『プレコグロ砦』.01
みろ子達を乗せた馬車が門をくぐると、やかましい程の荷車の軋みがフッと収まった。
地面を見下ろしてみると、多くの人によって踏みしめられたであろう地面が僅かに山並みになっており、大量の雨でも崩れずに水を受け流していた。
大きな一本道の両側には急造りな木造の小屋が建ち並び、各々閉じられた扉の隙間からほのかに灯りをもらしている。
そしてそれらの奥には、まるでこちらを監視するかのように高く積み上げられた城壁がぐるりと視界の端を囲っていた。
今いるこの空間閉じられたは決して狭いわけではなかったが、城壁から延びる石造りの建物やその隙間を縫って押し込められたかのような小屋の群れはみろ子を異様な圧迫感で押しつけた。
ふと、武装した集団が馬車の横を通り過ぎる。てっきりこの世界での兵隊かと思ったが、ある程度の鎧を着た者もいれば軽やかな服装だけで剣を携えている者もいて、三者三様の見た目をしたその集団はとても正規の兵とは思えなかった。
その上酔っ払っているのか、馬車を引く動物とたいして変わらない地面を蹴散らすような歩き方をしていた。
打って変わって、ちらほらと目に入る兵士らしい格好をした者たちは皆一様に鋭い目付きをしており、丈夫な壁の中だというのにまるで戦場の最前線だと言わんばかりの緊張感で職務を全うしていた。
目が合えば今にでも噛み付いて来そうな程に、周囲に気を置いているようだった。
みろ子にはおおよそ自分がこの場所で歓迎される事はないだろうと思いつつも、とにかく人のいる場所に来れた少しの安心感があった。これはおそらくみろ子の性格というより、社会で生きる人の本能なのかもしれない。
少しの落ち着きを得られたみろ子はそんな余計な思案まで出来るようになっていた。
すると馬車が次第に速度を緩め、木造の中でも割りかし立派な見てくれをした建物の前で止まった。他の建物より窓も多く、閉じられたカーテンの向こうからも人がいる事がわかる。
「ほら、到着だ」
運転席の男が言うが早いか、荷台の男たちもぞろぞろと荷物を抱えて降り始めた。
周りの景色に呆けていたみろ子がはたと気付く頃には既に皆どこかへと消えており、一人くしゃみをしながらいそいそと馬車を降りていった。
陽が既に落ちかけているのか曇り空はほとんど真っ暗闇となり、それに合わせて周りの景色もどんどんと濃い影を拡げていく。
みろ子はどうして良いか分からなかったが、取り敢えず冷えた体をなんとかしようと扉を開いた。
突然、耳を掻きむしるかの様な喧騒と、顔にまとわりつく脂ぎった異臭がみろ子の全神経を襲って来た。
およそ四十平米ほどの空間に、所狭しと先ほどの酔っ払いの様な者たちが酒を煽って騒いでいた。
中を確かめる隙もなく慌てて扉を閉めたが、鼻の奥にこびりつく臭いは彼女に吐き気と後悔をもたらした。
みろ子は騒がしい所が苦手だったのだ。