人からのスタートだ。当面は、地道に、そして確実にこなせる依頼から受けていくことになるだろう。お前には斥候として、索敵や罠の発見、情報収集といった重要な役割を担ってもらうことになる。危険も伴うが、お前のその類稀な五感があれば、きっと大丈夫だ」

「はい、陳統様。私、精一杯頑張ります。陳統様のお役に立てるように」

彩霞は、まだ少し不安そうな表情を浮かべながらも、力強く頷いた。

陳統は、そんな彼女の頭を、大きな手で優しく撫でた。

この少女の信頼に、俺は必ず応えなければならない。そして、この二度目の人生で、今度こそ、後悔のない道を歩むのだ、と。

彼の心には、新たな決意が静かに、しかし力強く灯っていた。

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