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月光を射る。【獣と人の狭間で揺れる恋物語】  作者: 譚月遊生季
第一章 真の恋の道は、茨の道である

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第10話 親友

 デイヴィッドには、幼い頃の記憶がない。


 教会の前に捨てられていて、当時の牧師に拾われたのが最も古い記憶。

 成長して牧師となったのも、「育て親」の役割を引き継いでのことだった。


 デイヴィッドは人間が嫌いだった。

 幼い頃から「()えすぎる」彼は、人間の持つ欲望や悪意でさえも敏感に感じとってしまったからだ。


 何より……閉ざされた記憶の中に、(いや)な感覚があった。

 どう頑張っても思い出せない、固く閉ざされた記憶の中に、激しい怨嗟が潜んでいる。……デイヴィッドは幼いながらも、それを理解していた。


 デイヴィッドは人間が嫌いだった。


「お前……綺麗な目してんだな。名前、なんて言うんだ?」


 ……たった一人の、親友に出会うまでは。




 ***




「原因……つったってなぁ」


 教会に戻り、ランドルフとデイヴィッドは裏手で話し合う。正確には、ランドルフは室内で話し合うつもりだったが、デイヴィッドに「ヤニ吸わせろや」とブチ切れられた。

 ディアナは、領主への報告に向かったらしい。


「『魔術』の濫用(らんよう)による生態系の変化……で、答え出てんだろって言いてぇのか」


 光が眩しいのか、デイヴィッドは眉間を押さえ、ランドルフの思考を代弁する。


「……まあな。『魔獣』が問題になってるのは、他の土地でもそうだろう」

「だが、それじゃ説明がつかねぇことがある。テメェがトチ狂ってオレがくたばってから数十年、『魔獣』のねぐらは大抵サン=クライムヒル……オレらの故郷に集中してんだよ。……要するに、『其処(そこ)だけ数が極端に多すぎる』ってこった」

「俺達の村か、その周りに原因があるって?」

「可能性はあるだろうな」


 葉巻をふかしつつ、デイヴィッドは冷静に語る。

 以前と何一つ変わらない様子を見て、ランドルフは尋ねずにはいられなかった。


「つかお前……マジで『死体』なのか? どう見ても生きてるだろ」

「あ? 首取って見せてやろうか。何ならそのまま喋ってやってもいいぜ」


 デイヴィッドはランドルフをぎろりと睨み、詰襟のボタンを外して赤黒い痕を見せつける。


「疑って悪かった」


 ランドルフは傷痕から目を逸らし、即座に謝罪した。


「遠慮すんなよ。ココの紐切ってみりゃ分かるぜ。何なら縫ってねぇとグラグラする」

「ごめんって」


 気まずい沈黙が場に落ちる。

 デイヴィッドは大きく葉巻の煙を吐き出し、ぽつりと呟いた。


「悪かったな」

「ん? 何がだよ?」

「テメェを殺せなかったこと以外にあるかよ。バァカ」


 煙が立ち上る。

 デイヴィッドは眉をひそめ、地面に目を落とした。


「分かってたよ。テメェが『魔獣』化した時点で……このまま生かした方が後悔するってよ」

「……お前……まさか、俺のせいで……」


 何となく、ランドルフにも嫌な予感はあった。

 自らが魔獣と化した際、デイヴィッドは一度も姿を見せなかった。

 殺しにも来なかったし、助けにも来なかった。


 それは、距離を置いていたからではなく──


「勘違いすんな。オレを殺したのはテメェじゃなく村のバカ共で、オレが死んだのは下手を打ったからだ」


 首の縫い目が陽に照らされる。

 当時とほとんど変わらない風貌だからこそ、赤黒い痕はよく目立った。


「んで、結局中途半端に死にきれなかったって間抜けなオチだな」


 何があったのか。

 そう問うことも憚られたが、ランドルフにも想像ならできる。

 ランドルフは村人に慕われていたが、デイヴィッドは他人と必要以上に親しくするのを嫌った。


「呪い」を受けたランドルフの討伐を主張したがために、「排除」された可能性は否めない。


「でもよ、なんつーか……また、テメェのアホ面拝めたのは良かったかもな」


 デイヴィッドはふっと遠い目をしながらも、穏やかに微笑む。

 ……討伐が本来「正しい」選択だったとして、デイヴィッドにも村人の感情は理解できるのだろう。

 彼とて、できることなら「親友」を殺したくなどなかったのだ。


「デイヴ……。やっぱり俺ら、最高の相棒だな」

「調子乗んなよクソが(f××k)

「聖職者としてその言葉遣いどうよ」

「うるせぇ牧師は対等な隣人だ。教え導かれてぇなら別の宗派行け」


 凛とした足音が近づいてくる。

 絹糸のような白髪が陽の光に照らされ、煌めいた。


「……ふむ。やはり、仲が良いらしいな」


 微笑みを浮かべ、ディアナは二人に語り掛ける。

 再び、二人の言葉が重なる。


「おう、一番の親友だ」

「……るっせぇ」


 今度は、デイヴィッドもディアナの言葉を否定しなかった。

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