表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片腕の王  作者: _______
第1章 「我、在らん世に...」
5/100

第5話

「パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ...」

馬を駆るキメティコの視線の先に貧民窟が見えて来る。

パトラウス「来たかキメティコ!」

キメティコ「遅れまして済みません!」

現在、増員された隊士たちによる術師捜索の最中。

パトラウス「いや構わぬ、其れより件の輩...又も殺しを遣り居った...」

コズヤシ「しかも此度は幼な子を...」

キメティコ「何と...」

パトラウス「こうして捜索に当たっては居るが...」

     「頼りとするは社僧の衣と人相書のみ...」

キメティコ「...」

コズヤシ「万一、衣を脱がれて居ったら...」

パトラウス「人相を知る、御主の目が肝要...頼むぞキメティコ...」

キメティコ「はい...!」


社僧を捜し歩く隊士たち。

隊士「おい貴様、社僧の姿を見なんだか...?」

老爺「今日わしゃずっと此処居りますがぁ...」

  「社僧様の姿は見掛けませんなぁ...」

  「御主は見たかい?」

老婆「うにゃ、儂も見ね...」

隊士「ちっ...」

博徒「のう貴方...」

  「若し見付けて知らせた時にゃあ、一体幾らになるんかのう...?」

隊士「戯れを...」

  「賎民とて...王都に住まう民であるなら、其れは当然為すべき務め...」

  「万一匿り居ったらば、貴様ら容赦致さぬぞ...」

社僧「...」一連の会話を潜み聴く術師の姿。

博徒「ぺっ...!」立ち去る隊士たちに向け唾棄する博徒。

社僧「おい御主...些と良いか...」

博徒「んっ...?」


「ザッ、ザッ、ザッ、ザッ...」貧民窟を歩くキメティコたち。

キメティコ「...」血を流し横たわる中毒者を見下ろすキメティコ。

コズヤシ「其れは儂じゃ...口を割らぬで打ち据えた...」

キメティコ「...」

コズヤシ「ほれ、此の襤褸宿じゃ...」

    「此の上に潜み、手にした刃物で童の胸部を突いて居った...」

キメティコ「遺体は今も...?」

コズヤシ「ああ、見るか...」

キメティコ「はい...」


御霊「...」貧民窟に到着する夫の御霊。

パトラウス「周囲一帯包囲して居る...」

     「隠れて居っても無駄な事、早早に姿を見せよ!」

老爺 「ちっ、おのれ...捕吏風情が、大仰に振る舞い居って...」

売女「社僧ひとりも見付けられんと...」

  「右往左往に嘶いてまあ...何て無様な姿ですやろ...」

パトラウス「...」飛礫を投げる孤児を睨み付ける警備隊長。

孤児「ははははっ!」

御霊「...」貧民窟の住人たちの声を間近で聞く夫の御霊。


キメティコ「...」

コズヤシ「何っ、躯が消えたと...?」

幼子の躯が消え失せたと聞き困惑するコズヤシ。

隊士「私どもが来た時には既に...」

コズヤシ「おのれ彼奴め、未だ近くに潜んで居ったか...」

隊士「しかし如何して遺体なんぞ...何故、持ち去ったのであろう...」

キメティコ「証拠の隠滅を図る為で御座いましょうか...」

隊士「成程...」

コズヤシ「ぐぬぬぅ...!」

キメティコ「...」


隊士「逃げるな下郎!」

社僧「はあ!はあ!はあ!はあ!」

隊士「おい彼処だ!」逃げる社僧を追う隊士たち。

キメティコ「はっ...!」

コズヤシ「何っ、見付けたか!?」

窓を開き通りを見下ろすキメティコたち。

童たち「...」追走劇を眺める童たち。

社僧「うがっ!」

「ジャラララッ!!」転倒する社僧の袖口から銭が撒き散る。

コズヤシ「よしっ、捕らえた!!」

「タッ、タッ、タッ、タッ...」急ぎ階下へと下りるキメティコたち。

童たち「やぁああああっ!!」童たちが路上に散らばる銭に群がる。

隊士「もう抗うな、観念致せ!」

社僧「うぐぐぐぅーーー!!!」捩じ伏せられる社僧。

隊士「...」社僧の頭を引き起こす隊士。

キメティコ「違う...」

隊士「何っ...?」

キメティコ「此の者ではありません...」

博徒「此の衣を着て走れって...」

コズヤシ「くそっ...彼奴め、感付き居った...!」

博徒「御免なさい...沢山、銭を呉れたから...」

童らを押し退け銭を掻き集める博徒。

コズヤシ「ああ此れで、捜索の難度が弥増したな...」

キメティコ「...」


術師「...」社僧の衣を脱いだ術師。

隊士の目を掻い潜り貧民窟脱出の手立てを模索する。

術師「ちっ...!」前方に隊士の姿を認め踵を返す術師。

  「はっ...!」しかし後方からも向かい来る隊士の姿が。

  「くそっ...」前後を挟まれ狼狽し、活路を求めて目を泳がせる。

隊士「ん...?」その様子を見て不審を抱く隊士たち。

術師「...」術師の目が共同住宅の門戸に留まる。

「ギィッ...」門戸を開いて敷地の中へ。

孤児たち「...」上階廊下から中庭で惑う術師の姿を見下ろす孤児たち。

術師「...」術師の目が厠に留まる。

「ギィイイ...」その時、術師の背後で門戸の軋む音が鳴る。

術師「...」慌てて厠の戸を開き、中へ駆け込む術師。

孤児「...」中庭に姿を見せる隊士たちを見詰める孤児。

隊士「おい童、不審な輩は来なんだか?」

孤児「来ない...」

孤児「来ない...」

「ガチャッ...」隊士のひとりが厠を認め、その戸を開き検める。

孤児たち「きひひっ...!」

隊士「ちっ、居らぬな...確かに見たが...」

隊士「もう良い行こう...」

  「如何せ此処らの呑んだくれじゃよ...」

孤児たち「...?」問題無しと立ち去る隊士たちを見て不思議に思う孤児たち。

術師「...」暗闇の中、頭上の明かりを見上げる術師の眼光。

「チャポッ...」厠の汚物に浸り身を潜める術師。


御霊「...」貧民窟を歩く夫の御霊。

童たち「はははっ!」拾った銭で駄菓子を食う笑顔の童たち。

童「あっ、母ちゃん!」

母親「御前たち、其れ買う銭は如何したの...!?」

童「拾った!」

 「ほら見て、未だこんなに残っとるぞ!」

母親「こっちに寄越しな!」

童「えーっ!」

母親「早く、ほれ...!」

童「やだ...」

母親「今夜は好きな物、拵えてやっから...」

童たち「...」渋々銭を母親に渡す童たち。

御霊「...」貧民窟の家族の様子を目にし微笑む夫の御霊。


孤児たち「...」厠の戸を開き、中を確認する孤児たち。

術師「...」糞溜めを覗き込む孤児たちの視線を受ける術師。

孤児たち「...」術師の存在を確認した孤児たちは、背を向けそっと立ち去る。

「ザッ、ザッ、ザッ、ザッ...」暫し後、此方に向かって来る足音が。

術師「...」見上げる術師の目に映る、荒塊たちの姿。

荒塊「本当に居るぞ...」

荒塊「ああ、居るわ...」

術師「...」

荒塊「御前か、捕吏が捜して居るは...?」

術師「...」

荒塊「正直に申さんのなら、此処に連れて参るが...」

術師「止めて呉れ...!」

荒塊「にやり...」

術師「...」荒塊たちの姿が視界から消える。

荒塊「...」孤児たちに向け手招きする荒塊。

孤児たち「...」荒塊に呼ばれ駆け寄る孤児たち。

荒塊「ほれ、銭じゃ…」

孤児「...」手の中に乗せられた銭を見て戸惑う孤児たち。

荒塊「此奴の事は誰にも言うな...良いな?」

孤児「うん...」

荒塊「よし、去ね...」孤児たちを追い払う荒塊。

孤児たち「...」孤児たちは好奇の思いを残し、その場から立ち去る。

「ガシャン...」孤児たちの手で開け放たれた共同住宅の門戸を潜る夫の御霊。

御霊「...」しかしそこには密談する荒塊たちの姿のみ。

上階を見上げ、目当ての者はいないと判断し門戸へと向かう。

荒塊「如何する、捕吏に伝えるか...?」

御霊「...」夫の御霊は足を止め、荒塊たちの会話に耳を傾ける。

荒塊「言うても彼奴ら、一銭たりとも寄越すまい...」

荒塊「じゃあ...」

荒塊「...」

術師「はっ...」再び頭上に荒くれたちの姿。

荒塊「おい、貴様...身の代となる銭を寄越せ...」

  「然すれば此処で、匿うちゃるぞ...?」

術師「銭を持たぬ...」

荒塊「何を!」

荒塊「おのれ貴様...寝惚けた事を吐かすで無いぞ!」

  「今直ぐ捕吏を呼びに遣ろうか!」

術師「まっ、待て...手元に持たぬが銭ならばある...!!」

荒塊「んっ...?」

術師「戻れば必ず、必ずや...」

  「望む額を支払う故に...如何か暫く、此の儘此処へ...」

荒塊「ふっ...」

荒塊「良いだろう...」

荒塊「駄法螺じゃったら容赦せんでな...」

御霊「...」

荒塊たちが厠から去り、その背後に立つ夫の御霊の姿が残る。

しかし当然御霊である為、その姿は術師には見えていない。

術師「くそっ、くそっ...!」

御霊「...」


キメティコ「如何して此方へ...?」

社僧たち「件の御霊の介添えよ...」

キメティコ「其れじゃあ此処に彼の方も...」

社僧「ああ...」

隊士「おいキメティコ、此奴は如何か...?」

キメティコ「...」首を振るキメティコ。

コズヤシ「確と見よ、似ても似付かぬ面構えぞ!」

隊士「しかし此れ(人相書)は当てにならぬと...」

コズヤシ「程度を覚えよ此の愚か者め!」

隊士「...」

隊士「社僧さん、此奴は如何か…似て居る様に思えるが...」

社僧「んっ...?」

御霊「...」遠方からキメティコに目を向ける夫の御霊。

社僧「おい、キメティコ...ほれ、彼処に居るわ...」

キメティコ「...」社僧の指し示す先に、夫の御霊の姿を認めるキメティコ。


共同住宅の門戸前、人集りを押し留める隊士の姿。

そしてその中庭を、隊士たちが埋め尽くす。

荒塊「ちっ!」上階廊下から不満そうに見下ろす荒塊たち。

「ペタッ、ペタッ、ペタッ、ペタッ...」術師が糞を滴らせ中庭を歩く。

隊士「うげっ...」その臭いに鼻を摘む隊士たち。

「ドサッ...」膝を突いて項垂れる術師。

「ザッパーン!!」水を浴びせられ、術師の顔が顕となる。

コズヤシ「おお、此奴だ!」術師の顔を見て直様に叫ぶコズヤシ。

パトラウス「此の輩に相違無いか...?」キメティコに問うパトラウス。

キメティコ「はい...!」

社僧たち「こくり...」頷き同意を示す社僧たち。

パトラウス「よし、直ちに捕縛せよ!」

隊士「はっ!」

コズヤシ「おい貴様、童の躯を何処へ隠した...?」

術師の胸倉を掴み威圧するコズヤシ。

術師「...?」


夕刻、貧民窟に残り遺体の捜索を続ける隊士たち。

コズヤシ「ああもう何故、躯何ぞを探さにゃならん...」

隊士「証拠が出て来にゃ罪には問えぬで...」

コズヤシ「態態こうして探さずともよ、早早腐臭で露見しように...」

隊士「其れよか締め上げ吐かすが早い...」

「タッ、タッ、タッ、タッ...」

隊士「おい、彼れを...」向かい来る人影を指し示す隊士。

コズヤシ「んっ...?」

幼子「...」通りを歩く血塗れの幼子。

隊士「うわぁああっ...!」

コズヤシ「なっ...!」その幼子が昼間死を看取った童と気付き驚くコズヤシ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ