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11話 研究者


「はあー…すげえな…これが都会の教会か」


 俺はちょっとした用事で、王都はずれにある教会へと訪れていた。

 神を信じてない俺が訪れるのは少し抵抗があるが、まあ俺も加護を授かってるらしいし神様も許してくれるだろう。


 しかしなんともまあ立派な建物だ。広い庭に、やたらと凝った装飾と、いつまでも眺めてられそうだ。が、残念ながら感動に浸ってる暇はあまりない。

 俺は意を決して扉を開け、教会の中に入る。


「おお…」

 

 これまた見事な内装だ。外観も素晴らしかったが中はそれ以上だ。荘厳で神秘的、それでいて変に落ち着くのだから不思議なものだ。ステンドグラスが朝日に照らされ、教会が可憐な光に包まれる。本当に神様でも降りてきそうだな。


「あの、すいません」


 俺は祭壇近くにいた聖職者らしきご老人に声をかける。


「おや、あなたは…」


「おはようございます。今日は──」


「ええ、ええ、言わずともわかっております。ささ、こちらへどうぞ」


 すると、俺は事情を説明する間もなく、奥の部屋に案内された。

 部屋の中には、謎の魔道具らしき球体が置かれた机がおいてある。加護を測る装置だろうか。


「さ、どうぞおかけください」


「失礼します」


 俺が机の前にあった椅子をすすめられ、腰をかけると、ご老人は部屋から出て行った。それと入れ替わりで部屋に入ってきたのは、長い髪を後ろでまとめた、白衣を着た長身の女性だ。


「やあ、君が例の‥‥」


「サイといいます。僕の加護がどういう力なのか教えていただきたくて」


「私はエイサだ。加護について研究していてね。もしよければ色々と調べてみたいんだ」


「はい、よろしくお願いします」


「はは、固いね。ため口で結構だよ」


 エイサと名乗ったその女性は机の上の装置をなにやらいじり始める。そして小さく、よし、と呟くと、俺を正面から見つめ、


「さて、じゃあこの魔道具に手をのせて。指はそのくぼみに…そうそう。ではいくよ。心配ない、痛いのは一瞬だけだ。さあ‥‥3‥‥2…」


「え? 痛いって何が? ちょ、何のカウントっっいってぇ!」


 俺の指先にまるで針が刺さったかのような痛みが走る! 俺は慌てて手をどけようとするが、エイサが上から手を押さえつけてくる。


「大丈夫さ、もうちょっとだけだからね」


 彼女はそう言って魔道具を見つめる。つられて俺も魔道具を見ると、なんか妙な色の光を放ち出す。どことなく、ギルドで加護を測った時の宝石の光に似ている。


「よし、オッケーだ。悪かったね」


 と、そうこうしてるうちに計測が終わったらしい。痛みが走った指を見てみると、わずかに血が出ている。本当に針で刺されたらしい。結構深く刺さった感触があったのだが大丈夫なんだろうか。…まあいいか。


 次に俺は改めて魔道具を見る。魔道具は少しの間、赤やら青やら緑やら、かわるがわる違う色の光を放っていたが、最終的に白に落ち着いたらしい。眩いばかりの光を放ち、長く見てると目が痛くなるほどだ。


 結果だけ見るとギルドの宝石とほとんど同じだが、本当にこれで加護がわかるのだろうか。

 俺が不安になってエイサを見ると、彼女はどこからか取り出した用紙に何かをひたすらに書き込んでいた。


「なにかわかったのか?」


「なるほど…‥これが…‥‥‥ということは…‥‥………興味深い‥‥…」


 声をかけてみるも、すっかり集中していて聞こえてる様子もない。俺はいったいどうすりゃいいんだか。


「つまり‥‥うん、なんとなくわかったよ」


「終わったか。どうだった?」


 やっと結果がでたようなので、俺が結果を聞くと、彼女は一呼吸おいて答える。


「どうやら君の加護は───他人の加護に影響を与えるらしい」


 ──ああ、やっぱりか。元々なんとなく予想がついてたこともあってか、思いのほか喜びは少ない。無論嬉しくはあるが、俺自身が圧倒的に強くなれないことが素直に喜べない原因かな。


「そうか、ありが──」


「だが、まだわからないことも多い。例えば効果の及ぶ範囲。意図的に範囲を絞れるのか、それとも周囲を無差別的に強化するのか。そもそも強化だけなのか?弱体化は?それと効果の大きさも問題だね。例えば相手の加護が強いほど君の加護の効果も高まるかもしれない。あるいは逆かもしれない。もしくは近くにいる時間が長くなる程効果が高まるとか。それとも君と親密な関係になるほど効果が増す?君との物理的な距離によって効果に差がでる可能性もあるね。そもそもどういった原理で加護を──」


「まったまった! 一人で考え込まないでくれ!」


 つい独り言を遮る。このまま続けさせてたら日が暮れそうだ。いくら暇とはいえ、何もせず一日過ごすのは勘弁だ。


「ああ、すまないね。私の悪い癖だ。それより、このあと時間はあるかい?」


「ん…まあ暇だけど」


 俺がそう答えると、エイサはずいっと俺に顔を近づける。ふんわりといい香りがしてきた。

 そして彼女は俺の手首をがっしり掴み──


「ちょうどよかった! じゃあ今から私の研究所まで来てくれるね! よし、じゃあ行こう! すぐ行こう! 善は急げだ」


 露骨にテンションを上げて俺のことを引っ張る。ちくしょう、滅茶苦茶力が強い! …仕方なくついていくことにする。


 それにしても研究って…解剖とかされないだろうな。


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