6話 くえすとを たっせいした!
レッドウルフ。体毛が鮮やかな赤色なのが特徴の狼である。自然界において目立ちやすい色をしている理由は不明であり、今なお多くの学者を唸らせている。
体毛以外の身体構造は一般的なオオカミとほぼ同じだが、体に魔力を宿しているため魔獣に分類される。って、そんなこと言ってる場合じゃないか。
俺が手に持った杖のような魔道具を起動すると、先端から炎が噴き出す。本来暗い道を照らすためのものなのだが、獣への牽制にも使える。
今の状況で一番まずいのは、他の皆が一番弱い俺を守ろうとして防戦になることだ。
そうならないために、まずは火で魔物を遠ざける。
「俺は大丈夫です!今のうちに!」
そうすれば後は──!
「…よし!はあ!」
シッフが狼に向かって矢を放つ。が、狼はその場を飛びのき、矢は的を外れ地面に突き刺さり…と思われたその時。なんと弓が空中で進路を変え、狼の脇腹に突き刺さった。かっけえ、なんだ今の。
「こっちだ!」
俺が謎技にときめいていると、ガーディが剣で盾を打ち、騒音を鳴らして魔獣達の気を引く。標的を変えた魔獣達はいっせいにガーディに襲い掛かるが、彼は盾と剣を巧みに使い、魔獣をけん制する。
盾の角度や剣の微妙な動きでまるで指揮者のように魔物を誘導している。偏に彼の経験のなせる技だろう。
が、それも長くは続かない。どうやら中々小賢しいらしい狼達は、再び俺に狙いを定めたようだ。炎の魔道具もどうやら威力の程を見破られたらしい。今はまだ守ってもらっているが、このままでは俺が狼の餌になるのは時間の問題だ。
が、それもあくまでこの状況がこのまま続けば、の話。
「…準備オッケー!」
詠唱が完了したマホが合図をする。杖の先に集まる膨大な魔力に肌がピリピリと痺れるが、レッドウルフが魔力を感じ取れない魔獣なことはすでに確認済みだ。
つまり魔力貯め放題、あとはぶっ放すだけだ。
「巻き込まれないように‥‥!アーススパイン!」
──まさに、圧巻の光景だ。地面から地獄の針山のように針が突き出し、魔獣を一斉に貫いた!
一瞬、シン、とその場が静まり返る。俺は魔獣の数を確認し、うち漏らしがいないかを確かめる。
うん、大丈夫そうだ。
「…よっしゃあ!」
シッフさんの歓声が静かな森に響き渡り、それを皮切りにしてパーティー全体を達成感が包み込んだ。
こうして、俺は初めてのクエストを無事にクリアしたのだった。
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「今日はありがとうございました。いい経験ができました」
「こちらこそ。色々助かったよ」
無事にクエストを終え、森から帰った俺たちはギルドに戻ってきていた。
「ほんと、助かったよー!なんか今日いつもよりすごく調子がよかったんだよねー」
それは何よりだ。といっても、俺がやったことは精々飲み物を配ったり時間稼ぎをした程度なんだが。
「…そういえば俺も調子がよかったな。どこからか力が湧いてきた」
ガーディさんまでもがそんなことを言ってくる。いくら何でも飲み物程度でそんなに変わることは無いと思うのだが、おだてているのだろうか?
「またまた、皆さんがすごいんですよ」
「いや、マホは魔法の威力が…ガーディは力が、俺は矢の操作が、どれも普段よりはるかによかった。理由はわからないが…共通点は加護か…ん?加護…?」
「そっか!加護だよ!たしかサイ君は加護がわからなかったんだよね?」
「ええ、残念ながらまだ」
今日も試しに弓を触らせてもらったり、杖を使わせてもらったりしたが、結局まだ正体は掴めずだ。これだけ色々試してもわからないとは───
「もしかして、サイ君の加護って他人の加護を強くするんじゃないの?」
「‥‥え?」
他人の加護を強くする? そんなことがあるのか? だが、たしかにそれなら何を試しても加護がわからないのも納得だし、皆の調子が良かったことにも説明がつく。とはいえ、あまりにも突飛な話だ。もしかしたら、程度に思っていた方がいいだろう。
「…なあ、サイ君、俺たちのパーティーに加わらないか?」
だから、その言葉を言われた時、一瞬意味がわからなかった。
「加護うんぬんの話もそうだが──何より今日は楽しかった。それに、君の魔獣に対する知識はかなり役に立つ」
パーティーに入る…? マジか!?
と、意味を理解した瞬間、全身に緊張が走る。まさかクエスト初日でいきなりスカウトされるとは思わなかった。
──だから、かなり嬉しかった。この人達は、散々無能と罵られた俺に価値を見出してくれた。初心者な俺にも親切にしてくれ、話も合う。このパーティーに入れば、毎日楽しく過ごせるだろう。
でも。俺の目標は最強のパーティーだ。 …どうする?
この人たちと一緒に、最強になればいいと思う俺がいる。同時に、迷う俺もいた。
なにせ、俺は最強に近い存在を知っているのだ。今日一緒にクエストにいった彼らは確かに強かった。動きも洗練されていて、プロだということを実感した。それでも、悪いけどアイツには──
「──いや、やめておけ」
「ガーディさん?」
悩む俺にガーディさんが声をかけた。てっきり失礼なことを考えているのが見透かされたのかと思ったが、彼の優しい表情がそれを否定していた。
「お前は冒険者になってまだ数日だろう。もっといろいろな人間と出会い、もっといろいろなパーティーを知れ。──その上でお前が、改めて我々のパーティーに加わりたいというのなら…その時は、歓迎しよう」
と、俺の悩みをばっさりと両断するかのように。
「──はい!」
またいつか、一緒に冒険をしたいなと、そう思った。