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魔力

「コヒュー……コヒュー……」


「なっさけないなぁ、あの程度でこんなにばてるか?」


「お、お前……加減を……」


「加減と言っても普通の奴は初めての魔力放出でぶっ倒れるぞ。それを息が乱れる程度で済ませてどうにかできている辺り才能ある証拠だ、5年も修行すれば立派な魔法使いになれるぞ」


 よかったな、とほめてやったが凄い苦々しい顔で睨んできた。

 なんだよ、私悪くないぞ?


「それよりそろそろだ、籠の用意しておけ」


「え? 私が背負うのか?」


「お前も背負うんだよ、二人で行動する以上二人分持って帰るのが普通だろ。お前も食うわけだし、森の外目指すならそれなりの食料が必要になる。保存食作るのに塩は欠かせないからな」


「なるほど……せっかくだ、保存食の作り方も教えてもらえないだろうか」


「当然手伝わせるつもりだったが? 肉に塩塗りこむのも大変なんだよ」


 あれやると腕が上がらなくなるからな……。

 さっきの鹿は凍らせてあるけど、早めに塩塗りこんで燻製にしてしまいたい。

 味が落ちるのは構わないが、痛んだりすると面倒だから……高熱にうなされながら吐き気と腹痛相手にしなきゃいけないのはもうごめんだ。

 もしかしたら前任者も悪いモノ食べて死んだのかもしれないな……。

 環境的に食中毒が一番怖い、次に怖いのが動物で最下位が毒。


 毒物は魔法でどうにでもなるが食中毒はどうにもならん。

 高熱出して動けない状態で上から下からあれこれたれ流して、食事も厳しいとなると死ぬしかないからな。


「おらぁ!」


 ま、そんな事はさておきメイスで岩塩の塊をぶん殴って破片を採取。

 使う時はもっと細かく砕くけど、運ぶときは適当でいい。


「ふっ! く……結構硬いな」


「そりゃそうだ、この辺の魔力吸い上げてガッチガチに固まってる」


「魔力ってそんなに便利なのか……」


「あぁ、ちょっとそれ貸してみ」


 つるはしを取り上げて魔力を流す。

 ただの鉄だから通りは悪いけど、強化くらいならどうにかできるのでそのまま片手で振り下ろす。

 先ほどまでアルが苦戦してた大きめの岩塩につるはしが突き刺さり、そしてひび割れて砕けた。


「こんな感じで魔力を流した物は頑丈になる。今は筋肉にも魔力を循環させたから威力も上がったが、その応用が手に持った物体にも流す方法だな。これができれば魔法剣士として独り立ちできる」


「それはハイレベルだな……」


「いや、私の時代じゃ農民もやってたぞ? 慣れたやつは属性付与して、掘り返した畑を適度に湿らせる程度はやってのけた」


 実際便利だったからなぁ。

 なんでこんな技術まで廃れてるのかがわからない。

 多分ハルファ教が潰れた時に当時の技術丸ごと異端扱いしたんだろうけど。

 それで有用な技術まで失うとかどうなんだろうな。


「ちなみにだが、これは食べて大丈夫なのか? 魔力を貯め込んでどうの、とかそういうのは」


「無いぞ。魔獣扱いしてる動物食ってる癖に何をいまさらって話だ。動物も魚も果実も、生きてりゃ全部魔力持ちだ」


「その中でも特別濃い魔力を摂取すると身体を壊すことがあると聞くが……」


「ん? あぁ、そういうことか……とりあえずこれ舐めてみろ」


 爪の先くらいの大きさに砕けた岩塩を手渡す。

 恐る恐ると言った様子でそれを舐めたアルは顔をしかめ、そしてもう一度舐めて目を見開いた。


「……美味いな」


「魔力が豊富なものはどれも美味いんだ。で、身体に変化は?」


「そういえば疲れがとれたような……」


「魔力過多症、つまり魔力版の胃もたれだ。摂取しすぎて腹壊したようなもので、今のアルは半分以上魔力を放出しているからな、空きっ腹にはしみるだろうさ」


「なるほど……しかしこれはいいな、いくらでも魔力が補給できるということか」


「あ? んなわけねえだろ。食い物から摂取できる魔力量で補えるほど人の魔力ってのは少なくない。岩塩の欠片舐めただけで満腹になるわけねえだろって話だ」


「だが力が溢れるようだぞ?」


「嘘だろおい……ちょっと失礼するぞ」


 アルのうなじに手を当ててみると確かに魔力が溢れている。

 つまり身体に貯蓄できる量を超えて漏れ出しているということだ。

 ありえない……確かに芳醇な魔力だが、こんなに簡単に回復するわけがない。

 あるとすれば、それは一つだけ。

 絶対的な魔力量が少ない。


「マジかよ……」


「どうした?」


「お前……人間として最底辺の魔力量だな」


「え、いやそんなはずはないぞ。王族はその辺詳しく調べるが、私はこれでも随一の魔力量だと言われた」


「いやないわ。びっくりするほど無い。なんだこれ、農民の方がまだ魔力あるぞ」


「嘘だと言われても困るんだが……」


 まさかとは思うが、技術だけじゃなくて種族そのものが退化したか?

 たしかに使わないものはどんどん衰えていくが、世代を重ねて使わなかった魔力の総量が下方推移していったとすると……。


「お前の国って魔法使い何人くらいいるんだ?」


「100人はいなかったはずだ」


「そいつらの中でお前より魔力の少ない奴っていた?」


「あぁ、私は中堅程度だから半分は私以下だ」


「まじかぁ」


 何度目かわからないが、もう驚き疲れた。

 そうか、今の流行は省エネ魔法なのか……私の時代は一発に全てを込める極大魔法が主流だったからな。

 目に映る全てを炎で包み込むような魔法とか、国一つ氷に閉ざす魔法とか、そういうのが流行してたから……。

 とはいえ、これは案外利用できるかもしれないな。


「アル、今体内にある全ての魔力を放出してみろ」


「いきなり何を……そんなことしたら倒れるのではないか?」


「安心しろ、口に岩塩ぶち込んでやる。そしたらまた復活する」


「だが……」


「四の五の言うと私が放出させてやるぞ?」


 ワキワキと指を動かして近づくと自分の身体抱きしめて逃げられた。

 チッ……ちょっとした刺激を与えてやれば放出させるのは簡単なんだがな。

 熟練相手には使えないけどさ。


「こ、こうか?」


 ボフッと音を立てて吐き出された魔力、同時にぶっ倒れたアルは無視して放出されたばかりの魔力に視点を向ける。

 純度は高いが、やはり総量が少ない。

 これで魔法を使えば……私の時代のものならそもそも発動しないが簡単な火付け程度のものならかなりの高温になるだろう。

 炉に火を入れる時に使ってるようなのだと湿った木材でも一発で燃え上がるだろうな。


「ほれ、喰え」


「うぐっ……はぁ、こんなにしんどいのか」


「もう一度全部出せ」


「はぁ!? アレをもう一度やれと!?」


「いいから、やらないとこっちで無理やり引っこ抜くぞ」


「わかったからその手つきを辞めろ!」


 再び吐き出された魔力、先程のが屁みたいなものだとするなら今度は皮袋の破裂に匹敵するだろうか。


「なるほど、使わないから衰えたわけじゃないな」


 アルの口に岩塩を放り込みながら呟く。

 なんだろう、炉に薪ぶち込んでるみたいで少し楽しい。


「どういうことだ?」


「いやな、お前ら今の時代の人間って随分魔力量が少ないなと思っていたんだよ。使わなかったから退化したかと思ったが、そうじゃなく総量を減らして純度をあげる事でその威力を保ってきたんだろうなという仮説がたった。そんで基本的に魔力は筋肉と同じで鍛えれば鍛えただけ形になる。今放出させて回復させてを繰り返したが、結果的に一回だけでもそれなりに量が増えるのがわかった」


「へぇ……」


「その証拠にさっきまで溢れてた魔力が今は体内に収まっている。というかその程度じゃまだ足りないだろう?」


「確かにさっきのようにみなぎるような感覚はないが……」


「それが正常なんだよ。むしろあの程度の魔力でよくぞ魔法使いなんかに認められたもんだ」


 アルのことではなく、アルの国にいる魔法使い連中のことである。

 この程度の魔力量で魔法使いとか鼻で笑われるレベルだぞ。

 子供並の筋力で「最強の剣士」とか名乗ってるレベルに等しい。

 そんだけ差があるわけで、今更ながらに外に出るのが怖くなってきた……。


「アル、正直に答えてほしいんだが」


「言ってみろ」


「私、外に出て大騒ぎにならないか? ハルファ教とか関係なく」


「間違いなく、なる。その時は父上が何とかしてくれるだろうけどな」


「……お前そこは冗談でも自分が責任もって守ってやるとか言ってみろよ」


「そんな力は私には無い。そもそもお前私より強いだろうが」


「そりゃそうか」


「そこで認めるのもどうなんだ?」


 だって事実だし……なぁ?

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