5話 初クエ
「あれ? もしかして君がサイ君かな?」
「はい!先日冒険者になりました、初心者のサイといいます!よろしくお願いします!」
冒険者ギルドに登録してから三日目の朝。俺は、遂に新たなパーティーメンバーと共に初めてのクエストに参加することになった。
「うん! 今日一日、荷物運びよろしくね!」
…まあ、荷物持ちなんですけどね。たまたま加護の有無を問わずに荷物持ちを探しているパーティーがあったので、申し込んだというわけだ。
荷物持ちとて馬鹿にしてはいけない。今日のクエストで成功を収めれば、名が売れることもないとは限らないのだ。別に名が売れるといっても雑用のチャンピオンを目指すとかそういう意味ではない。
冒険に役立つのは単純な強さだけではないという話だ。魔物はもちろん、植物、虫、その他地形や気温についての知識などはなくてはならない。アイテムの使い方や魔法が使えない時の応急措置などもそれなりに役立つだろう。
もっと言えば人柄が信頼できるかどうか、なども冒険者としては重要だ。なにせ信用商売だからな。
というわけで、だ。最初からパーティーを組めるとは思っていない。加護のこともわからないしな。とにかくまずは信用を固めることが重要なのだ。
──────────────────────────────────────
「サイくーん、大丈夫ー?荷物重くないー?」
先頭を歩くこのパーティーのリーダー、シッフさんが声をかけてくる。俺たちは今、クエストで魔物を狩りに森を進んでいた。
「はーい!全然大丈夫です!」
正直なことを言えばかなりきついが、荷物持ちのせいでパーティー全体が遅れるのはあまり印象が良くないからな。頑張って印象を良くしないと。
「お、丁度いい場所があるね。ここでちょっと休憩しよう」
ふう…と。傷つけないようにゆっくりと荷物を降ろし、草むらの上に座り込む。色々なところで働いていたおかげで体力はそれなりにあると思うが、それにしても荷物が重い。もしかすると、リーダーが俺に気を使って休憩にしてくれたのかもしれない。
申し訳なさを誤魔化すために、俺は荷物から飲み物やタオルを取り出しパーティーメンバーに配ることにする。パーティーは俺を除いて三人。弓や罠担当のシッフさん、魔法使いのマホさん、盾兼攻撃役のガーディさんだ。
「む、そこに置いといてくれ」
俺が飲み物を持っていくと、ガーディさんは剣の手入れをしているところだった。
「いい剣ですね。その模様、名匠ケンタタの作品ですか」
「ほう…よくわかったな。…詳しいのか」
「ええ、昔武器屋の手伝いをしていたことがありまして」
冒険者の中には武器収集が趣味という人はかなり多いという。話題作りの為にも、メジャーなものからマイナーな武器まで調べつくしてある。
「へー。やっぱ男の子なんだねえ。そういうの、私にはさっぱり」
俺たちが武器の話で盛り上がっていると、マホさんが横から話しかけてくる。女性でも武器の話に詳しい人もいるのだが、確かに、魔法使いだと流石に興味はないだろうな。だが問題ない。昨日一日の観光で、王都のケーキ屋やアクセサリー屋、魔道具屋などはリサーチ済みだ。
媚を売ることに関してはジェシカにすら褒められた、俺のスキルの見せ所だ。
「おーい、そろそろいくよー」
と、そうこうしているうちにリーダーから招集がかかる。疲れもとれたし、また頑張らないとな。
──────────────────────────────
「ん…? これは…」
「サイ君、どうかした?」
しばらく森の中を歩いた後、俺はとあるものを見つけしゃがみこんだ。
「これを見てください」
俺が指さす先にあるのは、木の下の方、根っこの近くにつけられた爪痕だ。
「あ、なにこれ?なんかの爪痕?」
「はい、大きさからして魔物でしょうね。縄張りを示すために木に爪痕を刻む魔物は何種類かいるんですが、この位置につけるのはここらの森だとレッドウルフだけなはずです。傷の表面がまだ乾ききってない…多分それ程時間は立ってないですね」
「…! レッドウルフ! 今日の目的だね。よし、みんな警戒していこう。魔道具とかもすぐ取り出せるようにね」
俺は指示を聞き、荷物から魔道具を取り出し準備をしておく。その時──!
「下がれ!」
茂みから俺に向かって飛び出してきた狼をガーディさんが迎え撃つ。盾で攻撃を防ぎつつ、自慢の剣で狼を真っ二つに──!
「まて!他にもいるぞ!」
数匹の狼が同時に飛び出してくる。どうやら囲まれているようだ。
…まずいな。どうやら一番弱い俺が狙われているらしい。
だが、俺も魔道具の使い方くらいわかる。 …他人のなんだけどね。まあとにかく。
「──来るなら来い!」
俺は魔道具を構えた!