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エルフー

 久しぶりにまともな料理をすることになった。

 1人だと適当な飯で十分なのよね……。

 焼いた肉に塩振っただけ、野菜丸かじり、たまに茹でる、それ以外は面倒だから。


「……えーと、水を沸騰させて野菜ぶち込んで……やっべ、塩が残り少ないんだった……トマト味でごまかすか。それからハーブ……も無かったな、薬草でいいや。あとパンもないから……芋でごまかすか」


 ないない尽くしだけど、とりあえず用意できるだけはする。

 ふかした芋と、簡単なスープ、あと干し肉程度しかないが問題ないだろう。

 文句を言うなら裸で放り出すだけだ。


「う……」


「お、起きたか? 外の瓶に水が入ってるから顔洗ってこい。あと手も洗っておけ」


「お前は……」


「名乗るほどのもんじゃないさ。いいから行ってこい」


 正しく言うなら名乗りたくない、だけどな。

 割と面倒な立場なんだよこっちは! だからローブも脱いでないんだよ!

 とりあえず今のうちに皿によそって……やべ、木皿全滅してる。

 いつの間にか全部腐って影も形もなくなってた。

 仕方ない、盾でも作ろうかと思って放置してた鉄板でいいや。

 スモールシールドのつもりだったから円形に湾曲してるのをぶん殴って凹ませて、これで皿の代りになるだろ。


「戻った」


「ほう」


 なかなか整った顔立ちをしている。

 血まみれでわからなかったが奇麗な金髪だな。

 服も上半身は脱いでて引き締まった筋肉が素晴らしい。

 だがそれだけで、実践向きの筋肉してないな。

 なんというか……鍛えるだけ鍛えた、強いのは間違いないけど腕っぷしの話で剣に必要な筋肉が足りてないし、逆に邪魔になる部分まで鍛えてる。

 無駄が多い。


「なんだよ」


「無駄が多いと思っただけだ。それより座って食え、食器は全滅してたから手づかみだ。スープはそのまま飲め」


「そのままって……」


「文句があるなら食うな」


 私はかろうじて生き残っていた金属製のお玉でスープを飲みながら芋を食う。

 明日は岩塩採取に行くか……塩気がたらんわ。


「……うまい」


「そうか、空腹ならこれでも美味いのか」


「それもあるが……いや、なんでもない」


 何か事情があるんだろうというのはわかるけど、無視しよう。

 こっちだって探られて痛い腹をしているんだ。

 藪をつついて蛇を出す必要もあるまいて。


「食いながらでいいから聞くが、事の顛末を簡単に教えろ。言いたくないところは言わなくていい。どうしても必要ならぼかして言え」


「その前に名前を聞いていいか」


「名乗るほどのもんじゃないって言っただろ。こんな所に住んでいる時点で聞かれたくないと察しろ」


「む……失礼した。私はアルフレート・フォン・グリーディアという。グリーディア皇国の皇位継承権第一位だ」


「は、王子様ってか。大体理解した」


「……想像しての通りだと思うが、弟に命を狙われ逃げ込んだのがここだった。そして空腹で倒れ」


「私が見つけて引っ張ってきた、そして今飯を食っている、今後の予定は未定、だろ?」


「そうだ」


 厄介な拾い物をしてしまった……どうしよう、今から殺して埋めて見なかったことにするべきか?


「一つ聞きたいことがある」


 アルフレートだっけか?

 少し間をあけてそんなことを言ってきた。


「なんだ」


「そこにある剣は……」


 次の言葉が出てこない様子だ。

 色々気になっているようだがまとめて答えてやろう。


「私が作った。面倒だから柄とか作ってない。試し切りで狩りに出たところであんたを拾った。他には」


「見せてもらってもいいか」


「ほれ」


 剣先を持って差し出すとアルフレートは恐る恐ると言った様子で手に取った。

 そして嘗め回すように、波紋を見逃さないように目を滑らせていく。


「立派な剣だ。国宝にも劣らないだろう」


「そりゃどうも」


「しかしやはり気になる。なぜこれほどの腕を持つ鍛冶師がこんなところに……」


「鍛冶は暇つぶしだ、もともと鍛冶師として名をあげたわけじゃない。逃げ込んだ先にあったこの家に鍜治場があっただから遊んでたらできるようになった」


「独学だというのか……これが……」


「どんな技術だろうが第一人者ってのは独学だったんだろ。時間だけはあったからな」


 いや、本当に。

 最初のうちは酷い火傷を負ったりとか結構事故もあったけど今じゃ慣れたもの。

 あ、そうだ、せっかくだから明日岩塩取ってきて鹿回収したら食器でも作るか。

 木工作業も好きだが、金属製なら錆び止めしておけばある程度は持つだろうし。

 ……まぁ客が来ないからいいか。


「で、いつ出ていくんだ」


「追い出すのか……?」


「働かない男を置いておくつもりはない。大層な肩書もここじゃ無意味だし私にとっては邪魔なだけだ」


「……頼みがある」


「断る」


「せめて聞いてくれないか?」


「大方装備を直して森の外まで送ってほしい、とかそんなんだろ。直すのはいい、食糧だって分けてやってもいい、けど案内は断る」


「なぜだ? できる限りの返礼はするつもりだ」


「外に出たくない、人と関りを持ちたくない、そもそも外に出たらマズい立場だ。だから名も顔も隠している」


「聞いても答えてくれないとわかっているのだが、なぜだ。王の権力ならば大抵のことは叶うぞ」


「ボンボンには理解できない世界があるんだよ。こちとら教会に目をつけられてんだ、宗教相手に国一つがどうこうできるわけないだろ」


 やっべ、口滑った。

 いやまぁいいか、この程度の情報なら。


「教会……? 宗教ということはダリル教か?」


「なんだそれ、私を目の敵にしてるのはハルファ教だ」


「……非常に言いにくいんだが」


「なんだ」


「それ、既に滅んで久しいぞ。私はもちろん、先々代の頃には既に存在しなかった。邪教と認定されて教団関係者皆殺しの上、保管されていたものは全て焼き払われた」


「は?」


「ついでに言うとハルファ教は残党もいないし、関わろうとした時点で死罪だ。だから信徒となるような馬鹿はいないし、そういう国があるという話も聞いたことはない」


「まじかぁ……」


 な、なんだったんだこの数百年……外の情報が入らないからずっと籠ってたのはいったい……いやそれよりもだ!

 なんで今までここに来た連中は教えてくれなかったんだ!

 私が聞かなかったからだな!

 うん、私が悪い!


「一つ聞くが、アルマという名前に聞き覚えはあるか? アルマ・ルーティエだ」


「無いな。一応要人、凶悪犯、危険人物の名前は一通り頭に入っているが覚えがない」


「ならミリア・ローエンティ」


「知らないな」


「……ホワイト・スノー」


「まったく」


 まじかぁ……いや、まじかぁ……。


「私の情報全部燃え尽きてたのかよ!」


「え、今のあんたの名前だったのか?」


「そうだよ全部私の名前だよちくしょう! 行く先々で何かといちゃもんつけられて偽名使い倒してたんだよ!」


「どういうことだ? 見たところかなり若いが、そんなに長生きする方法が……まさか禁呪では……」


「あーもうめんどくさいなぁ、こうすりゃわかるか?」


 今まで顔を隠していたローブを取り払う。

 見よこの美麗な御尊顔!


「あぁエルフか」


「反応うっすいなお前……」


「ん? あぁ、たしかに美人だがそんなもんは見慣れている」


「性格悪いなお前!」


「ふっ、伊達に令嬢どもの醜い争いを見てきたわけじゃない。女は顔じゃなくて奇麗な心と包容力だと知っているからな」


「そうか、なら包容力ない私はお前を追い出す」


「待て待て、取引をしよう!」


「この期に及んでまだ取引とか言うか……図太いな」


「この立場じゃそんなこと言ってられんからな、いろんな意味で」


 たしかに……国を左右する立場じゃある程度我が強くないと舐められる。

 そして今私に追い出されたら普通に死ぬ。

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