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エルフの受難、突撃常識ぶち壊せ!  作者: 蒼井茜


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邂逅

 森をしばらく進むと変な気配を感じた。

 あー、これ昨夜うちに来た奴だ。


「止まれアル、それとそこのお前も」


 木の上に向けて声を放つとボロボロ武器が落ちてきた。

 敵意はないと言いたいのか?

 いや、それにしても武器多いな……山積みになってるぞ?


「出てきていいぞ、妙な真似したら殺すけど」


 その言葉に武器山から少し離れたところに降りた黒い影、よく見れば小型な……あぁ、ありゃ頭巾で隠してるが獣人だな。

 見たところ犬系か、鼻がよく強者の気配に敏感でよく斥候として使われる種族だ。

 服装は布が余るような服じゃないし、たわんでる様子もないからこれ以上の隠し武器はないか。

 魔法とかその手の道具の気配もない、となれば少しは安全か?

 そう思った瞬間首に尖った石が飛んできた。


「あぶねーな、敵対行為とみなしたらどうする気だったんだよ」


 獣人の特徴の一つに身体能力が異様に発達しているというものがある。

 見た目が子供でも人間の大人を八つ裂きにするくらいは朝飯前だ。

 だが私の場合周囲に常に魔法を展開している。

 この森で生き抜くための秘訣であり、ついでに魔力が乱される森で生活するうえで練習しまくっていたのが癖になったものだ。

 ……まぁ気を抜いてたからこの魔法が無かったら怪我してたかもしれんけど、死にはしなかっただろうな。

 首貫通くらいなら手持ちの薬と魔法の道具で即座に回復するし。


「失礼した、貴殿の能力を確かめねばならぬ状況だった故」


 頭巾で覆われた顔の下から聞こえてきたのは老人のようなしわがれた声だった。

 よく見れば目元に皴が寄っているし、片方の目は光を映していない。

 偽装の可能性はあるけど、そこは重要じゃないな。


「ほーん、つまりそろそろ捜索隊に遭遇するってことか?」


「然り、あと数刻もすれば連中と鉢合わせるでしょう」


「そうか、それで私がアルを守り切れるかどうか試したんだろうけど合格か?」


「無論でございます。この森でそれだけの強度を持つ魔法の盾を使える、それも無意識化で永続的に使用しているとなればエルフの中でもさぞかし」


「お喋りな斥候の末路はあの世だぞ爺」


「……失礼しました。こちらとしては安全な道を進んでいただきたく」


「正面突破してほしくない理由があるのか?」


 少なくとも私がこのまま正面から全員ぶち殺して進んだところで大した問題にはならないだろう。

 どうせすぐに廃嫡されるであろう輩の手先だ。

 無論恨みを買う事になるかもしれないが、森に帰ってのんびり暮らしているうちにそいつらの寿命も尽きるだろう。


「捜索隊には儂の孫もいます」


「そりゃご愁傷様、だが遠回りする理由にはならんね。聞く限り王様の容態は末期に近い、急がなきゃ相手の思うつぼだ」


「捜索隊の人数は300人、そのうち殿下の命を狙うのは10人です。無益な殺生、そして後の時代のためにも有益な者達を失うのは老骨として心が痛みます」


「その10人をあんたが殺せばいいんじゃないのか?」


「残念ながら、それだけの力はもう」


 もう、ってことは以前はあったってことだろ?

 ってことはこの爺さん結構な強者なんだな……とはいえ獣人族は元から油断しちゃいけない相手だけど。

 人類至上主義を掲げてエルフや獣人を迫害してたハルファ教ですら獣人を積極的に攻撃することは少なかった。

 というのもこいつら魔力をいっさい使えない代わりに戦闘能力がやばい。

 五感が優れているから無味無臭と言われるような毒でもすぐに検知して、殴り合いなら鎧越しに貫通するような攻撃を平然としてくる。

 耳も鼻もいいから奇襲も無理、追い込んだと思ったら一点突破で敵陣を抜けたなんて逸話まで残っているくらいだ。


 魔力が衰退した時代だとしたら今じゃ最強の種族候補なんじゃないか?

 少なくともさっきの一撃は死なないにせよ大怪我に至る可能性のある物だった。

 年老いてこれなのだから全盛期はと考えるとそれだけで恐ろしいが、もちろん弱点もある。

 寿命の短さ、人間が大体80年から100年分の寿命を持っているのに対して獣人はどれだけ長く生きても60年だ。

 もちろん人間の最大年齢を見た限り80から100というだけで平均的な死亡年齢はもっと早いが、それでも獣人と並ぶかどうかというレベルだ。

 逆に言えばそれだけ世代交代が早く、種族全体の新陳代謝がいいという意味でもあるのだが。


「殺さない理由はないにせよ、あんたの孫ってのは面倒な相手と見受ける。勝てなくはないがこれが割れるのは怖いな」


 軽くポーチを叩いて見せるが中身は食い物、割れるのが怖い薬瓶なんかはアルと分担して背負に入れてある。


「然らば川沿いに」


「何かあるのか?」


「王家とその側近にだけ伝えられる通路に行きつきます。殿下ならそれもご存知かと」


 ちらりとアルを見ると首を縦に振った。


「確かに水脈として利用している川の側にその手の出入り口がある。だが……」


「この爺さんが怪しいってのは同感だが一番楽なのはそのルートだろ。正面突破よりよほどマシだ」


 突然現れた爺さんに不信感を抱くのは仕方ない。

 実際怪しいが、恐らくは本心からの行動だろう。

 少なくとも敵意はない。

 相手もエルフの特徴をよく知っているみたいだしな。


「騙してたらこいつの首手土産に王宮に乗り込んでさっさとお前の親父さん治して私はとんずらするだけだ。兄弟関係は好きにしてくれ」


「儂が裏切る時は陛下に書状を用意してからでございますれば」


「陛下に、だろ? 殿下には用意しねえならこっちは何も知らねえし肝心の陛下様も死にかけだろ。そんなのケツ拭く紙にもなりゃしねえ」


「お前……仮にも女なんだからデリカシーをだな」


「仮にもとはなんだ、れっきとした女だぞ? ここでパンツ脱いでやろうか?」


「そういうところだぞ」


 どういうところだよ……人間の感覚はよくわからねえなぁ。


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