順和17年9月5日 2
「7, 5, 4, 1, 9, 2, 5, 3, 4」
数字が流れるのをみて私はスケッチブックに書き込んでいく。二人で同時に答えを出した。
「40」
二人とも答えが一致していた。最初はそこまで難しくない。次からが本番だろう。1つの数が0.1秒表示された。
「23, 14, 55, 61, 37」
私は自信がないので適当な数を書いた。れんれんも答えを書いていた。
「180」
二人とも数が一致した。私たちは安心した。
「正解は190でした!」
残念ながら間違っていたようだ。誤答が一致した。コメント欄ではむずwとかすごいwとか煽られている。
「難しいね、もう少しゆっくりにしてみる?」
れんれんはそう提案した。私も。そうしよう、と答えた。1個の数字が表示される時間を1秒に設定した。
「19, 71, 33, 50, 41」
数秒後、私たちはまた答える。
「214」
今回はあっていたようだ。このくらいなら計算できそうだ。コメント欄では、やっぱり理系コンビは強い、というものがあった。正直、この能力と文理はあまり関係ない気がする。
「今回は数学テーマということで、フラッシュ暗算ではなく別の数学に関することもやってみたいです」
コメント欄には数学なんて何十年も触れていないという方もいれば現役大学生で数学専攻という方もいる。れんれんは話し始めた。
「面白い数学の話があればハッシュタグ\#ヘリアンサスってどんな花」に投稿してください!
れんれんはそういった。れんれんも私も、高校数学であればだいたいわかるがそこから先は怪しいといった感じのようだ。Twitterを確認し、書かれているものを読み上げた。
「sinhxの無限積の話についてとかどうですか? しふぉんさん普段から数学の話とかしてますし,面白そうかなって」
かなり難しいテーマだ。れんれんは多分大丈夫だと思うが、視聴者の方はついてこれるのだろうか。そう思いながらXの内容を読み上げ、話し始めた。
「双曲線関数って知ってますか?」
私はそう言ってスケッチブックにグラフを描いた。多くの視聴者は知らないようだ。
「これ大丈夫なのかな」
れんれんは話す。視聴者もよくわからないと言ったリアクションが多いようだ。
「もう少し簡単なのにしましょう」
私はそう言って、SNSでアイディアをもらった。
「ベンフォードの法則」
そう書かれたウェブサイトを送ってくれた人がいた。私はそれを読み上げた。
「世界の国の人口の1番上の値、例えば540万人だったら5、1300万人だったら1、みたいに一番上の値として現れる回数が一番多いのって何か知ってますか?」
コメント欄では、知らない、全部同じじゃないの?という内容が多い。れんれんも知らないようだ。私は続きを読んだ。
「れんれんも言ってくれましたが、1が一番多いんですね。こういう人口だとか差に意味があるデータって数が多くなると1が多くなることが知られているらしくて」
実際に数えてみると、上のけたが1の国が全体の3割ほどを占めているようだった。
「$2, 4, 8, 16$ってって倍々に増やして行く時も一番上のくらいが1になるのが多いんですけど、それとにた話だと思います」
極限を取ると$\log_{10} 2$に収束するらしい。会計不正を調べるためにも使われるようだ。れんれんは、なるほど、とコメントした。コメント欄では、勉強になる、という意見が多かった。
私は初めて知った。れんれんは次の話をした。
「これは,確率の問題ですかね? またこれも理系のテーマですね」
そう言ってれんれんは次の問題を読み上げた。
「1/100で当たるガチャを100回引いた時,少なくとも当たりが出る確率はいくつか」
聞いたことがある。ネイピア数に関する話だ。記憶が確かであれば64弱だったように思う。
「これ、パチンコとかやってると頻出なんですよね」
コメント欄ではそう言った意見があった。れんれんは話す。
「例えば3回だと、1回も当たらない確率は(1-1/3)$^$3=8/27になります。4回だと同じ計算で81/256になります。この3とか4の部分を増やして行くと最終的に0.36~0.37くらいの値に収束することが知られています。これは1回も当たらない確率なので、1回は当たる確率はこれから1を引いたものになります」
れんれんは聞いたことがある程度だったようだ。50パーセントにするには大体分母の7割ほど試行すれば良いらしい。
「この0.36って数の逆数が有名なネイピア数という数で、その値はおよそ2.71です。これは結構いろんなところに出てくる定数ですね」
れんれんは話す。私は知っているが、コメント欄では多くの人が知らないと言っていた。
「さっきここ(1-1/3のところ)にマイナスと書きましたが、ここをプラスにして3とか4とかを大きくして行くと2.71となります」
そこまで難しすぎる話ではないが、コメント欄がついて行けているか心配だ。
「もっとわかりやすい話ないですかね」
れんれんはそう言った。すると数十秒後、くじの確率の話が送られてきた。れんれんは読み上げる。
「また確率の話ですが、10本入っているくじの中に1本だけあたりが入っています。何番目にくじを引くと一番当たりやすいでしょうか?」
確か中学校の頃これに関する問題が出た記憶がある。確か何番目に引いても同じだったはずだ。自分はそんなことを話た。
「その通りで、何番目に引いても確率は同じです。では、心理的には何番目に引くべきでしょうか?」
れんれんはそう言った。これは答えが簡単には出せない問題だ。最初でも最後でも確率が同じであることを理解した上で、個人的には真ん中よりちょっと後に弾きたいと感じる。
「僕はもう最初の方に引いちゃいたいですね」
れんれんはそう言った。コメント欄でも、「残り物には福がある」精神と「早い者勝ち」精神が拮抗していた。真ん中くらいが良いって言っている人もいるようだ。
「なるほど、あくまで価値観の問題ですがこういう答えでない問題って面白いですよね」
心理的な問題ではあるていど性格によって答えが変わってくることもあるので、数学的には直接は扱えない。もちろん統計やデータの処理などで統計の知識は必要だろうが...。
みんなの前で数学の話ができるのが楽しい。私はいろいろ話したいネタがあるので、視聴者からの意見も参考に面白そうな話をピックアップした。
「これ、みんな知ってるのかな」
そう言ってれんれんはタブレットを見せてくれた。そこには0.999...=1の話が書いてあった。YouTubeでアンケート機能も使えるので、せっかくだからこの話をしてみようと思った。
「0.999...と1はどっちの方が大きいですか?」
選択肢は3つ。2つの選択肢に加え、「どちらも同じ」というものだ。1分間投票を行う。40人程度が答えてくれた。
「0.999...が3パーセント、どちらも同じが37パーセント、1が60パーセント」
「実はこの2つ、同じ数なんですね」
私はそう言った。コメント欄には、小学生の頃習った記憶があるとか、これ納得いっていないというものがあった。
「おそらく皆さんは$0.999\cdots<1$だと思っていると思うのですが、$0.333\cdots \times 1/3$の両辺を3倍据えれば等しくなりますね」
私は小学生の頃これで納得した記憶がある。ただこれで全員が納得できるかと言われれば怪しいだろう。
「でも、$1$の方が大きいというなら、具体的にどれだけ大きいのか?って聞かれると答えられないですよね、それか『1より小さい最大の実数』みたいになるかもですが」
れんれんは話した。コメント欄では、難しい、と言った感想が多い。
「ちょっと難しい話が続いてて申し訳ないです」
知的な感じの女の子が好きという意見もあった。こういう話が好きだとか、もっと聞いていたいという意見もあるようだ、
「ありがとうございます、聞いてくれて。何か面白い話とかああればどうぞ」




