17話 足跡
「あ、あの、ルゥフさん、大丈夫ですか?」
「…‥はい…。…ごめんなさい」
「い、いえ、こちらこそごめんなさい」
とりあえず落ち着いたらしいルゥフに俺が声をかけると、彼女はしょんぼりと項垂れた。見ると、少し涙目になっている。
「うぅ~、ちがうんだよぉ…私だけじゃなくて、戦ってると夢中になっちゃうのは獣人みんなそうで…」
「お、おい…?」
泣きながら縋るように話しだすルゥフに俺は困惑するが、彼女はなおも続ける。
「あ、でも、獣人は野蛮な種族じゃなくて、みんなやさしくて、平和が好きで、えっと、えっと…!」
「落ち着けって。大丈夫だから。な?」
おそらく戦闘の後に少し凶暴性が残ることを言っているのだろう。まあ実際恐かったし。もしかしたら、そのせいで恐がられたり嫌われたりしたことがあるのかもしれない。
まあただでさえ迫害されてるからな。あの性質は差別の首謀者からすれば都合のいいものだろう。
「‥‥きらいにならないでよぉ」
「ならないって。それよりほら、まだ調べるところが残ってるからな。さっさと済ませちゃおう」
なんとなく気まずくなった俺は、強引に話題を変える。
オークは確かにこの辺りにはいない魔物ではあるが、それでゴブリンが揃いも揃って住処を変えるかと言われればそうは思えない。
オークが何故ここにいたのかは謎だが、ゴブリンの移動とは無関係と考えるべきだろう。
一応何かの参考になるかもしれないので、あまり傷ついていない方のオークの写真を撮った後、地図を広げ場所を確認する。
「あとは…こっちの方か」
ゴブリンの巣は全部見終わったため、今度は魔物の獲物となる動物が多い場所を確認する。それが終わればクエスト完了だ。
「ほら、帽子。うっかり脱げないようにしとけよな」
「あ…ありがとう」
「…ん、準備できたな。じゃ、行こう。これで最後だ」
「…うん」
とりあえず落ち着いてくれたらしい。ひとまず安心だ。
じゃ、もうひと頑張りといきますか。
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「どうだ? 何か感じるか?」
「ん~~」
目的地についた俺たちは何かしらの痕跡を探して山を歩き回っていた。
まあもうオークを見つけたから、何も見つからなかったら見つからなかったでも構わないんだけどな。でもまあやるからには真面目にやらねば。
というわけでルゥフさんの嗅覚の出番というわけだ。探索から戦闘までなんでもおまかせ。…あれ? 俺いらなくね?
…いや、ネガティブになるのはよそう。俺だって今や加護持ちなのだ。
「あ、加護といえば」
「んぅ?」
俺はふと、エイサに言われたことを思い出した。
「俺が…その、なんだ、近くにいるときとかさ、お前に触れてる時とかって、加護が特別強くなったりした?」
「え? …あ、そういえばたしかに…オークの攻撃でも無傷だったのはもしかしたらそれかも…?」
なるほど。やはり俺と近づくほど加護の効果は強くなるのだろうか。でもそうなると戦闘能力のない俺が常に近くにいなくてはならないわけか。
うーんなんという足手まとい。邪魔なことこの上ない。なにか他の方法を考えないとな‥‥もう一度エイサに相談してみるか。
「あ…!」
と、俺が悩んでいるとルゥフがなにかを感じ取ったらしい。
「こっち!」
ルゥフは一目散に走りだす。俺に合わせてゆっくり走ってくれてるらしいが、それでも速すぎるくらいだ。ぐんぐん離されて、見えなくなる‥‥といったところで、彼女はピタリと止まった。足元の何かを見ているらしい。
「はぁ…はぁ…おい、どうし──」
どうした、と聞きかけて、俺は絶句する。
「こ、これ…」
ルゥフもまた同じように言葉を失っていた。それも仕方ないことだ。そこにあったのは──
「…ドラゴンか?」
俺の背よりも大きい、謎の足跡だった。