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呪いの塔ができるまで

切りが悪かったので、後半部分を次話にしました

「バキューム【吸い込め】!」


右手に持った杖に『埃を食べるはたきアジャスター』を接続して起動させ、左手の『自浄機能つき雑巾』で乾拭きする。

それを延々と、無心で繰り返すこと数刻。


俺の左側には、清拭済みの本が次々と積み上がり、それを働き者の脚立達が縦横無尽に動き回って書棚に分類別に収めていき、書棚は収納された冊数に応じて棚数を減らしたり増やしたりしている。

さすが、王立図書館採用の最新魔道具たち。

素晴らしい流れ作業である。


こんな働き者の魔道具達を機能不全に陥らせるなんて、ガルゼのじーさんはある意味すごいんじゃ・・?


「こんな働き者の魔道具達を機能不全に陥らせるなんて、ガルゼのじーさんはある意味すごいんじゃ・・?」


思わず漏れた心の声に、トラウマを刺激された脚立が俺の股の下でカタカタと震えだした。入り口近くで崩れた本に埋もれて動けなくなっていた、脚立1号だ。


あっちとこっちの通路で立ち往生していたのが2号と3号で、崩れた本の下敷きになったのか脚が折れて入口付近に避けてあるのが4号。5号と6号は塔に入る際に扉を開けた途端、外に飛び出し逃げ出してしまった。


(最新魔道具の性能より、じーさんの汚部屋製造能力の圧勝だったって話だよね)


今度は声にださずに、心の中で納得する。


最愛の奥さんを亡くしたのをきっかけに魔法会の第一線を引退した大賢者ガルゼニティが、所有していた土地屋敷その他諸々を一人娘と娘婿に譲り渡して最低限の家財道具(?)と共にこの塔に引きこもったというのは、教科書にも載っている有名な話。


そして、引退した超!高名な大魔法使いが、更なる魔法探求のために余生を捧げて研究を続けているという噂は、光の速さで世界各魔法国へと伝播し、世界中の有名著名な魔法使いと魔法政府が次々と協力を申し出たのだ。


そうして、世界中の協力者から珍書・禁書・古文書が送られ、集まるようになったこのガルゼの塔は、古い書物が持ち込んだ、澱と淀みと穢れにより、瞬く間に「世界で一番の汚部屋」となったのである。


汚れは穢れだ。

穢れが溜まれば祟りとなって、祟りが集えば呪われる。

「掃除とは穢れを払う(まじな)いなんだ」って言うのがばーちゃんの口癖で、俺は耳にタコができそーなくらい聞かされてきた。


要するに、世界最賢のウィザードには生活能力とゆーものがまるでなかったのだ。


そもそもガルゼニティは、何か思い付いて一度部屋に篭ってしまえば、何日も本と書類に埋もれながら没頭する性質だったのだ。

それを生前の夫人やハウスメイドが、最低限身の回りを整えてなんとかなっていたという事実を、本人含めて誰も気がつかなかったことが最大の過ちだった。


『穢れ』に汚染された品を放っておくと、周りの正常な品々にも汚染が感染(うつ)り、より大き『穢れ』ができる。

この塔のように、物に溢れている所で浄化もされずに放置された『穢れ』は、周りの品々を巻き込んで次々と汚染を広げていって・・・1が2になり、2が4になり、8になり16になるがごとく。爆発的な集団汚染を引き起こすのだ。


『穢れ』の温床となった塔の内部からは、呪いの品が次から次へと生み出され、一時期はここら一帯に瘴気漂う大惨事。

周辺の町には避難命令が出され、そのまま危険地帯(デンジャラスゾーン)としてロックダウン。

国家魔道士の一団が出動し浄化にあたったが、ようやく塔の中にたどり着いた頃には、団員の半数が祟りと呪いの影響を受けて離脱していったという。


瘴気は、穢れや呪いに汚染された品物が出す有毒ガスのようなものだ。

触れている時間が長いほど、吸い込む量が多いほど、心身に悪影響を及ぼす危険が高くなる。


穢れや呪いへの耐性が弱い者や、そもそも体力のない幼子や老人などは極少量でも深刻な影響が出てしまうことから、人里近くで瘴気が発生するような事態(こと)があれば、即!立ち入り禁止区域になるし、国家魔道士団が重装備で出動するくらいの大事だ。


魔道士団の突入を受けたガルゼのじーさんはというと、周囲に蔓延する呪いにも、外の瘴気騒ぎも、穢れを好んでやってきた毒キノコとか毒グモとか毒へびとかの闇の生き物に纏わりつかれようと一切意に介さず、古文書の解読に没頭していたそうだ。


さすが偉大なるウィザード。


強靭な身体と精神があれば呪いなんか気にする必要もないということなんだろうけど・・


ううっ、無理。

澱みとか汚れとか穢れとか、俺絶対無理っ。想像しただけで気持ち悪いっ。


そもそも、多少部屋を汚したくらいで瘴気が発生するような事態にまで発展することは、まずないんだ。

そんなこと言ったら、同級生のラニーニャとフロックの双子の部屋とか、なにかと嫌がらせしてくるロンバートの部屋とかだって大変なことになるはずだもの。


ほんと、じーさんどんな汚し方したんだよって話だ。


災害規模の瘴気を浄化し終えた魔道士団と、塔への突入の立ち会いに呼ばれていたガルゼニティの娘婿は、中の惨状を目の当たりにして絶句し、一人娘は父親(ガルゼニティ)のあまりの汚(じい)っぷりに絶叫した後、卒倒した。


その後、再び穢れと呪いによって瘴気を発生させないよう塔内部の浄化と清掃に取りかかった魔道士団の精鋭達は後に語る。



『外で瘴気の浄化をしている方が数段ましだった』


『いっそ呪われて、戦力外になりたかった』と。



禍々しく穢れた室内。

漏れでる悪臭。

その中心で汚泥にまみれ、闇の生き物に纏わりつかれた、とても正気(まとも)とは思えないガルゼニティ。(注:正気(まとも)だった)


以来、ここは『ガルゼの呪いの塔』と呼ばれ、魔法政府の管理下に置かれている。


一連の出来事は『魔法政府の今世紀最大の大誤算』として近代魔法史の教科書にも載っちゃってるし、『呪いの全てはガルゼニティから始まる』って(ことわざ)にもなっている不名誉っぷりに、周辺の町から非難が轟々と集まったこの国の魔法政府は怒り心頭だ。

(ガルゼのじーさんは気にしてなさそうだけど)


ガルゼニティとその家族には厳重注意。

塔の所有権こそガルゼニティのままだが、管理責任は国家魔道士団におかれ、定期的な巡回と浄化のローテーションを徹底したうえで王立魔法図書館で採用されている蔵書整理の最新魔法具を完備。


そして冒頭に戻る。


結局、どんなに魔法師団が浄化魔法を使っても、それを上回るスピードで汚れが溜まり、塔の至るところから汚染予備軍が発見されるもんだから、魔法政府は大変遺憾ながらマンパワーの投入を決めた。


それが、俺って訳!

お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

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