4話 マジ?
「お、おめでとうございます。加護…それも、光の具合から見て…A…? …いや、もしかすると…」
受付嬢はしばらくわなわなと震えていたが、俺を見てにこやかな笑みを浮かべる。
「加護…? 俺に? ドッキリとかじゃなくて?」
未だに状況が呑み込めない俺は、宝石に触れた指先を見つめた。いつもと同じ、俺の指だ。実は宝石が光るのは無能の証で、受付嬢が気を使って嘘をついていると言われた方がまだ納得できる。
「夢でも嘘でもドッキリでもありませんよ。何か心当たりはありませんか?」
心当たりがないから困っているのだ。加護というのは大抵の場合、突如として怪力を身に着けたり、足が速くなったりと、わかりやすいものが多い。
たまに魔法陣を一瞬で構築できたり、剣術を一回みただけでマスターする、などの表面的に見えないパターンもあるらしいが、俺にそういった才能がないのはジェシカのお墨付きだ。
「そうですか…。今までひたすら剣の鍛錬をしてきた人がたまたま弓を使ったら加護を持ってることがわかった、などということもありましたし、いろいろ試してみるといいと思いますよ。何かしらの加護があることは確実ですからね」
なるほど、確かに剣や魔法の訓練はしたことがあっても、この世の全てを試したわけではない。とはいえ、身体能力と頭のよさは普通なので、それ以外ということになるのだが──
「もしどういう加護かわかったら是非教えてくださいね。他の冒険者や依頼者へのアピールポイントになりますから」
どんな能力かわからないなら持っていないのと同じことだ。とりあえず優先してやるべきことができたな。能力次第では本当に最強パーティーを目指せるかもしれない。光明が見えてきた。
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その日の夜、ギルドにて。やはり俺が来た時に人があまりいなかったのは、時間帯の問題だったようで、今はクエストから帰ってきた冒険者で賑わっている。
俺が酒を注文し、何となく周りの会話を聞いていると、なにやら面白そうな話が聞こえてくる。
「やあ、賑わってますね。いつもこんな感じですか?」
「おお?見ない顔だね。新入りさんかな?」
俺は面白そうな話をしていた数人組に酒を持って話しかけた。鎧を着た男女に、弓を背負った男。パーティーだろうか。装備からして下級から中級といったところか。
「ええ、サイといいます。加護は…あるらしいのですが、不明でして」
「む、ほんとか?実は私も少し前までそうだったんだ」
まあ、話は少し盗み聞いていたから知っていたわけだが。もしかしたら何かのヒントになるかもしれない。
「そうなんですか?参考までに聞かせてくれませんか?」
俺がそう聞くと、鎧を着た女性が少し自慢げに話し始める。剣士のような鎧のくせに武器は木製の杖という何ともおかしな装備だ。
「私は親の影響でいつも剣を振っていたのだが、最近になって魔法の加護を持っていることがわかってな。今少しずつ慣れない魔法を練習しているところなのだ」
なるほど、そういうタイプか。残念だがあまり参考になりそうにはないな。
「いやあ、よかったよ。俺らのパーティーには魔法が足りねえなあって思ってたとこだったんだ」
「だが、魔法を使えるのは嬉しい反面、今まで鍛えた剣が無駄になると思うと勿体なくてな…複雑だ…」
魔法か。そういえばジェシカは魔法を使いながら剣を振り回す荒業をやってたな。
「魔法と剣を組み合わせてみたりしても面白そうですけどね。魔法使いの弱点がカバーできますし」
「お、サイ君、いい案だ!剣に魔法とか纏わせたらかっこよさそうだなあ!」
俺の提案に鎧の男も乗ってくる。酒が入ってるのか、やたらとテンションが高い。
「いいですね、それ。魔鉱製の剣とか使ったら結構強いんじゃないですか?」
「た、確かにそうだ…!試してみよう!」
「うんうん、面白くなってきたね。ほら、今日はジャンジャン飲もう!」
弓を背負った男がやたらと酒を進めてくる。酒にあまり強くない俺は適当なところで切り上げて逃げようとしたが、結局逃げきれず。
その日の夜は潰れるまで酔っ払い達に付き合わされるのだった。