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プロローグ
とある国の僻地にある樹海、その深部と呼ばれる場所では不釣り合いな音が響く。
金属同士をぶつけ合わせる、しかし耳障りではない心地よい音色のような物。
それを聞いた者は幸福であるとされている。
「……悪くないな」
音の発信源にいた女は手にした板を見つめる。
平たく伸ばされ、そして鋭さを与えられたそれを人は剣と呼ぶ。
「また、試しに行くか」
出来上がったばかりの、鍔も柄もないそれを片手に女は樹海をさまよう。
身に着けているのは皮製の服、それをすっぽりと覆うように被っている布切れ。
まるで幽鬼のような姿を見た者は不幸であるとされている。
この樹海、深淵の黒森と呼ばれる土地にある二つの、そして元をたどれば一つの言い伝え。
その元凶である。