2話 旅立ち
「サイ君、もう行くのかい?」
翌朝。朝一で準備を整えた俺は、早速王都に向かって旅立とうとしていた。
「ええ、サリーおばさん、こんな朝早くに見送りにきてくれたんですか?」
俺は元々捨て子だった。今でこそ外との交流もあるが、当時は封鎖的だったこの村で、身寄りもない、出自もわからない俺が生きてこれたのは偏にサリーさんのおかげである。俺を拾い、育ててくれただけでなく、最初から俺に優しくしてくれた唯一の人だ。
「本当に行くのかい?王都は危ないよ?」
「はは、この村で木こりでもするのもいいんですけどね。でも体力のある今のうちに、見聞を広めるのも悪くないと思って」
ジェシカとの話は伏せることにした。ぶっちゃけアイツはかなり性格が悪いが、それでも周りの人間にチクるような姑息なことはしたくない。まあ、俺の体面的にもよろしくない、というのが一番の理由なんだけど。
「おばさんには本当にお世話になりました。いつかまた帰ってきますので、それまで。…久しぶりの料理ですけど、ご飯は一人で作れますよね? 薪割りは無理に自分でやろうとしないで、村の若い衆にたのんでください。あと、食後に薬を飲むのを忘れないように」
「ふふっ、あらあら、そんな心配しないで、これじゃ私が旅に出るみたいじゃない!」
「はは、冗談ですよ。じゃあ、いってきます」
「ええ、いってらっしゃい」
最後に、ちらりと隣の家を見る。アイツの家だ。カーテンが全て閉まっていて、明かりもついてない。まあそりゃそうだ。アイツは朝練をするような性格じゃないからな。
というより、努力自体しているところを見たことが無い。才能だけで熟練の騎士よりよっぽど強いのだから、当然といえば当然かもしれないが。
さて、行くか。優しく手を振るサリーおばさんに見送られながら、俺は遂に出発した。最強のパーティーを結成するために。
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「王都まで」
「はいよ」
魔法で走る車、魔車にのった俺は運転手に金を渡し、今後のことについて考えていた。ジェシカは落ちこぼれの俺はパーティーを組んでもらえない、などと言っていたが、実際無理とまではいかずとも難しいのは事実だ。
S級の加護を持っている者など国に一人二人いるかいないかだが、一番ランクの低いC級の加護持ちならばそれなりにいる。
しかもそのC級でも、中には岩を砕いたりできる者もいるのだから恐ろしい。
当然魔獣や野盗の討伐を目的とする冒険者ギルドにおいて、求められる人材は高ランクの加護持ち。最低でもC級の加護を持っていなければ、荷物持ちすら危ういかもしれない。さて、どうするか。
奴隷でも雇おうか? だが、戦闘用の奴隷はそれなりに値が張る。となれば、まずは金を稼がなくてはならない。
他の冒険者との繋がりも作らなくてはならないな。まあそれはなんとかなるだろう。人付き合いは得意なほうだ。
何はともあれ、まず最初にやるべきことは──
「お客さん、つきましたよ」
運転手の声と共に車が止まる。一時間半ほどだろうか、思っていたよりずっと早かった。
礼をいい車を降りる。ぐ~っと伸びをし、景気を眺める。見えるのは華やかな街並みとその中心にそびえる巨大な城。村の酒場に飾ってあった王都の絵とそっくりだ。
街の外からでも活気が伝わってくる。周りに広がる草原から気持ちのいい風が吹き込んでくる。
いざ、冒険者ギルドへ。俺はさわやかな風に押されるようにして、王都へと歩き始めた。