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特別講義②

講義棟の最上階、37番教室にトリストラム先生の声が響き渡る。


「さあさ、皆さん!近くの人と班になってくださいね。

僕からの講義はいったんおしまいにして、ここからは班討議(ディスカッション)を行ってもらいます。 (グループ)は3人以上でお願いしますよ。

分かりやすく、『魔法の起源』についての研究の歴史を追いつつ、同じようにディスカッションも進めますよ」


高らかなトリストラム先生の声を合図に、ガタガタガタンと教室内が騒がしくなる。みな3人以上で1グループになれるよう、顔見知りを探して席の移動を始めてる。

俺はロイドと、もうひとり、前の座席に座っていた同級生のトビーと3人の班を組むことにした。


「前にも話したように、『魔法の起源』は定かではありません。遠い昔に、世界には魔法を持つ者と持たない者がいて、どちらの数も少ないうちは混在して暮らしていたけれど、どちらの数も増えてくると、それぞれの世界に分化して社会を持つようになった・・というのが現在の通説。私はその先が知りたいのです、魔法を持つものと持たないものを画しているものは何か、この違いはどこから来るのか」


がやがやとする教室内を気にする風は全くなく、トリストラム先生の演説が続く。


「みなさんの班におひとつずつ、こちらの青い水晶をお配りします。ご存じの方もいるかもしれませんが、これは"記憶の魔法玉"で・・・発言するときは、このように手をかざして青く光るのを確認してから・・・話し始めてください」


実際に先生が青水晶に手をかざして、青く光る様を見せる。


「この状態で話した内容は水晶に記憶され、僕が後で確認できるようになります。 ディスカッション(話し合い)ですので自由に、忌憚のない意見をお願いしますね。 最も真に迫った話し合いのできた班を模範解答として、全員に50点の加点を魔法史学から贈りましょう!」


トリストラム先生が青い水晶を手ににっこりと微笑んだ。


これ、これ、これを俺は待っていたんだーーーぁ!

得意な部類の薬草学、呪術学と違って、魔法史は逆立ちしたって加点のもらえる10位以内に入れないからさあ!

特別講義の模範解答狙って行くぜーーーっ!


回ってきた青水晶を片手に意気揚々としている俺を、ロイドが呆れたように見ている。

だって、だってさあ、俺の班にはロイド(100点満点)がいるんだよ。期待するなってほうが無理。もうほんと、神様仏様ロイド様っ 頼むよ~~~~~!!


「"記録の魔法玉"、久しぶりだなあ。僕んちにもあるよ。婆ちゃんが使ってるの。いろんなこと忘れないようにって」


トビーが魔法玉に手をかざして、青く光らせながら懐かしそうに触る。


「トビーのご両親は・・・まだ帰ってこないの?」


「うん・・イングラエル国立公園の噴水からは移動したみたいなんだけど、今度は旧パスミシュ大聖堂の前で銅像化しているみたいで・・」


困っちゃうよね と、眉をㇵの字に下げてため息をついている。

トビアス・ドミトリアス・グルデルンベルク3世。

通称トビー。俺たちと同じく中等科3年の同級生。長くて厳つい名前は、ドミトリアス家のご先祖様の中でも高名な魔法使いだったり、立派な功績をあげた人の名前が入っているんだって。

そしてなんと、トビーも(うちのばーちゃんほどじゃないけど)高齢のお婆さんとふたり暮らしなんだ!

なので俺たちはお互いに仲間意識を持っている。


トビーの家はれっきとした古くから続く魔法使いの家系で、ご両親も優秀な魔法使いと魔女だったらしいんだけど、トビーがまだ赤ちゃんの時に、ふたりで出かけた旅行中の夫婦喧嘩がヒートアップして、観光名所を移動しながら石化の呪いをかけあっている。

旧イングラエル国立公園の噴水広場から、パスミシュ大聖堂跡地へ。

ドミトリアス夫妻の夫婦喧嘩ごと観光名所になっているって話なので、移動先のパスミシュ大聖堂も人気スポットになるだろう。


「2人とも、負けず嫌いの意地っ張りだからさ・・。先に降参するなんてどっちもできないんじゃないかな・・」


トビーの榛色の瞳(ヘーゼル・アイ)に諦めの文字が浮かんでいる。


石化や銅化の解除は、どちらかが先に掛けた呪いを解かなければならない。魔法士同士の決闘において、先に呪いを解く、イコール降参するって事と同じ意味を持つため、プライドの高い魔法使いにはなかなか難しい・・ということで、10年越しの夫婦喧嘩は今も続いている。


夫婦でって言うのは珍しいけれど、実はこういういざこざは魔法界ではよくあることだ。

魔女も魔法使いも、実力主義で自分至上主義なので、やりたいこと、やりたくないことを基本的に我慢しない。力の強い魔女や魔法使いほどこの傾向が顕著で、自己愛と顕示欲がとにかく強い。

時にそれがぶつかって、ドミトリアス夫妻のようにお互いどこかで石化しながら睨み合うか、百足(むかで)蚯蚓(みみず)になって這いずり回るか、水芭蕉と蓮の花として幾霜年風にたなびくか・・・

ある意味、自己愛と自己顕示欲の最終形態。

でも、でもさ。

その間に生まれた子供(トビー)は10歳にもなっちゃっているわけで、どこかで石や銅化している限り両親とは会えないわけで。


「魔法族はヒト族の中でも寿命が長いし、魔法力が強いとさらに長命だからな」


頬杖をついたロイドが俺の思考を読んだように話し出した。


「非魔法族と比べて、魔法族は総じて寿命が長い。成人してからの10年、20年なんて単位は気にならないくらいね。ドミトリアス夫妻にとって、トビーはまだ生まれたばかりだと思っているんじゃないかな。

優秀だし賢明な魔法士の2人だったから、案外トビーが会いに行ったら夫婦喧嘩も終わるんじゃない?」


にっこりと、天使のように整った笑顔をトビーに向ける。窓から降りてくる穏やかな光が、ロイドのブロンドの髪の毛にきらきらと反射する。

その眩しさに俺は少し目を細めた。

天使も赤面して逃げ出しそうな光の暴力にトビーも目をしぱしぱさせながら見とれているけど、なんとなーく、俺はロイドの様子から不機嫌の気配を感じ取っていた。

表情は特にかわらないし、語気を荒げるわけじゃない。

無視するわけでも、棘のある言葉をいうわけでもない。

でも俺には、機嫌が悪いっていうオーラが、ひしひしと感じられる。


だけど、とにかく今は、授業に関わりのある話をしなくちゃ。50点の加点のために。

"記憶の魔法玉"に手をかざして、青く光るのを確認してから話し出した。


「『魔法の起源』てさ、"血の記憶"と関係あるかな。魔法の遺伝は血統因子で決まるってやつ。 ええと、両親が同じ属性だと子も必ず同じ属性になって、両親の属性が違うもの同士でも子は必ずどちらかの属性を受け継ぐ、だっけ?」


魔法生物学のフレイミー先生の授業を思い浮かべる。


「正確には、5大属性が顕性で、他の属性が劣性遺伝なんだ。水・炎・風・土・光の顕性遺伝子があると、氷・雷・時・緑・闇の遺伝は表にでない。相性が良いと第1属性、第2属性というように2つの属性魔法が使えるようになることもあるけど、素質と鍛練どちらもかなり必要だよ」


俺とトビーはふむふむと頷きながらロイドの話に耳を傾けた。


「うちの・・・ジェリーニの家は『風』の一族だけど、闇と雷の属性魔法も使えるんだ。かわりに、氷と時・緑の魔法は見たことがない。 まあ、名前のついた属性の分類なんてほんの一部で、分かってない部分のほうが多いんだよ。誰だって自分の手の内全部見せようと思わないだろ」


確かに、公になっている魔法の属性は、教科書にも載っているくらい研究し尽くされている。

例えば、炎は土に強いけど水に弱い、風は炎に強いけど土に弱いとかね。

魔法にはパッと見の属性が分からないものも多いので、全てを公表してしまうのは自分の弱点を公開しているようなものだ。




お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

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