第8話
コステロ「...」野巫医者の診察を受けるコステロ。
野巫「何処が痛ぇ...腹か...?」
コステロ「何処も痛まん...」
野巫「じゃあ、なして食わんの...?」
コステロ「食べられん...」
野巫「...」
商人「コステロや、正直言わにゃ直らんのぞ?」
コステロ「本当に何処も痛まんよ...」
野巫「んーっ、判らんのう...もう、放って置け...」
「食わねば死ぬで、孰れは食うよ...」
商人「...」
野巫「まあ...暫く様子を見いや...」
コステロ「ボリボリ...」
野巫「あーっ、此方は良くねぇなぁ...」
コステロの手首を掴み腕を診る野巫医者。
商人「んっ...?」
野巫「皮膚病じゃ...随分膿んでもうとるわ...」
商人「此の頃よう掻き毟り居るで、気にはなって居ったのだが...」
コステロ「ボリボリ...」
商人「此れ、止めい!」
野巫「些と沁みるで...」野巫医者がコステロの腕に薬液を塗布する。
コステロ「...」
野巫「良し...」
「掻くのを止めんと何時まで経っても治らんよ…」
コステロ「...」
商人「ほれ...」酒瓶を差し出す商人。
野巫「あんがとさん...」
コステロ「すん...」
「コツ、コツ、コツ、コツ...」階段を上る何者かの姿。
コステロ「すんすん...」コステロが、臭気を嗅ぎ取り戸に目を向ける。
「ガチャ...」戸が開き、腕を負傷した男が現れる。
野巫「おいおい、如何した其の様ぁ...」
コステロ「グゥウウーーーーッ!!」血を見て目を見開くコステロ。
野巫「又候、嬶の仕業かい?」
男「うんにゃ、野良に齧られた...」
椅子に座り服を脱いだ男の背中一面に、無頼特有の入れ墨が。
コステロ「...」コステロの目が、血に塗れた男の腕を食い入る様に見詰める。
商人「帰るぞ、コステロ...」戸の前に立つ商人がコステロを呼ぶ。
コステロ「...」階段の半ばで足を止め、医院の戸を見上げるコステロ。
商人「...」そんなコステロの姿を、出口で待つ商人が不安げに見上げる。
コステロ「ゲロロロッ!」
孤児「うげっ...!」嘔吐したコステロを、椅子から蹴落とす孤児。
孤児「コステロが吐き居った!」囃し立てるその他の孤児たち。
商人「...」無言で吐瀉物の処理をする商人。
コステロ「...」立ち上がり、屋外の定位置に腰を下ろすコステロ。
「コツ、コツ、コツ、コツ...」
コステロ「...!」向かい来る人影に反応し、見開かれるコステロの目。
「コツ、コツ、コツ、コツ...」それは先程、医院で出会った血塗れの男。
コステロ「すんすん...」行き過ぎる男の姿を、コステロの目が追い掛ける。
男の背を見詰めるコステロの口元が緩み、たらりと涎が溢れ落ちる。
ケルビン・ビャカン研究棟...
研究棟から助手たちの手で、搬出される虜囚の躯。
看守「...」追加の虜囚を率い現れた看守が、その様子を見て眉を顰める。
「ぎゃぁあああーーーーー!!!!」
虜囚たち「何だっ...!?」扉の奥から聞こえる叫び声に恐れを抱く虜囚たち。
「ドン!ドン!ドン!」
「ギィイイイ...」
看守「術師長殿っ!!」扉を開き術師の背に呼び掛ける看守。
術師「ギロリ...」
虜囚を手に掛ける最中の術師が、扉の前に立つ看守に目を向ける。
看守「はあっ...!」看守は血に塗れた凄惨な現場を目にし震え慄く。
術師「来たか...」手にした刃物を台上に置き、看守の元へと向かい歩く術師。
看守「御要望であられた虜囚たちを連れて参りました...」
術師「んっ、如何した...此れでは足りぬぞ...」
血で汚れた手を拭いつつ虜囚の不足を看守に告げる。
看守「此奴らで最後です...王城内に、最早虜囚は居りません...」
術師「何と...」
助手たち「よっこいせっ!」
虜囚の躯を運び出し、屋外へ横たえる助手たち。
並べ置かれた全ての躯の頭部に、打たれ生じた損傷が見て取れる。
社僧「...」離体した御霊を前に、救いを求める視線を社僧長へ向ける社僧。
社僧長「...」離れた場所からその光景を見下ろす社僧部社僧長と神社社長。
社長「此れは大変、由々しき事態...急ぎ報告申し上げねば...」
貧民窟 路地裏...
男「うぐっ...うぐぐっ...」血を吐き白目を剝く男。
亡者「むしゃ、むしゃ...」その腹部から、臓腑を引き出し貪り喰らう亡者。
神殿...
眼下に望む王城を背に、社長と社僧長は鳥居を潜り神殿に踏入る。
社僧たち「ぺこり...」境内を歩くふたりを認め、黙礼する社僧たち。
鳥居の立ち並ぶ階段を上り、その先に建つ遥拝殿へ。
「スッ...」
「ガガガガッ...」跪く社長と社僧長の前で遥拝殿の扉が開かれる。
神官たち「...」跪くふたりに視線を向ける3神官。
夕方、貧民窟...
コステロ「...」帰宅するコステロ。
孤児「きゃーっ!!」口元が血塗れのコステロを見て叫ぶ孤児。
年嵩「おっ、親父...コステロが血塗れぞ!」年嵩の孤児が商人を呼ぶ。
商人「おお、何と...一体、何奴に殴られた!?」
コステロ「...」
コステロ「...」野巫医者の来診を受けるコステロ。
野巫「んーっ、何処にも傷は見当たらねぇ...」
コステロの口を覗き診察する野巫。
野巫「恐らくは、腹さ殴られ血を吐いたんだら...」
コステロ「...」
野巫「まあ触れても、大して痛まん様だしよ...大丈夫だと思うがな...」
診察を終え、野巫はコステロの上掛けを伸ばす。
商人「ふう...」
野巫「ほんじゃ又...何かあったら呼びゃ来るで...」
商人「済まんな...」
野巫「...」屋外に出る際に孤児から酒瓶を受け取る野巫。
コステロ「...」
夜、錬金術本部棟...
術師「...」明かりが灯されていない事に不審を抱く術師。
師長補佐たち「...」向かい来る明かりに目を向ける師長補佐たち。
術師「呼び付け居るとは不届な...」
師長補佐1「御主が寄るなと申した故じゃ...」
術師「ふん...!」術師は気怠げに師長の椅子に腰を下ろす。
「フゥーーッ!」煙草に火を付け大仰に煙を吐き出す。
師長補佐たち「...」
術師「しかし未だ夜も更けぬのに...何故斯様に閑散と...」
師長補佐2「此処に居っては身を滅ぼすと...多くの者らが余所へと散った...」
術師「ふふっ、今更の宗旨替えなど...陛下が決して許し居るまい...」
師長補佐たち「...」
術師「して、用向きは...」
師長補佐2「...」
師長補佐1「先程、謁見の日取りの知らせが参った...」
術師「ぴくり...」
師長補佐2「明日じゃ...」
術師「...」
師長補佐1「明日...陛下より、御言葉を賜る際...」
「御主は職責を担うに足る、証を示す事を求められる...」
師長補佐2「自ら望んで就いたのだ...当然、準備は出来て居ろうな...?」
術師「無論じゃ...」立ち上がる術師。
「タッ、タッ、タッ、タッ...」
師長補佐たち「...」立ち去る術師の背を見送る師長補佐たち。
貧民窟...
裏通りの路地裏から這いずり出て来る不気味な生物。
這いずり「ぎょっ...」
「ぎょひっ...ぎょひゅ...」