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オーディション

 私は、2か月前に受けたアイドルグループのオーディションの不合格通知に落胆していた。


 「あーまたか。何がいけなかったんだろう」


 嘆いたところで、不合格という現実が変わるわけではないのに、私はがっかりを抑えられなかった。幾度にも渡りオーディションを受けてきたが、すべて落ちてしまっていた。幼い頃から、私はテレビで見た人気アイドル達にずっと憧れていて、いつかあの人たちのようになりたい、と思い続けてきた。しかし、複数の落選を受け、そんな存在になるのは簡単ではないことを知った。


 私が初めて受けたのは人気ユニットの「ベリー・ジェリー」。国民的アイドルなだけあって、倍率は600倍を軽く超える。当然受かるはずもないことはわかっていた。他にも4つほど受けたが、全部結果は同じ。今回受けたのは6度目だった。


 不合格通知を手に取っていろいろ考え事をしていると、母親がチラシをもって部屋に入ってきた。


 「紫保、これはどう?」


 そのチラシには、A市のご当地アイドルのオーディション要綱が記載されていた。少子化の影響を受けて、T県A市は人が少なくなっている。読んでみると、どうやら町おこしが主な目的になっているようだった。


「これよさそうだね!」


 国民的アイドルになるのは難しいと気が付いた私は、まずはこういった地元から探ってみるという方針にした。


 7月の半ば。私の住む町から最寄り駅であるA野駅までは割と距離があり、そもそも汽車の本数も少ないので、自転車が移動手段として必須である。


 しかし、今年は例年より特に暑い。35度を超える日が多く、今日も例に漏れない。仕方ないのでバスと汽車で向かうことにした。爽やかで涼しい車両の中には、私と同じオーディションに向かっていると思われる人が数人いたが、私の臆病さのせいで、話しかけることはできなかった。

 

 目的地に着きバスを降りると、夏の厳しい日差しが体にあたった。バス降り場から駅まで100m近くはある。しかも、今日は気温が40度を超えている。そんな中を歩くのはきつかったが、駅についたら空調が良く、幾分か心が落ち着いた。


 12時41分に汽車に乗る。A野駅からオーディション会場の駅まで4駅。時間にすれば15分くらいかかる。不安と期待を抱えながら、汽車に揺られて目的の駅に到着した。


 周りにはオーディションを受けると思われる子が30人ほどいる。自信がある人が応募するからなのか、周りの子はみんな小柄・小顔で顔面が整っていた。そんな中、身長が若干高い私は自信を少しばかり失っていた。私は不安を抱えたまま、1次オーディション会場である駅前のビルに向かっていった。ビルは3階建てで、会場は2階。方向音痴でもスグ見つけることができるほど駅の近くにあった。


 2階まで階段で登った。会場の位置を伝える張り紙の指示に従って、迷わずに向かうことができたすでに20人ほど来ているようだったが、まだ集合時間までは40分ほどある。会場には椅子が100個ほど置いてある。私は指定された席番号、37番に座った。会場の席の配置から判断するに、あと来るのは50人ほどのようだ。


 隣の席に、少し小柄な子が座っていた。不安をほどくために、勇気を振り絞って、私はその子に話しかけた。

 「オーディション、自信ありますか?」

 初めて会った子にする質問としては、少し不適切だったかもしれない。しかしその子は、気にしないような表情で微笑みながら返事をしてくれた。


「実は私、あまり自信がないんですよ」

「それはみんな同じだと思えばある程度は落ち着けると思いますよ」

 私はとっさにこう返したが、それでも一瞬で落ち着くことはできなかった。


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