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激突

「いっってぇぇぇぇぇ!!!!!」


 雷に打たれたような強烈な痛みに耐えきれず、その場にうずくまる。


(雷? 鳥!? 頭がっ……久々に頑張って外出たのに……もうやだ……)


「?」


 なにかが足りない。ここは駅前の広間。通勤ラッシュの最悪の時間帯。その、本来なら「うるさい」この時間。だが今は?


(声は……?)


 耳鳴りが酷い。状況を考えれば無理もないが。だが、それ以上に。


(声が、聞こえない……!)


 視界がだんだん鮮明になっていく。慌てて辺りを見渡す。


 「は?」


 午前十時十八分






   人が、動いていない





***



      



「え?いや……えぇ?」


 何かの冗談だと思いその周辺を歩き回り様子をうかがった。秒針の音がやけに大きい。


(スマホ……家だ)


「いや、ドッキリ、そう、これはドッキリ。いや何のドッキリだよ……」


 段々と、不安が募る。

 こんな大層な仕掛けをして、本当に視聴率が稼げるのか?


「あ、あのすみません」


 道端で歩いているところをそのまま凍らされたような人に話しかけてみる。


「ちょ、ちょっとぉ……本当は聞いてるんでしょう!? タチ悪すぎません!?」


 襟元を両手で掴み、グラグラ揺らす。


「――え?」



 ゴトッ……と、倒れた。



(これじゃまるで……本当に……)


 バタバタと音を立てて無機質な人々が、倒れていく。


「だって……これは……ドッキ――」


 強烈な爆発音が耳を貫く。視界に入る無数の火花、焦げ臭い匂い。ただ見ていることしかできなかった。


「いや……! みんな死んじゃ――」


 ゴトッ。視線を下に向ける。小学生ほどの男の子の顔に、ピシッと、ヒビが。

 呼吸が荒くなる。膝はガクガク震え、顔色は酷く青白い。


(何で……! どうしてこんな……誰か――)

「誰か!!!」


 秒針の音、火花が散る音、風。返事はそれ以外聞こえなかった。


「……また、独り……?」


 膝をつく彼に降り注ぐ太陽の光は、あまりにまぶしい。


(もう、このまま……このまま熱中症にでもなれば……)

「おい」

「え?」


 背後から自分を呼ぶ声が。


「よ、良かった! まだ――」


 振り向くと、小さな箱のようなものが一つ。それだけ。


「……!」

(箱? 録音? じゃあ……ッ!!)


「クソがっ!!」


 涙を流しながら、足を思いっきり振りかぶる。


「フギャッ!!」

「え!?」


 壁にビタンと張り付き、ズルズルとゆっくり地面へ。


(嘘……嘘嘘嘘!? 中に……生き物が!?)


 慌てて手を差し伸べようとした瞬間。


「っ!? うわぁっ!!」


 ギョロッと、一つ目玉が箱に現れる。

 たまらず尻餅をつく。


「イッタ……! ――う、わ……来んな!!」


 一つ目玉は、腰の抜けた少年の方へジリジリと寄っていく。


(死ぬ? 俺……いやだ……誰か――)


 思えば、ずっとこうだった。誰かに助けを求めてばかりの日々。そんな自分が嫌いで、色々なことに手を付けた。

 自分を好きになれるように……誰かに認められるために。でもダメだった。どれもこれも三日坊主で終わり、続けることができても結局最後には諦めてしまった。

 もう、これで終われるなら、こんな臆病でいい加減な野郎の人生に幕を閉じることができるのなら……


「――いや……ここで終われない!」


 震える膝をひっぱたき立ち上がる。


「来いよ! 目玉野郎!!」


 そう言った瞬間、謎の箱は高く飛び上がった。

 目をつむり身構える……何も感じない。


「……?」


 恐る恐る目を開けてみる。

 そこには猫なのか犬なのか、はたまた熊なのか、いまいち特徴をつかめないが白く、かわいらしい動物が膝の上でこっちを見ていた。


 こちらが疑問の表情で見ていると溜息?の様な仕草の後に口を開いた。


「お前……」

「……え?」

「お前さあ!!」


 いきなりの日本語に思わず委縮してしまったが、謎の生き物は構わず続ける。


「さっきからうるっさいんだよ! なんなんだよいきなり! そこら中で一人でブツブツ言ってたかと思えば泣き出すし!! と思ったらいきなりこっち振り向いて俺ん事吹き飛ばすし!! 痛かった!!」


 少年は情報量の多さに硬直して、声を出せなくなっていた。


「それで俺がお前ん事見たらビビッて! また泣き出して! いいか! 俺がお前の敵ならキャンキャン喚いてた時に殺してるっつーの!」


 返す言葉もない、正論パンチが痛い。


「……」

「んあ? 何とか言ったらどーだよ! だんまり決め込みやがって! さっきまであんなに叫んでたくせに!! 俺よりでけぇくせに肝っ玉は小せぇみてぇだな!!」


 黙って聞いていれば言いたい放題。


「大体! いっきなり蹴り飛ばすとか情緒どうなって――」

「……るせー」


プルプル震える手。


「あ? だからもっとはっき――」


ブチッ…と何かが弾ける。


「うるせーんだよ!! 言わせておけば人の事ズカズカ言葉のナイフで刺してきやがって!!」

「!!」


唐突な反撃に、思わず萎縮する謎の生き物。


「こちとらなあ! いきなり周りの人動かなくなって! 変な箱に追い回されて!!  普通なら吐くぐらいのストレス感じてるんだよ! それをお前は言いたい放題言いやがって!! 我関せずってやつかぁ!? 空気ぐらい読め!!」


 謎の生き物は口をパクパクし、何か言い返そうとしている。だが、勢いに押されて肝心の声が出ない。


「それに、お前俺の事殺してるっつったけど! 絶対無理だからな!! お前のそのかわいらしい体じゃ傷一つつけらんねえよ!! ……ったく、もっと考えて発言しろこのクソモッ……あ」


 ふと、我に返った時にはもう遅かった。


「ッグ……グスッ……う、うるせ……ヒッグ――」


 謎の生き物は今にも泣き出しそう。


(まずいまずい……! また言い過ぎちゃった……“これ”もどうにかしないとってわかってんのに……)


 売られた口喧嘩をつい買ってしまい、相手を泣かせたり殴り合いの大げんかになってしまうのは朔良にとって一度や二度の事ではなかった。


「あー……ごめん! さすがに言い過ぎたよね、悪かったよ――けど俺と君、お互い同じくらい傷ついたと思うんだ。ここは、おあいこってことにしない?」



 謎の生き物は静かにうなずき、二人は握手をしてなんとかその場は収拾した。





 _________________





 開口一番喧嘩で始まった二人だったが、

        どうにか落ち着き、今は道すがら自己紹介をしていた。



「ねぇ……なんで俺の肩乗ってるの? ちょっと重いんだけど」

「いいだろ? 減るもんじゃないんだから」


 ニヤニヤしながら、ペチペチ少年の頬を叩く。


「はぁ……俺は堀島朔良(ほりしまさくら)、十五歳、君の名前は?」

「俺か? 俺は……無い」


 笑みが消えた。ただただ寂しそうに遠くを見ている。


「飼い主はいないの? ていうか、そもそも飼われてたの……?」

「飼い主? いた覚えはないぞ? いた……覚えは……」 


 そう言うと、ぽろぽろ涙をこぼし始めた。その滴を、必死に拭い続ける。


「あ、れ……い、いるわけないだろ、こ、この気高い俺に飼い主なんて……」


 強がっているがどうやら限界のよう。

 結局、またわんわん泣き始めてしまった。


「あ、ごめんごめん、嫌なことを聞いちゃったね。もう、この話はやめようか」

(多分……大切にされてたんだろうな……案外かわいいとこあるじゃん)


 朔良は泣きじゃくる生き物を抱っこし、そのまま家に向かった。

お初にお目にかかります。どうも、しぇがみんです。

ここまでのご精読、誠にありがとうございます。


ここから主人公たちはどうなっていくのか、是非、楽しんで頂けたら幸いです。

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