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顔合わせ

オーディションを受けてから結果の手紙が届くまでの2週間の間ずっと、私は家の近くを通り過ぎる乗り物の音に不安を覚えていた。不合格の結果を見たくない、というのが本音だった。

そして8月1日。ついに手紙が届いた。その時私は家にいたため、親が結果を知るより早く合否を知ることができた。


 封筒を丁寧に開けると、中には2枚の紙が入っていた。私が最初に見たのは、日付と集合場所の地図が書いてある紙だった。


「A駅集合 8月4日 11:00」


 もう1枚の紙には、「37番 鈴木紫保 合格」と書かれていた。


 実感は全くわかないが、正直アイドルになれたという嬉しさで、私は思わず泣いてしまった。Twitterを確認したが、爽花ちゃんは何も投稿していなかった。合格か不合格かを知る由は何もなかった。


 8月3日の夜はなかなか寝付けなかった。これからアイドルとして青春を過ごしていく期待と一抹の不安、そして実感のなさで、寝付けたのは深夜2時を回っていた。


 私は、朝起きなければいけない時はアラームを大量にセットする癖がある。起きたら6時27分だった。アラームの下の方の時間だったため、良かったという感情がまず芽生えた。


 普段は7時間ほど睡眠をとるのだが、今日は4時間半も取れていない。まあ1日だけなら大丈夫か、と自分に言い聞かせた。


 朝8時半。家にあったパンをオーブンでチンし、ピーナツバターを塗って朝食とした。流石に足りないが、まあA駅の近くのコンビニで何かを買えばいいと思った。


 今日はそこまで暑くなかったので、集合場所の最寄り駅の駐輪場まで自転車で行くことができた。

 

 駅の壁のポスターには、「ローカルアイドル結成」と書かれている。それを見ると少しずつ、此れからアイドルになるということが実感としてわいてきた気がする。


 そこまで暑くない、と言っても暑いことに変わりはない。正直あまり歩きたくないが、おなかがすいているため、駅から徒歩約5分のコンビニでおにぎりを買って食べた。


コンビニの中は涼しい。イートインスペースもあるため、私はそこで本を読みながら30分ほど時間をつぶした。


 あっという間に10時半を迎えた。あと30分。あのビルまで行くのにちょうどいい時間だ。

夏空の下を私は自分のペースでビルまで歩いた。時計は10時40分を指している。メンバーとなる人物はほかに4人いると聞いているが、今着ているのは3人。まだ一人だけいなかった。


 そして、爽花ちゃんも無事にオーディションを合格していたようだ。


「あ、爽花ちゃんだ!」


 私は彼女を認識した瞬間、色々な感情が込み上げてきた。

 

 それに対して彼女は、「オーディション通過おめでとう!これからいっしょに頑張ろう!」と、名前に恥じぬ爽やかさで微笑んだ。


 ちょっと喋ってるとすぐ、最後の一人がやってきた。

「遅れてすみません!」

 時計を見ると10時47分。遅れてはいない。


 集合時間になる前に集まったので、プロデューサーがくるまでに5人で軽く自己紹介をした。今後、私たちは人前で自己紹介をすることになる。それに慣れるために、まだ初対面の前で全員が名前と趣味を軽く話した。


 福島七海(ふくしまななみ)前田夏樹まえだなつき川上芽衣かわかみめい。初めましてだが、わずか5分で完全に打ち解けた。


 11時になった。カラフルな衣装をもって、プロデューサーが入ってきた。衣装は、黄色を基調とし、1着1着違う色がサブカラーに使われているようだった。


「みなさん、合格おめでとうございます!早速ですが、みなさんのイメージカラーが決定いたしました」


 どうやらその色は、オーディションの時の10秒の自己紹介でイメージカラーをつかみ取って決めたようだ。私は紫だった。正直名前の「紫保」から決まったんじゃないか、と思ってしまったが、別にあまり気にならなかった。


爽花ちゃんは緑。七海ちゃんは青。夏樹ちゃんはオレンジ。芽衣ちゃんはピンク。


 後ろの3人はまだあまり知らないが、とても似合っているように思えた。爽花ちゃんも私の中での色と同じだったため、3人に劣らずちょうどいい色だと感じた。

 5人でもりあがってると、プロデューサーが落ち着いてください、と言って次に続けた。


 「これから昼食の時間となります。そののちに、ここから車で3分ほどの文化会館に向かいます。そこで衣装を着替えていただきます。

 そして、初のお披露目会が行われます。単なるお披露目会ですぐ終わるので、そこまで力まずに自分の色を出せるように頑張ってください。その後ココに戻ってきて解散という流れです。

何か質問はありますか?」


 手を挙げたのは七海ちゃんだった。「どうぞ」

「そういえば、このユニットの名前は何ですか?」


 そういえば、名前はまだ発表されていなかった。友達には「アイドルのオーディション合格した!」とだけ言ってはいたが、具体的に何のアイドルか聞かれると回答に窮していた。


 プロデューサーは質問に対し、「向こうで伝えますのでそれまで待っていてください」と回答をした。5人の間に軽いどよめきが起こるが、すぐに収まった。


 「それではほかに何かありますか?」誰も反応しない。もう質問はないようだ。

時計を見ると11時半を指している。少しばかり早い気もするが、もう昼食の弁当が運ばれてきた。


「いただきます!」


 私は弁当を食べながら、先ほどの自己紹介の続きをした。爽花ちゃんと私、夏樹ちゃんが中1、芽衣ちゃんと七海ちゃんは中2だということが分かった。


「ファンに覚えてもらうためにあだ名でも決めておく?」と、七海ちゃんは提案した。私とほかの3人も同意。


 あだ名自体は割とすぐ決まった。

私は「しふぉん」。七海ちゃんは「なーなん」。爽花ちゃんは「そかか」。夏樹ちゃんは「なっきぃ」。芽衣ちゃんは苗字からとられた「かわみん」。


「プロデューサーにもこれ伝えとかなきゃ」と思った私は、1番に食べ終わった後、他の4人の同意を得てこの件を報告しに行った。


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