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月光を射る。【獣と人の狭間で揺れる恋物語】  作者: 譚月遊生季
第四章 人生はただ影法師の歩みだ

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終幕

 森の中を、少女が駆ける。

 金の瞳をキラキラと輝かせ、少女は優しい風を胸いっぱいに吸い込んだ。

 生まれた時からずっと、森は彼女の遊び場だった。それに、今日は行ったことのない奥の方にまで遊びに来られた。新鮮な喜びが胸を満たし、わくわくが止まらない。


「……あれ?」


 やがて、三つ並んだ墓標を見つけ、少女は首を(かし)げる。


「ソール」


 少女……ソールは、墓標を観察し終わる前に、母の声に呼ばれて振り返った。


「あまり、遠くまで行き過ぎるなよ」

「はぁい」

「それと、もう少しゆっくり走ってやれ。父さんがついて来れていない」

「パパ、もう歳?」

「本人の前で言うなよ。絶対に凹む」

「はぁい」


 ソールはお腹の膨らんできた母の元に、軽やかな足取りで歩み寄る。


「弟の名前、決めた?」

「まだだな……。ロルフ、いや、アドルフ……うーん……」


 お腹に抱きつくソールの言葉に、母は真剣に悩む素振りを見せた。


「おーい! 二人とも、はぐれるなよ……!」


 そこに、三人分の荷物を持って森の奥まで歩きづめたせいか、疲労困憊(ひろうこんぱい)の父がふらふらと姿を現す。


「はぐれたの、パパの方じゃ……」

「荷物持ってるんだってば!?」

「いつもありがとう。今日は、私が持っても平気だ」

「いやいや! 何かあったら大変だしな」


 息を上げながらも、父は母に荷物を背負わせようとはしない。

「産まれるまでは油断大敵だ。何なら、産まれてからもね!」と、知人の「魔女」から口を酸っぱくして言い聞かせられているのだ。


「ねぇねぇ。帰りにブラックベリー摘んでいい? 伯父(おじ)ちゃんにタルト作ってもらうの」

「良いぞ。私も食べたい」

「その前に墓参りな! ピカピカにしねぇと」

「パパ、張り切ってる」

「負い目があるからな」

「うぐッ。……そういうことは言わなくて良いからね?」

「すまない」


 領主の治世が優れているおかげか、現状、家族の未来に影を落とすものはない。

 不死の神獣は、穏やかな生活を送る中で不死性を手放した。

 ……そして、彼女はもう、死を望まない。


「ありがとう」

「うん?」

「君のおかげで、私は、私でいられる」

「……おう。不安になったらいつでも言いな。手ぇ握ってやるし、抱き締めてやる」

「……ああ」


 痛みを背負いながらも、温もりを重ねて、彼女は今日も「自分」の意思を確認する。

 限りある生を、(まっと)うするために。


 儚い現在(いま)を、生き抜くために。

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