33話 再会
「なるほどね…。力の譲渡、か。それはなかなか興味深い話だ」
火竜討伐戦から数日が経ったある日のこと。俺はエイサの研究所に行き、あの日の出来事を事細かに──ルゥフの正体のことを除き、説明していた。
「それにしても君、条件が揃っていたとはいえ、悪魔に勝つなんてなかなかやるね」
エイサが話しかけたのは俺ではなく、俺の隣にいるルゥフだ。
俺はやめて置くように言ったのだが、なぜかどうしても一緒に行きたいと譲らないので仕方なく連れてきた。
エイサはなんだか全てを見透かしてそうな怖さがある。連れてきた以上、ルゥフの正体に感づかれないよう気を付けてなくては。
「しかし獣人で加護持ちとは珍しいね。実に興味深い」
「──!!??」
「‥‥? いきなり何言い出すんだよ」
いきなりの爆弾発言に思いっきり動揺する俺とルゥフ。俺は何とか平静を保って見えるように振舞い、誤魔化そうとする。
「何って、そこの君さ。ルゥフちゃん、だっけ? 獣人は人間と比べて身体の構造が少し違うんだよ。歩き方や重心を見れば何となくわかる」
「そ、そんな…!」
地味にヤバイことを言い放つエイサ。構造が違うってのはわかるが、歩き方とかでもわかっちゃうのか。それって結構危険じゃないか?
「ああ、もちろん密告しようなんて気はないよ。ただでさえこの国では珍しい獣人で、その上加護持ちなんて、そんな面白い存在を処刑になんてさせるはずがないじゃないか。なんなら人間っぽく見える歩き方とか教えようか?」
「え、ほんと?」
…まあこの人は差別とかそういうのは超越してそうなイメージはなんとなくあったが、それにしても驚くからやめてほしい。心臓が止まるかと思ったぞ。
「さて、じゃあサイ君の加護の話に戻ろうか」
と、唐突にエイサは俺の方に向き直る。
「君は今回、加護を操ったとのことだったが…」
そして、真剣な、しかし好奇心に満ちた目で俺を見つめ、話しを始めた。
「君の話を聞いた限りだと、君が操っていたのは加護そのものではなく、加護の燃料だ」
「燃料…?」
「そう。走るのには体力を使い、魔法には魔力を使う。では加護は? 加護は人によって違うから、燃料も人によって違うのだろうか? それとも例えばこのランプのように、違うのは力を発揮する仕掛けで、燃料自体は同じなのか? …どうやら、後者が正解だったようだね」
そう言って彼女は、机の上に二つのランプを置く。どこにでもある魔力式の照明具だ。彼女が魔力を注ぐと、一つは赤、一つは青にそれぞれ光り出した。
なるほどな、言われてみれば確かにそうかもしれない。
悪魔との戦いのとき、俺が力を借りたのは主に魔法使いたちだ。もし俺が加護そのものを操ってるのだとしたら、ルゥフは身体能力が高まるのではなく、魔法が使えるようになったはずだ。
しかし実際にはそうはならず、ルゥフは元々持っていた加護が強化されただけだった。
と、いうことは‥‥
「悪人とかから加護を取り上げて、何個も加護を持って最強に──とかこっそり考えてたんだけど‥‥」
「現状だと無理だね。まあこれから加護そのものを操れるようになる可能性もないとは言えないが」
ちくしょう、でも俺は諦めないぞ。最強目指して頑張っちゃうもんね。
「そうだ、それとルゥフの感覚を追体験したのはどういう仕組みなんだ?」
俺は地味に気になってたことを聞いてみるも、エイサは首を傾げる。
「さあ? 神から授かった力とか言われてるくらいだし、心と体と深く繋がってるとかそんなところじゃないかな。それについては推測するしかないね」
まあそれもそうか。そのうちわかるかもしれないし、そんなに急ぐことでもないしな。
「サイ、時間」
「あ、そうだ、ギルドから招集がかかってるんだった。それじゃ、俺達は帰るよ。今日はありがとな」
「うん、また来るといい。ルゥフちゃんも一緒にね。是非とも会わせたい子がいるんだ」
彼女はそう言って俺たちを見送る。今日もなかなか面白い話を聞くことができた。
それにしても、会わせたい子って誰だろうな。 どうせ彼女のことだ、またヤバそうな奴なんだろうなぁ…。
などと、そんなことを考えながら俺達はギルドに向かうのだった。
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「お? もう来たのか。早かったな」
ギルドに着くと、机に突っ伏したジェイに出迎えられた。いつも無駄に元気いっぱいな彼は、連日の宴のせいで二日酔いになり、今日はげっそりしていた。
「おっす。今日の招集の理由何か知ってる?」
少し急ぎ過ぎてしまったらしく、まだギルドにはあまり人がいない。
ギルド職員たちも、焦っているという感じではなさそうだ。
「ああ、そのことなんだけどな‥‥。…そう、それ、それなんだよ!」
二日酔いはどこへやら、急にハイテンションになるジェイ。彼は目を輝かせて招集の理由を話す。
「ほら、この前のクエストで、自称魔王軍幹部の悪魔とかいうのが出たろ? それで、事態を重く見たギルドが全体招集をかけたんだけど‥‥なんと遠征にいってるS級パーティーも帰ってくるらしいぜ!」
S級パーティー。確か紅蓮の刃も合わせて3組だったけ。正直紅蓮の刃のせいであまりいい印象がないが、話を聞く限り他の2組は悪い人たちではないらしい。
「それとよ、冒険者以外の有望な奴らにも声かけてるらしいぜ。騎士とか、傭兵とか、あと、噂のアイツとかさ」
「アイツ? どいつだよ」
「あれだよほら、聞いたことくらいあるだろ? 『勇者』の再臨って言われてる例の彼女さ! えっと、たしか名前は…」
「──ジェシカ」
「そうそうジェシカだ! って、お前どっち向いて話して‥‥ん? 誰だその子? え、えらくかわいいな…」
ジェイが何か言ってるが、俺の耳には入ってこなかった。
なぜなら、俺の神経は唐突に表れた彼女に向けられていたからだ。
艶やかな黒髪、凍てついたような瞳、バランスのいい身体。
見紛うはずもない、子供のころから一緒にいた幼馴染だ。
彼女は、
「…見つけたわ」
ジェシカ・ラウゼルは、不機嫌そうな顔でそう呟いた。




