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18話 火の竜


「こ…れは‥‥」


 あの後、大急ぎで帰った俺達は、山で見つけたものをギルドに報告していた。

 ギルドの受付嬢は俺が撮った写真をまじまじと見つめ、声を出せないでいる。


「足跡からして中型のドラゴンでしょう。この爪の形、それと写真ではわかりずらいですが尻尾を引きずったような跡がありました。また不自然に足跡が途切れていたことや周囲の植物の様子から飛行能力を備えていると思われます。それらを統合して考えるに──」


「──火竜」


 固まる受付嬢に俺が考えを述べると、後ろからかけられた声が言葉を引き継いだ。


「シッフさん…!」


「やあ、久しぶりだね、サイ君」


 聞き覚えのある声に振り返ると、そこにいたのは、以前共にクエストに連れて行ってもらったことのあるシッフさんだった。


「火竜、ですか。たしかに可能性は大きいですが、何か知ってるんですか?」


「実はここ数日遠征に出かけていて、ついさっき帰ってきたところなんだけど…帰りの途中にアッシュ山の近くを通ってね。その時に撮った写真がこれだよ」


 そういってシッフさんは数枚の写真を取り出した。


「…!」


 映っていたのは、雲の間からわずかに覗く紅い鱗。大きな翼。間違いない、火竜だろう。周りの風景を見るに、場所はおそらくアッシュ山の山頂付近か。


 …危なかった。一歩間違えば出くわしていた。そうなれば二人とも命はなかっただろう。

 ルゥフは今まで何度も、いい意味で想像を裏切ってきたが、それでも単独では火竜には勝てまい。それほどの相手なのだ。


「じゃあ、ゴブリンをこの近辺まで追いやった犯人は…」


「火竜で間違いないだろうね。状況から察するに、すでに一週間近くはアッシュ山に留まっていて、これからも留る可能性は高い」


「なんだってまたこんなところに…?」


「さあね。だが、このままだと、いつか王都まできてもおかしくない。そうなれば──」


 その先は言わなくてもわかる。火竜を王都に近づけるわけにはいかない。


「──緊急クエストを発令します。情報収集、それと同時に討伐隊の編成‥‥明日にはなんとか出発できるでしょう」


────────────────────────────────────


 その日の夜。


「───というわけで、アッシュ山にて確認された魔物は火竜であると推測されます。火竜は獰猛で好戦的、王都が狙われるのも時間の問題でしょう。可能な限り早期に討伐する必要があります」


 冒険者ギルドは見たことがないほどの大勢の冒険者で溢れかえっていた。皆真剣な表情で受付嬢の話を聞いている。


「そこでパーティー関係なく精鋭を集め、討伐隊を編成します」


「あまり多すぎても邪魔になるね…とりあえず、A級パーティーとB級パーティー内の実力者から選考したらいいんじゃないかな」


「そうだな、多くても20人くらいってとこか」


 何度かこういうこともあったのか、冒険者達は慣れた様子で話し合いをする。何をすればいいかわからない初心者からすると、見ていて頼りになるな。


「紅蓮の刃はどうしたんだよ? 今王都の近くにいるS級パーティーはアイツらだけだろ? こんな時こそのS級パーティーだろうに」


 と、冒険者の一人が愚痴を漏らす。確かに、性格こそ悪いが実力は折り紙つきだ。是非とも協力してもらいたいものだが…。


「いや、アイツらの協力なんていらねえよ!」


「そ、そうよ! どうせ偉そうに、『俺たちがいないと何もできない雑魚どもに、仕方ないから力を貸してやるよ』とか言うに違いないわ!」


「むしろこれは、アイツらがいなくてもなんとかなるって証明するチャンスなんじゃないか?」


「そうですよ。いつも偉そうな奴らの鼻を明かす絶好の機会ですよ」


 あーあー、どれだけ嫌われてるんだか。こりゃアイツらが参入するのは無理そうだな。

 しかしそうなると少し厳しいんじゃないか? 他の冒険者達の戦力を正確に把握してないから少し不安が残る。

 こんな時くらいプライドを捨てればいいのになあ。

 

「‥‥よし。じゃあ彼らは加わらない方向で、ここにいる者たちで選考しよう」


 こうして、火竜討伐隊の編成が始まった。

 

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