朝一番に太陽が見える場所で咲きたいヒマワリ
太陽がさんさんと照っていた夏が終わり、涼しい風が吹く秋が近づいてきました。夏の花々たちは種を作る準備を始める頃です。
一本のヒマワリの中にたくさんの種が出来ます。でも一つの場所に種がたくさんあるとお互いの大きな葉っぱが邪魔になり、大好きな太陽に当たるのが難しくなってしまいます。
なのでヒマワリたちは小人たちにお願いして、種を遠くの場所に持って行って育ててもらいます。
ある小人がヒマワリの種に話しかけました。
「何処で咲きたい? 好きな場所があったら、そこで持って行くよ」
「じゃあ、朝一番に太陽が見える場所に行きたいな」
「うーん、じゃあ、東の海が見える所に行こう」
そう言って、種を持って行きました。
まずヒマワリの種を持った小人たちは道路に行きました。そして停まっている一台の軽トラの荷台によじ登りました。
「ここから車を乗り継いで海まで行くよ」
そうヒマワリの種にお話ししました。
軽トラは走り出してヒマワリの種がいた場所からどんどん離れていきました。
「バイバイ!」
種は生まれた場所にそう言いました。
ヒマワリの種と小人を乗せた軽トラはすぐに民家に着きました。
「軽トラの運転手のお家かな? ちょっと見てみたい」
「分かった。ちょっと見学しよう」
そう言ってヒマワリの種を持って小人は軽トラの荷台から降りました。軽トラの運転手のお家は広いお庭を持ったお家でした。お庭には畑があって、小人に話しかけます。
「あら、小人さん。何を持っているの?」
「ヒマワリの種だよ」
「だったら、ここの畑の前がいいわ。肥料もいっぱいだし、のびのびと育てられるわ」
「ごめんね。この子は朝一番に太陽が見える場所で咲きたいみたい」
「あら、残念。でもきっと綺麗に咲くわ」
野菜たちは穏やかにお話しします。
その時、バサバサっと音がして野菜たちが息をのみます。小人はすぐに野菜の葉っぱの下に隠れました。ヒマワリの種は「あれ? どうしたの?」と聞くと小人は「シー」と口も音に指をつけました。
突然、突風が吹きました。そして巨大な茶色の生き物が首を傾げて、辺りを見回します。ヒマワリの種と小人は黙り、野菜たちは葉っぱで隠してくれました。やがて茶色の生き物は大きく翼を広げて、どこかに行きました。
「あれは? 何?」
「鳥、スズメかな? 花の種が大好物だから食べるんだよ」
「ひえ」
「だからあいつらから見つからないようにしないと」
野菜たちにお礼とお別れして、ヒマワリの種を持って小人は軽トラに乗り込みました。しばらくすると軽トラは動き出しました。
山を越えて大きな街に着きました。そこは木々がほとんど無く、草もほとんどありません。
軽トラは大きなお店の駐車場に停まると、小人もそこで軽トラの荷台から降りました。
大きなお店は様々な物がいっぱいありました。
「あ、お花がいっぱいある」
「あれは売り物だよ。お客さんが買って自分の庭に植えてくれるんだ」
「へえ……。そこに行くんですか?」
「ううん。僕らは浮き輪がいっぱいある所に行く」
「浮き輪?」
そう言ってカラフルな浮き輪へ向かいました。
「海に行く人達は浮き輪を買うと思うから、この人達について行こう。もうすぐ秋だけど、まだ暑いからきっと海に行く人もいると思うよ」
「なるほど」
ヒマワリの種はそう言って小人と一緒に待ちます。でもなかなか浮き輪を手に取るお客さんはいらっしゃいません。
「うーん、作戦変更!」
そう言って小人はヒマワリの種を持って、浮き輪売り場から離れます。
「今度は釣りの道具がある場所に行こう! 海で釣りする人について一緒に行けば絶対に着くから」
ヒマワリは「なるほど」と言って、小人はパタパタと釣り売り場へと行きます。その間、カートに飛び乗ったり、棚から棚へ移動したり、小人はとっても軽やかに動きました。
釣り道具がある場所ではおじさん達が品定めをしています。浮き輪よりもたくさんの人がいます。
すると一人のおじさんが「海へ釣りに行こうとしたのに、ルアーを忘れちゃったよ……」と独り言を言っていました。小人とヒマワリは聞いて、パアッと顔をほころびました。すぐさま、小人は海へ行くおじさんのポケットに入って行きました。
しばらくしておじさんはルアーを買って、車に乗りました。そこで小人たちはおじさんのポケットから出ました。
後ろの席の窓に小人は座って、ヒマワリに窓の景色を見せてあげました。
車が出発すると、景色はどんどんと変わっていきました。たくさんのお店がありましたが、車を走らせていくと田んぼや畑が見えてきました。
そして車が停まり、海に着きました。おじさんと一緒に小人とヒマワリも車から出ます。
「わあ、海だ」
「砂浜が無い海だね」
ヒマワリはとても嬉しそうでしたが、小人はちょっと不満げでした。でもヒマワリが「大きな空と海」と喜んでいるので小人も嬉しそうでした。
ただ、海は釣り場や港になっているのでコンクリートで埋め立てられていました。これだとヒマワリの種を埋める事は出来ません。
「どうしようかな?」
小人が悩んでいる時です。シュッと突風が吹いたと思ったら、小人は地面から足がつかなくなってしまいました。
大きな鳥が小人とヒマワリの種を足で掴んで、飛び去ったのです。
「おい! 離せって!」
小人が必死でもがくと、ようやくポロッと鳥の足から逃げ出すことが出来ました。
しかし小人はピューッと大きな杉の木の中に落ちて行きました。
「もう、危ないな」
「ごめんなさい。杉の木さん」
小人が杉の木に謝っていると、ヒマワリの種が無いことに気が付きました。
「わあ! 嘘でしょ! ヒマワリの種が無い!」
すぐさま杉の木から降りて、ヒマワリの種を探します。
「おーい! どこだー! ヒマワリの種!」
落ちた場所は海が見える低い丘の上でした。杉の木などの様々な木々が生い茂っています。小人は草をかき分けて探していると、ヒマワリの種の声が聞こえてきました。
「あ、ヒマワリの種の声!」
声のする方に走っていくと、そこは日当たりが良い丘の上でした。
「あ、小人さん! 大丈夫?」
「うん、大丈夫!」
「わあ、綺麗などころだね」
そこは海が一望できる場所でした。小人が感動していると「私、ここにしようかな?」とヒマワリの種が言いました。
「うん、素敵な場所だし、朝一番に太陽が見えるでしょ」
ヒマワリはそう言い、小人は種を埋めてたっぷりとお水をあげました。
「綺麗な花が咲くといいね」
「うん。今まで素敵な冒険、ありがとう」
ヒマワリはそう言って、小人はにっこりと笑いました。