ばーちゃんはチートな大魔法使い
俺のばーちゃんは、他の魔法使いからは『最古の魔女』とか、『始まりの魔女』とかって呼ばれている。
魔法史の教科書はいつもばーちゃんの存在から始まるし、絵本に出てくるお伽噺の魔女のモデルはだいたいばーちゃんだ。
魔法大全の1巻、『創世記』によると、この魔法世紀の始まりにいたのがばーちゃんで、大陸魔法族の5大名家の祖となる魔女を育てたのがばーちゃんで、すべての魔法の起源になっているのが俺のばーちゃん・・・?
いやいやいやいや。
もう何が何だか訳がわからない。
ばーちゃんのチートが壮大すぎる。
そもそも俺は、ばーちゃんのそんな話、この学園に入学するまで知らなかった。
"世界の最果て"には、たまーのお客はやってくるけど、ばーちゃんについて話す人なんていなかったからね。
実のところ、体よく『孫』って言ってるけど、ばーちゃんがめちゃくちゃに古い、ふっるい魔女で、俺は孫なんてのよりも本当はもっと代が離れているんだろうなーとは思ってた。
だって、ぴちぴちの男子中学生な俺のばーちゃんにしては、皴くちゃ婆過ぎる。
顔も覚えていない両親のほかにも、絶対何代か挟まってるに違いないとは思っていたけれども・・
それがまさかの創世記!
ばーちゃん、5000年前から生きてんの?
いくら魔法族の寿命が長いからって間に何世代入ってんの?
それ俺、孫じゃなくて子孫だよね?
もー、アイデンティティがものすごい勢いでクライシスである。
入学当初は、何の冗談だと思ってたんだよね。
ほら、フェイクニュースってやつ?
都会で流行ってるっていうし、何でかわからないけどみんなで口裏合わせて俺にどっきりでも仕掛けているのかと。
だってさあ。俺とばーちゃんとの最果てでの暮らしぶりなんて、よく言ってシンプル、はっきり言えばただのびんぼー暮らし。
伝説の魔女の自宅にしては、とてもじゃないけど質素すぎるボロ小屋に、世捨て人同然のばーちゃん。
そして、馬と牛と山羊と鶏の世話をしながら、薬草とか野菜とか穀物なんかを育てて。
さらに、周りの山に自生している茸や苺や野葡萄を採ったり、それを麓の町に持っていったりして暮らす、実働部隊の俺。
念のため言っとくけど、俺自身はなんのチートもない。
ちょっと辺鄙など田舎育ちなだけの、至ってふつー&平々凡々・・・どころか、正直に言えば成績なんて万年中の下だ。
え、お金?
さすがに知ってるよ!
使ったことはほとんどないけど。
ばーちゃんが「ころころと価値を変えるもんは要らん」って主義なので、うちはもっぱら物々交換。
だけど、金とか銀とかでピカピカしてて綺麗だったから、子供の頃は探してよく集めてた。
山の中とか川の中とか、探すと結構落ちてるんだよね~。
それに、うちで育てたなんやかんやを町に持っていくのは俺の役割だったからさ!
うちのボロ小屋で作ったり野菜や果物と、その辺で採った薬草なんかを売っては小銭をもらってか、本や玩具を買ってみたり、露店で買い食いしたりと結構自由にやっていた。
植物の力は偉大なり。
もうすぐホリデイなので、町の広場にはまた、露店が並んでいるはずだ。
この時期に出てくる串焼肉の露店が超旨いんだ。
甘辛いタレに絡めた肉を、串に刺して炭火で焼いたやつ。口に含むと、柑橘系の果物の香りがふわんと鼻に抜けて、噛むと肉汁がじゅわあって口の中に広がって、炭火で焼いた独特の香ばしさとの絡みが絶妙で・・
アレを考え出した露店のおじさんは天才なんじゃないかと思う。
俺としてはホリデイシーズンと言わずにいつでもこの串焼肉を売ってほしいし、売っているなら足繁く通う所存なんだけど。
残念ながら露店のおじさんは普段は他の町に出稼ぎに行っているそうだった。
なのでおじさんのいる(串焼肉のある)ホリデイシーズンは、俺もいつもより多めに町に降りる。
そして、この串焼肉とホリデイの飴細工を、俺とばーちゃんと、帰り道の俺のおやつ用に3つずつ買って帰るんだ。
寄り道は決まって、川の側の大きな栗の木の所。
広い森のなかで一番たくさん実をつけるやつ。
この栗の木に登ると、斜面にある蜜柑畑とうちとがよく見える、お気に入りの場所。
20本ある蜜柑の木は、毎年どの木が一番甘い実をつけるかばーちゃんと品評会してて・・・
ああ、なんだか無償に蜜柑が食べたいなあ。
『コツン!』
魔法ランタンに頭を小突かれてはっと我に返る。
天窓から差す光が僅かに斜めに傾きはじめていて、部屋一面が蜜柑色になっていた。
気がつけば、書庫に入ってからもう結構な時間が経っている。
ぼーっとしている俺にしびれを切らした魔法ランタンに、本日2回目の「ごめんね」をして、止まっていた作業を再開することにした。
今日は夕方からロイドと買い物にいく約束をしてるんだもんね!
約束の時間まであと数刻。
頭の中から蜜柑とばーちゃんと串焼肉を追い出して、ついでに先ほどのくしゃみで濡れたマスクに『清浄』の魔法をかけて、集中することにする。
よーし、いっちょやってやるぜーい。
お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m