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俺とロイドとマーケット①

冒頭の台詞の意:「まったくさあ、ロイドは!なんでも魔法で解決しようとするからあ!」

「はっはくはぁ!(もぐもぐ) おいおはぁっ!(はふはふ) はんへもはほーふはへはひーほほおってるはらはあ!(ごっくん!) 」


「まぁまぁ、そう怒るなって。紙魚は全部回収出来たわけだし、手伝いにきたのは事実なんだから・・・ あ、ほら、リュカの好きな串焼き肉あるよ。もう一本」


既に両手にそれぞれ別の食べ物を持っているにもかかわらず、口の前に新たな串焼き肉がずいと差し出される。

香ばしいタレと、程よく焼けた肉の美味そうな匂いに、口の中がぎゅうと唸るほど唾液に満ちる。


むむっ食べ物で俺の機嫌をとろうとしたって駄目なんだぞっ!


「もう!そうやって話逸らそうったって、・・・これうんまいまあ!(もぐもぐもぐ)」


ちくしょー!食欲には勝てーん!!

だって成長期ですからーーっ!!

あと20cmは伸びる予定ですからーーっっ!!


ロイドは俺の食べ物の好みを熟知している。

一般的には焼きすぎかなってくらい、良く焼けた肉が好きなこと。塩味の強いタレよりも、果物がベースになっているような、甘味のものが好きなこと等々。


結局、次々と差し出される、俺の好みドストライクの串焼き肉やらラップサンドやら生果物がごろごろ入ったサンドイッチやらに余すことなく齧り付き、意識はまるっと持っていかれ。

数10分後には腹が満ちてほっくほくの俺が出来上がったのでありました。


あー、しーあーわーせー・・・。



ホリデイ2週間前の週末。

そして期末試験の直後の、試験休み真っ只中の本日。


『学園前通り』にはずらりと露店や屋台が並び、試験勉強から解放された学生達で、ひと足早い冬祭り(ホリデイ)が来たかのように、浮かれた賑わいをみせている。


魔法学校は全寮制で、学期が始まるとよっぽどのことがない限り、学外へは外出禁止なんだけど、この『学校前通り』と呼ばれる商業地区(マーケット)だけは例外で、放課後や週末、生徒が自由に訪れることの出来る学外の場所である。


因みに『学校前通り』とは言っても、本当に魔法学校の目の前にあるわけではない。

学内の一角にある転送門(ポート)が、マーケットの入り口前に繋がっているのだ。


縦横に加え、上下にも店が連なっているマーケットは、地上は1番街から5番街まで、地下は5階層までとキューブ型に広がっている。


2番街までを『表通り』、3番街を『中通り』、4番街・5番街は『裏通り』と呼ばれ、俺たち学生が入れるのは表通りの1番街と2番街まで。

奥に行けば行くほど、深く潜れば潜るほど、怪しげな店が増えていく。


マーケットの入口の、大きなアーチ門を越えてすぐの大通りが1番街。何時でもたくさんの露天と屋台が所狭しと並ぶ、賑やかな場所だ。


食べ物・飲み物・お菓子・小物・装飾品等々、様々なジャンルの品物が売られているだけじゃなく、俺たち学生の小遣いでも買える良心的な値段設定と、明らかにティーンエイジャーに向けた商品展開。週末や、今日みたいな試験休み期間は遊びにきた学生たちでごった返している。

特に、冬祭り(ホリデイ)シーズンのこの時期は、どこの出店でも星や雪を模したお菓子と、贈り物用のアクセサリーや小物が店先を彩り、ポップでキャッチーな様子に見ているだけでもわくわくする。


そんな煌びやかな一番街を、食べ物ばかり抱えきれないくらい抱えて、食い道楽よろしくひたすら食べ歩いているのは俺たちくらい・・・


・・・。


「・・・じゃ、なーーーいっっ!!」


「わ、なんだよ、急に。驚かせるなよ」


「いやいやいやいや!そんな心外そうな顔してもダメだかんね?!これ、どーするつもり?!」


そーでした!


肉とか冬祭り(ホリデイ)屋台の楽しそうな雰囲気とか肉とかで、すっっっかり忘れるとこだったけど!俺は怒っているんだった!あっぶなーっっっ!!


串焼き肉のタレでまだ若干ベタついている手を、ごしごしごしっとローブの裾で拭って、ローブの大きなポケットから古びた革の表紙の冊子を取り出した。


それを、ロイドの顔面にでん!っと突き付ける。


「これ、ここから後ろの頁、ぐちゃぐちゃなんですけど」


「・・・」


いつも真っ直ぐ俺を見るロイドの、透き通るような青色の瞳(ブルーアイ)がすい・・・と横に逸れる。


視線を逸らすロイドの横顔をじとっと見つめながら、俺は更に一歩近づいて、顔面に突きつけたままの古冊子の頁を捲って見せた。


そこにあるのは、ミミズが盛大にのたうちまわったあと散り散りバラバラになったような、とても文字とは思えない線の羅列。

それが数頁に渡って続いている。


「ガルゼのじーさんの塔! で、あーんな大捕物しちゃうから! せっかく俺が時間かけて追いかけてたのに・・・」


何を?

そう、《紙魚(しみ)》を。

実は《紙魚(しみ)》は、「発生」して「本体」から飛び出してしまっても、自発的に収まるところに収まったのであれば元の状態と同じ語順に並ぼうとする習性がある。帰巣本能ってやつだ。


『どんなに大切にしていても、形あるものは傷むしいずれ壊れる。古い本には《紙魚》だって湧く。大切なのは、時間がかかっても、程ほどに追い立てながら自主的に収まるのを根気よく待つこと』


慌てず・騒がず・落ち着いて・・・というのが、ばーちゃん直伝のこの世の果て流、《紙魚(しみ)》対応のコツなのである。

そして更に言うなら、収まる場所は手入れをし、修復を終えた「本体」であるのが望ましい。


『外側ばかり新しくても中身とそぐわなければ、いずれそのちぐはぐのツケを払うことになる』

っていうのもばーちゃんの口癖だった。


そう。だから、例えどんなに高度にコントロールされた魔法でも・・・『旧き善き魔法使いの血』が多く集まる魔法学校の中で、杖なし・単語詠唱のみで完璧に風を操れるのがロイドくらいだとしても。


旋風(ウィルテクス)】によって、無理矢理かき集めてぶちこんだ結果、ミミズの線形文字の集合体の出来上がり!じゃあ、《紙魚(しみ)》対応としては・・・


大失敗なんだよぉぉ!



お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

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