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俺とロイドとマーケット②

繰り返して言うけど、意味の通らなくなった本はいじけて呪われてしまうのだ。


「このままじゃ、こいつ闇落ちしちゃうんだぞっ!どーすんだよっ ガルゼのじーさん、持ち物に探索番号つけてるから、持ち出したのバレるのだって、時間の問題だぞっっ!」


そう!あのじーさん、整理整頓には無頓着の癖に、各地から塔へ送られてきた様々な希少本たちには、届いた先から探索番号を割り振って、何処に在ってもわかるようにしているのだ。

片付けなくても見つけられるためになのか、見つけられないから番号をつけたのか・・。


ガルゼのじーさんは掃除バイト(おれ)が入るタイミングで、娘さんによって本宅へと連行されて、強制的に風呂に入れられている。

『ガルゼの呪いの塔事件』の後、ガルゼニティに課せられたペナルティの一環だ。

放っておくと、何週間も平気で風呂に入らないどころか、【浄化】や【洗浄】の(まじな)いすら使わず、すぐに汚爺(じい)化するガルゼニティとガルゼの塔には、10日ごとに物理的な清掃要員が派遣されるんだ。

そして塔の清掃中(その間)、ガルゼニティは本宅に帰り、身綺麗に整えるべしっと言うのが事件後に魔法政府より課されたお達しである。


大抵はアルバイト(俺ら)が来る前に娘さんが引取済なことが多いけど、風呂嫌いのじーさんが駄々を捏ねるのか、今まさに引き摺られて連行されていく現場に遭遇することもしばしば。その時の娘さんの顔は般若みたいで超怖かった。


連行されたじーさんがいつ戻ってくるかは、じーさんの小汚なさの度合いにもよるけど、いつもは3日~長くて5日ってとこだ。


つまりは3日以内に何とかして、この古冊子を塔に返さなければ、持ち出したことがバレて、下手したら窃盗、悪ければ退学・・・なんてことに・・・。


うわあああああ!


そんなの嫌だっっ


俺は『魔法士』になりたいんだいっ!!



魔法界では一定以上の魔力を持つ子どもは全員、10歳になると魔法学校へ入学する事が義務付けられている。

但し、義務教育なのは3年間の初等部だけ。

その後の3年間の中等部・高等部、4年制の専門部についての進級・進学は自由だ。


とはいっても、一昔前の『魔女は13歳で独り立ち』の親世代と変わって、現代魔法界は中等部までが推奨教育。

よっぽどの事情がない限り、ほとんどの学生が初等部卒業後は中等部へと進学する。


俺とロイドは中等部の3年生。来秋から高等部へ進学予定だ。


『魔法士』は、魔女や魔法使いが、高等部の卒業時に個人の杖と魔力を管理局に登録されて初めて名乗れる称号なんだ。


つまり、高等部まで進学して卒業できなきゃ・・・全うな『魔法士』として職に就けないんだよおおおおっ


俺は1人前の『魔法士』になって、この世の果てじゃないところで、近代的で文化的な魔法人生活を送るんだいっっ


何らかの理由で魔力があるのに入学しなかったり、高等部へ進学しても、進級や卒業基準に届かなかったりで辞めていく者もいるっちゃいる。

そういう者たちは、生活魔法以上の魔力を使わない&使えない職業に就くか、()()()の魔法士としてアンダーグラウンドな道を歩むかの、2つに1つだ。


(ここまで貧乏苦学生として真面目にやってきたのに、いきなりアンダーグラウンドな世界に飛び込む勇気もつもりもあるかーーー!!)


自分で言うのもなんだけど、世界の最果てど田舎育ちのスーパーミラクル世間知らずの俺が、アングラな裏社会でうまく立ち回れるとはまっっったく思えない。


あれでしょ。裏の裏を読みあって、イキウマの目を抜く世界ってやつでしょ?


無理無理無理無理!絶対にむーりー!


自慢じゃないけど、俺は思ったことぜーんぶ顔に出ちゃうし、なんならペロッと口からも出ちゃうんだから。

心理戦とか腹芸とか絶対に無理で、そんな世界に足を踏み入れたら秒で殺られる自信ある。


俺が目指しているのは、公・務・員。

それも、絶対安定・安心の王立役人。

もっと言うなら、大好きな生活魔道具に囲まれながら、新しくって便利な魔道具の研究・製作・開発を請け負う『王立魔道具製作局』。そこに入局したい!


脱・自給自足の最果て暮らし!


そのために、冬祭り(ホリデイ)シーズンに帰省もせずに、貧乏暇なしで日夜バイトに励みながら勉学に勤しんでいるって言うのに・・・こんな、古い本のせいで、退学になんてなってたまるかぁぁぁぁぁ!!!


俺の決死の覚悟による必死の形相に、何か感じるものがあったのかどうかはわからないが。

ジト目で見つめながら、眼前に冊子を突きつけた徹底抗議!の姿勢を崩さない俺の前で、ロイドは居心地悪そうに、両の青目を時折湖面のように揺らしている。


しばらくして、溜め息と共にロイドの形の良い唇が言葉を発した。


「・・わかったよ、リュカ。俺が、悪かった」


伏せた両の眼を縁取る金色の睫毛が、悲しそうにふるふると震えている。ロイドの青空を写した様な澄み渡った青目(ブルーアイ)も、今日はいつもより暗く沈んでいるようだった。


う・・・。そんな・・・、そんな目でじーっと見つめられたら・・・!


俺が悪いみたいじゃないかぁぁぁぁっっっ


悲しそうなロイドの視線に、良心がきりもみするが、だからといってミミズのバラバラ殺人事件状態の古書は元には戻らないし、周囲に呪いによる汚染を拡げてしまう危険性を考えると、このまま塔に戻すこともできない。  


なので、かくなるうえは。


「・・・寮に戻って、これ直すの手伝ってくれるなら、ゆる」


「手伝う」


即答だった。しかもちょっと食い気味で。


更に、「人に見られたら困るから談話室より部屋の方がいいな」「夜食やお菓子もあった方が捗るかも」とぶつぶつ言いながら、混雑する冬祭り冬祭り(ホリデイ)の屋台に飛び込んでは、両手いっぱいに食べ物と飲み物を抱えて戻ってきて俺に手渡し、また一番街に飛び込んで・・・というのを繰り返すこと数回。

ぽかんとしているうちに、俺の両手はテイクアウト用の包みでいっぱいになった。


そして、そんな俺ごと浮遊魔法で抱えあげたロイドは、マーケットの出入り口であるアーチ門の外まで文字通り魔法でひとっ飛びし、転送門(ポート)を通って学園に戻り

(転送門(ポート)の順番待ちに数人並んでいる後輩がいたが、ロイドが天使の笑顔で「先にいい?」って聞くだけで譲ってくれた)

我らが学生寮の3階南端のロイドの部屋まで、これまたひとっ飛びで帰ってきた。


・・・早ぁっ!


そして今、ロイドは、談話室にあるミニキッチンに紅茶を入れに行っている。


湯を湧かすくらいなら部屋でも出来るから、たぶん俺の好きな、小鍋で煮出して作るタイプのミルクティーを作りに行ってくれているんだと思う。


俺は、びっくりするほど早く戻ってきたロイドの部屋でひとり、首をかしげている。



ロイドって・・・



そんなに謎解きが好きだったのかあ!





お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

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