7話 へい! そこの君!
「ふあ~あっと」
何とも気持ちのいい朝だ。
俺は今日のクエストを探しに、ギルドまで来ていた。まだ朝は早いが、俺のほかにもクエストを探しにきている冒険者もちらほらいる。
「よおサイ。相変わらずソロクエか?」
「まあね。パーティーもいいけど、一人も中々悪くないぞ?」
俺が冒険者になってそろそろ二週間が過ぎようとしていた。何度か他のパーティーと一緒にクエストに行ったり、朝晩積極的に話しかけたりしたおかげで話し相手も増えてきた。俺の評判も悪くない。
いい傾向だ。あとは──
「加護がはっきりしないと、どうしても迷惑かけちゃうからな。教会に加護を調べる魔道具があるらしくてさ。今度調べてもらうことになったんだ」
「へえ!じゃあソロも卒業か? 今ですら何回か勧誘受けてるんだし、加護がわかれば引っ張りだこじゃねえの? なんなら俺のパーティーに来てもらってもいいぜ!」
「はは、ありがとう。考えとくよ」
彼はジェイ。冒険者になってから初めての友人だ。彼もつい最近冒険者になったらしく、昔からの友人たちとパーティーを組んでいるらしい。
一回共同でクエストをやって以来ちょくちょく話相手になっている。
「そういえばさ、サイ、お前知ってる?ある冒険者の話なんだけどさ」
「誰のこと?この前ナンパするって言ってた金髪の子?」
「あの子は思ってたより生真面目で…じゃなくて、…ほら、あいつだよ」
そう言ってジェイは、ギルドの端っこに座っている人をこっそりと指さした。
小柄な人だ。フードを深くかぶってるせいで顔も見えないし性別もわからない。…いや、やっぱりよく見たら多分女性だ。なぜってデカい。何がとは言わないが。
「俺らが来るちょっと前からいたらしいんだけどさ。ずっと一人で、荷物持ちすらやったことないんだってよ」
「別に、そこまで珍しいことじゃないだろ? 冒険者なんだし、その、なんだ…事情が複雑な人くらいいるだろ」
冒険者ギルドの登録条件は、特権階級にしては異常なほどに緩い。そのため特殊な事情を抱えた奴らもそれなりにいるのだ。加護がなければパーティーを組みにくいとはいえ、浮浪者や奴隷になるよりはいくらかマシだからな。
「それがよ、たまたまあいつが魔獣と戦ってるところを見た奴の話によると、滅茶苦茶強かったらしいんだよ。魔獣を千切っては投げ、千切っては投げで、そりゃもう、下手したらSランクくらいの動きだったそうだ」
「へえ‥‥じゃあ人と馴れ合うのが嫌いとか? あまり詮索するのはよくないと思うけど…でもま、確かに気になるな」
Sランクに届くほどの実力、それにまだどこにも所属してない、ソロだ。…もしかすると、中々ねらい目なのではないだろうか。まあ何かしら複雑な事情はありそうだが。
「声かけてこいよ。もしかしたら誘い待ちかもしれないぞ?」
「はあ? 挨拶すらしたことないんだぞ? …‥‥」
俺は少し迷ったのち、その女性? に向かって歩き出した。
「あー…、やあ。俺初心者でちょっと助けて欲しいんだけどさ、よかったら今日共同クエ行かない?」
「え、あ…ご、ごめん‥‥その、私一人が好きだし…」
「そっか、オーケー。時間とらせちゃって悪かったね。いい狩りを!」
ありゃ、フられちゃったな。俺は何とも言えぬ表情でジェイの方を向くと、彼は半笑いで肩をすくめた。あの野郎。
俺がジェイに文句の一つでも言おうと思ったその時──
「オラっ! どけ、無能ども! S級パーティー『紅蓮の刃』様のお通りだぞ!」
バンっ!
ギルドの扉が乱暴に開き、やたらと派手な装備に身を包んだ三人組が入ってくる。自らを「紅蓮の刃」と名乗ったそいつらは、席に座ってた他の冒険者をどかせ、足を机の上に投げ出すと、やたらでかい態度で注文をしはじめた。
「なあ、なんだアイツら?」
「知らねえの? 冒険者ギルドの頂点、S級パーティーの名誉を与えられた三組のうちの一組さ。態度は悪いが実力は折り紙付き、貴族から直々に依頼が来るほどだ。最近遠征してたって話だから、それでお前とは今まで合わなかったんだな」
なるほどな。人生楽しそうで羨ましい。だが見たところギルドの中でもかなり嫌われているようだ。あの態度なら仕方ないが、俺なら最強パーティーになっても周りへの愛想は欠かさないね。嫌われたくないし。
「おい、そこの胸のでけえ嬢ちゃん!いっつも一人だけどよ、こっちにきて俺たちと飲もうぜ!」
紅蓮の刃のうちの一人、リーダーらしき男が声をかけたのはさっき俺が話しかけた女性だ。彼女はビクンと大きく震た後、慌てて立ち上がる。
「す、すみません…! クエストがあるので…!わ、私はこれで…」
そしてそう言い残すと、足早にその場を去っていった。
「へっ、天下のパーティーのリーダー様がフられてやんの」
「あー…機嫌悪くなってんな」
なまじ大声だったばかりに、他の冒険者の前で赤っ恥をかいた彼は舌打ちしながら酒を呑み始める。他のパーティーメンバーが彼を慰めているが、他の連中に八つ当たりするのも時間の問題だろう。
「‥‥俺らもクエストに行かなきゃな」
「…賛成」
俺たちはそう言って、怒れる冒険者のサンドバックになる前にこっそりとギルドを出るのだった。