14話 いざ山へ
「よ、ルゥフ。おはよう」
「あ、サイ、おはよー。大丈夫?なんか絡まれてたけど」
ギルドを出ていったソードレットは、どうやら戻ってくる気配がなさそうなので、俺はギルドで朝食を食べていたルゥフに声をかけることにした。
「ちょっと手伝って欲しいんだけどさ、今日一緒にクエスト行かない?」
「えっ? あ、えと」
俺の誘いに対し、ルゥフは口ごもる。しまったな、ちょっと調子に乗りすぎたか。
「あー…悪いな。嫌なら──」
「い、いや!あ、いやってそういう意味じゃなくて、えっと‥‥大丈夫!今日!クエスト行く!」
食い気味に返す彼女を見て、俺は少し安堵する。よかった、どうやら嫌われてはないようだ。
「それで、どのクエスト行くの?」
「この前ゴブリンを目撃‥‥ってか、討伐したろ? その件で調査依頼が出ててな。王都近隣の森の先、アッシュ山の麓のあたりの調査だ。ちょっと遠いけど、まあ今日中には帰ってこれるだろ」
「ん。わかった、準備するからちょっと待っててね」
そう言ってルゥフは朝食をかき込む──が、むせそうになりやめた。無理するな。
「急がなくていいぞ。準備が終わったら王都の門に集合で。」
俺も魔道具やら地図やらを準備しなきゃならないからな。よっしゃ、そうと決まれば早速準備だ!
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「お待たせー」
門の付近で待っていると、遠くから手を振りながら歩いてくるルゥフの姿が見えた。思ってたよりずっと早かった。急がせちゃったのなら悪かったな。
「おー、全然‥‥ん、わざわざ着替えたのか?」
見ると彼女は、朝着ていた服とは別の服を着ていた。上は半袖、下はかなり短めの半ズボンに、尻尾を隠すためか、腰巻をつけている。頭には大きめの帽子をかぶり、耳を隠している。
…だいぶラフな格好になったな。王都でもたまにしか見ないぞこんなの。
ていうかこれあれだ、口うるさい老人冒険者とかに「森をなめるんじゃない!」とか言われる奴だ。
「さっきのは普段着だったから…。これはクエスト用だよ。‥‥その、ほら、種族的なあれで、暑苦しい服は嫌い」
へー、獣人は薄着が好きなのだろうか? 今まで噂でしか聞いたことなかったから種族の好みとかわからないな。それにしても軽装すぎる気はするが。
「ああ…なるほどな。でもこの前森であったときはそれじゃなかっただろ?」
「む、私だって女の子なんだ、毎日同じ服は着ません。」
「はは、それもそうか。ま、とにかく、準備オーケーだな?」
「うん、おーけー!」
よし、それじゃあ‥‥
「しゅっぱーつ!」
「おー」
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「ふーん、ふふーんふーん♪ 森ーのードラゴンがーゴブーリンー片手にー♪」
森の中を歩く俺たち。ルゥフはなんかよくわからない歌を歌いながらついてくる。聞いたことないが獣人の間で流行ってる歌なのかな。
目的地まで徒歩二時間ほど。魔車を使うことも考えたが、どうもルゥフが乗り物が苦手らしく、まあ比較的近くなので歩いていくことになった。
「そういえばさ、ルゥフって武器は使わないのか?」
俺はふと気になったことを聞いた。森で会ったときも素手でゴブリンを殴ってたな。
「えっと…剣とか槍とかってすぐ折れちゃうからにがて」
すぐ折れるようなものじゃないと思うんだが。剣の腹でぶっ叩いたりしてるんじゃないか?
「でも素手で殴るのは痛くないか? 手甲とか鉤爪とかはどうだ?」
「…? たぶん鉄より私のパンチの方が頑丈だよ?」
「え」
それが本当だったら想像してたよりだいぶヤバいな。獣人は生まれつき身体能力が高いとは聞いたことがあるが、まさかそれ程とは‥‥。
それとも彼女が特別強いのだろうか。
「ね、ね、そういえばサイ、加護がわかったって」
「え? あ、ああ、そうなんだよ。なんでも他人の加護の強化ができるらしい」
「へぇー。珍しいなぁ。じゃあサイと一緒にいると調子がいいのもそのおかげかも」
と、そんな気になることを…ん?
「獣人にもやっぱり加護ってあるのか? ‥‥あ、あれだぞ、差別してるわけじゃなくて」
「えっと、加護を持ってる人もいるよ。人間に比べると少ないけど」
へえ、やっぱり加護を持ってる獣人もいるのか。教会によれば獣人は神に見捨てられた種族らしいが、当の神様はそんなつもりはないらしい。流石神様、懐がでかいな。
「あ、私もあるよ。えっとね、体が強くて頑丈になるの」
「なるほどね。そりゃ強いわけだ」
ただでさえ身体能力が高い獣人が、さらに加護でブーストされるわけか。
と、そんなことを話している間に。
「お、見えてきたな」
「わー、綺麗…」
前方から、まるで宝石のような色とりどりの葉が生い茂る山がみえてくる。
なんでも山から吹きだす魔力により葉の色がカラフルになるらしいが、詳しいことは俺も知らない。
まあ、とにかく。
「到着だ」
さて、クエスト開始としますか。