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12話 ばあちゃん


「ついたよ。ここが私の研究所だ」


 半ば無理やりといった形だったが、俺は王都郊外の、少し高くなった場所に建つ建物──彼女いわく研究所──まで来ていた。


 研究所というからには窓もないような白くて巨大で不気味な建造物とか、もしくは髑髏とか怪しげな鍋とかが置いてあるような、いかにも魔女でも住んでそうな館とかを想像していたのだが、意外にも外見はちょっと大きい普通の家だ。

 あえて言うなら屋根がやたら尖ってるのが特徴か。


「さ、遠慮はいらないよ。入ってくれたまえ」


「じゃあ…おじゃましまーす」


 俺はエイサに引っ張られるようにして、恐る恐る家の中に入る。すると、カビと埃と薬品の匂いが鼻腔を駆け抜けた。うう、正直あまり気持ちのいいものじゃない。


 外観は普通の家だったが、中に入ればなるほど、『研究所』の名にふさわしい内装だ。よくわからない薬品やら、何かわからない標本やら、魔物の素材らしきものもゴロゴロ転がっている。

 どうやら整理整頓が苦手らしいが、危険な薬品とかもあるだろうに危なくないのだろうか。


「悪いね、散らかってて。そこの机に座ってくれ。今お茶でも入れてくるよ」


 そう言ってエイサは部屋を出ていく。俺は近くにあった机に座り、改めて部屋を眺める。ほんとに解剖とかされないだろうな、と少し不安になりながらも、ふと壁際に無造作に重ねて置いてある紙切れに目が行った。


「なんだこれ。賞状か?」


 走り書きのメモ用紙並みの扱いを受けているそれらの紙切れは、どうやら何かしらの栄誉を讃えた物らしい。それも一枚や二枚ではない。


「魔研賞‥‥全魔に…賢者賞!? マジモンの天才じゃんか」


 どうやらかなりの有名人なようだ。まだ見た目的にかなり若いだろうに大したもんだ。田舎に住んでたせいでほとんど知らなかったな。今まで怪しいとか思ってたことを謝りたい。


 にしても、そんな有名ならもっとでかい研究所で大勢の助手に囲まれててもよさそうなもんだが、なぜこんなところに一人で? 今日たまたま会ってないだけで助手とかいるんだろうか。


「おまたせ。おや、なつかしいものを見てるね」


「懐かしいって、そんな昔じゃないだろ?」


「んー? そうでもないよ。たしかそれは‥‥私が67の時の…」


「ん? お前今──」


 何歳、と続けようとして思わず言葉を引っ込める。なんだかその先に触れてはいけない気がするのだ。

 魔力が豊富な場合、長生きする人は200歳くらいまでは生きるらしいが、60超えてこの見た目は流石に…。

 彼女が冗談を言ってる可能性も浮かんだが、問題はさっきの賞状だ。いくら適当に置かれていたとはいえ、数年放置しただけにしてはやけに色あせていた気がする。それこそ、数十年くらいの…


「大丈夫かい?」


「ん? ああ、なんでもない」


 エイサが声をかけたことで俺は現実に戻った。もう考えるのはよそう。

 

「さて、じゃあまず、君のことを聞かせてくれたまえ。加護も含めて、今までどんな人生を歩んできたのか、とかね」


「人生、か‥‥」


 …そんな語るようなことはないんだけどな‥‥。と思いつつも、俺は手短に話をした。



────────────────────────────────────


「──なるほどね。なかなか興味深い話だったよ」


 一通り話し終えた俺は、エイサが淹れてくれたお茶を飲み一息ついていた。すっきり甘いハーブティーだ。どうやら睡眠薬とかは入ってないらしい。まあ、当然だけど。


「君の話を聞くに、君は子供のころから加護を有している可能性が高いね」


「そもそも、加護って生まれつきじゃないのか?」


「先天的、後天的、どちらも確認されている。後天的の場合は、遅くても15歳までには備わる。それ以降は聞いたことがないね。君は今──」


「16歳だよ。でも、子供のころからってんなら、何かしらわかりやすく効果があってもよさそうなもんだけど」


 俺の住んでいた村にも加護を持ってる奴はいた。だというのに、今まで気づかなかったというのはおかしいんじゃないか、と俺がそう言うと、彼女は意外なことを言った。


「わかりやすい例ならあるよ」


「え?」


「──ジェシカ・ラウゼルの名は王都でもよく聞くよ。稀代の天才だ、とか勇者の再臨だ、とかね。懐かしいな…かつての「勇者」───エリックとは友人だった」


 たしか勇者が生きていたのは200年ほど前だった気もするが、そんなことより。彼女の名が、エイサの口から出てきたということは。

 

「まさか──」


「幼馴染ちゃんの力は、君の加護によるものだろうね」


 ‥‥マジ?

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