魔女の友通信
前半部は昨日公開分をこちらに持ってきております。
表現を少し変えております。
『はたきアジャスター』と『自浄機能つき雑巾』に、【浄化】の魔法をかけて汚れを落とし、作業を再開する。どちらも先月通販で手に入れたばかりの新入りの魔法具だ。
そう!『月刊・魔女の友通信』の新・製・品!
カタログで見かけたときから絶っ対〰️に欲しくて、発売開始の1刻も前から通信用の水盆の前でスタンバった。
びんぼー苦学生の俺は、携帯水盆なんて当然持ってないからさ。
学園の共用ブースにあるやつね。
数が限られている共用水盆の1つを長時間占領したので大ブーイングを受けたが、背に腹は変えられない。
そうでもしないと全国の魔女の奥さまたちとの熾烈な争奪戦にぜったい勝てないんだから。
発売日当日の在庫にありつけるか、少なくても『次回入荷時の優先販売』枠にこぎ着けないと、ここの商品はあっという間に『永久欠番』の札がさがってしまうのだ。
魔法使いや魔女として生まれて育っても、全員が全員、思った通りに魔法が使えるわけではない。
魔法を持って生まれることと、魔法が使えることは、全く別の話。
むしろ、魔法を自在に使える魔女や魔法使いは珍しく、「魔法士」として魔法に関わる専門職に就いている。
一般的な大体の魔法世界の住人は、魔法を使うのを苦手としていて、代わりに使用するのがこの生活魔法具だ。
生活魔法具は、使用者が自分の魔力を流すことで決まった働きをする魔法具だ。
俺の持っている『はたきアジャスター』や『自浄機能つき雑巾』なんかがまさにそう。
ごみを吸いとる魔法なんて、自前でやろうとしたら・・・風魔法と空間魔法の応用?それに浄化の呪いを常時発動していればいいのか?
とにかく、複数の魔法と呪いを常時発動させながら操作しなければならないってゆー、ものすんごい高度な技術が必要なんだけれど、そのレベルの魔法を使いこなせる魔法使いなんて、ほーんのひと握り。
そのひと握りの魔法使いが一般の魔法家庭にいるわけがないので・・・一般の魔法家庭ではこのような生活魔法具を使って魔法ありきの生活を送っている。
『魔女の友通信』は、家庭用の生活魔道具の総合カタログだ。「今までありそうでなかった、痒いところに手が届く」って言うコンセプトでの商品開発が大ヒット。
新作が発売日に完売するほど大人気の魔法具メーカーだ。
新作発売日に目をぎらぎらさせて水盆の前にスタンバっている魔女や魔法使いは、俺だけじゃないはずだ。
因みに通信用水盆を独り占めした代償は、掃除当番や課外実習を代わったり、課題を代理提出することで許してもらった。
向こう3ヶ月分の空きコマが全て潰れてしまって、とほほな気持ちがナキニシモアラズなんだけどさ…。
おかげで今回も無事に新作が手に入ったし、悔いはない!
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汚れがひどい本は、薄めた石鹸水を染み込ませた雑巾で拭き取り、完全に乾くまでそのへんに浮遊させておく。
乾く前に書棚に戻してしまうと、中の頁がくっついてカビや染みなど痛みの原因になってしまうから。
ひと棚終わるごとに棚ごとエッシェンシャルオイルを含んだ霧で包んで、次の棚に取りかかる。
虫が寄り付かなくなるリュカ様謹製のオリジナル配合である。
「殺菌・殺虫に、艶出し効果の呪いを合わせてあるからなー。しっかり守ってくれよー」
天窓から差し込む日差しはさらに斜めに傾いて、塔の中はオレンジ色に染まっている。
無心に作業した甲斐あって、残すところあとひと棚。
よし!ロイドとの約束に間に合うぞ!
やれば出きる子、俺えらい!
書棚と自分を励ましつつ、再び作業を始めた矢先に耳元をブーンと羽虫の集団のようなものが横切った。
「しまった!紙魚!」
【紙魚】
別名・本の蟲。
傷んで壊れる寸前の本や、穢れが溜まって呪いに落ちる寸前の本から抜け出した文字達だ。
頁ごと、文章ごと抜け出て移動する様子が魚の群れに似ている。
自力で本体から抜け出すくらい、主張の強い作者の本やパワーワードの含まれた文章であることが多い。
こいつらの厄介なところは、抜け出したあとの頁
が真っ白になり元には戻らないこととと、新たな棲みかを求めて手当たり次第に他の本に潜りこみ、入り込んだ本の中身もぐちゃぐちゃにしてしまうことだ。
無理やり中身を掻き回されてぐちゃぐちゃにされた本は、いじけて闇落ちしてしまう。
そのまま朽ち果てるか、新たな呪いの本となるかは神のみぞ知る。
「くっそー!気を付けてたのに!」
脚立1号から飛び降りて、手付かずだった最後の棚に駆け寄った。
書庫や古い巻物なんかが保管されているような倉庫では、この〈本の蟲〉が沸き出すと、あっという間に他の古い書物という書物を食い散らかされて汚染が広がるので、注意が必要なんだ。
だから今回も、痛んでいたり汚れている本や棚から真っ先に【穢れ払い】してたはずだった。
・・はずだったのにー!
『お前は詰めが甘いんだよ。四角い場所を丸く掃くような真似するんじゃない』
どこからかばーちゃんの声が聞こえてきたような気がして、思わず辺りを見回してしまう。
いるわけないってわかってるんだけどさ。
条件反射ってやつだ。
なんなら後ろから煙管で小突かれそうな気配すらして、首もすくめてしまっている俺。
くっそー。
くっそー。
「このリュカ様から逃れよーなんて・・良い度胸してんじゃねーかっ」
お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m