3話 無能じゃなかったらしい
「いらっしゃい!いらっしゃい!」
「採れたて新鮮な魔改造トマトだよー!一つ食べれば魔力モリモリだ!」
「新しい武器を入荷しました!なんとあの名匠ケンタタが作った力作です!他にも魔剣や魔道具を──」
溢れかえるような人混みが街に熱気と賑わいを与えていた。俺が育った村とはえらい違いだ。
多いのは人だけではない。見渡す限りの建物。それぞれの建物には何やら看板がついているが、そもそもそれが何を示すのかがわからないのだから困りものだ。
まずはこの町そのものに対する知識が必要だな、と思いながら、俺は財布の中身を確認する。小さい頃から村中の手伝いをしてコツコツと貯めた金が入っている。小さな村ゆえに金を使うような娯楽がなかったため、ほとんど使われずに、それなにの額が残っていた。
「おじさん、リンゴ一つ。そのまま食べられるんだろ?」
「おうよ!うちは無魔法無農薬が売りだからな!安心して食ってくんな!」
たまたま目についた果物屋からリンゴを一つ買う。試しにかじってみると、シャクシャクと気持ちのいい歯ごたえと共に、甘く爽やかな果汁が口の中に広がった。
都会の果物や野菜はまずいと聞いていたが、そんなことはないらしい。
「おー、こりゃうまい。ところで冒険者ギルドを探してるんだけど、どこにいけばいいかな?」
買い物ついでとばかりに聞く俺に、果物屋の店主は快活に答える。
「はっはっは!兄ちゃん冒険者になりてえのか?それならほら、この道を真っ直ぐいって突き当り、あのでけえ建物が冒険者ギルドさ!」
店主が指さす方を見ると、なるほどたしかに、一際大きく目を引く建物がある。扉の上には例のごとく意味のわからない看板があるが、あれが冒険者ギルドのマークなのだろうか。
「わかった、ありがとな。リンゴ美味しかったよ、また来るね」
「おう!またのお越しをお待ちしてまーす!ってな!」
でかい声に見送られながら、俺は冒険者ギルドへと向かっていった。
────────────────────────────────
軋む扉をあけ、中を覗き込む。外見以上に広々としたロビーは酒場になっているようで、パラパラと酒を飲んだり談笑したりする人がいる。もっと人でごった返しているかと思ったが、案外人は少ないようだ。時間帯の問題だろうか。
入口から真っ直ぐ進んだ先に、受付らしきところがある。冒険者の登録はあそこですればいいのだろうか。
俺は受付らしきところに行き、話を聞くことにした。
「すみません、冒険者登録をしたいのですが」
「登録でしたらこちらの方でできますよ。今すぐなさいますか?」
どうやらここで間違っていなかったらしい。
「ええ、お願いします」
「かしこまりました。準備をいたしますので少々お待ちください」
冒険者ギルドは能力や身分に関係なく登録することができる。登録だけ、ならば。活躍したり、パーティーに入ったりするのはまた別だ。
「では、必要事項を記入しますので、質問に答えてください。」
受付嬢が聞いてきたのは、名前や職歴、出自や年齢などの本当に基本的なことばかりだ。こんな情報がいったい何の役に立つのだろうか。
「危険な仕事ですからね。不謹慎ですが、もし不慮の事故等でお亡くなりになった時の手続きなどに利用する情報です」
受付嬢は俺の心を読んだかのように答える。なるほどな、たしかに遺品などの扱いに必要なのかもしれない。
「では次に、加護をお持ちかどうか調べさせていただきます。」
そう言って受付嬢が取り出したのは、木箱に入った不思議な模様をした宝石だ。常に模様が渦巻いている。何かの魔道具だろうか。
「俺は加護は持ってませんよ」
調べる前に先に断っておく。変に期待されてもがっかりさせるだけだろうからな。
「そう思い込んでいるだけで、実は何らかの加護を持っていた、という方は意外といらっしゃるのですよ。
もちろん、加護が無ければいけないというわけではありませんし、気軽にどうぞ。軽く触れるだけで結構ですので」
まあ、無いならないとはっきりさせておいたほうが、ギルドとしても扱いやすいか。それに、もしかしたら奇跡が起きるかもしれないしな。そう思った俺は仕方なく結晶に手を伸ばす。
そして、俺が宝石に触れると───
渦巻いていた模様が触れた指先に集まり、眩いあかりの光を放った!
「…は?」